第27話「虎が、都市へ向かう」
光が、
弾けた。
虎(……着いたか)
だが。
虎「……ステラ」
ステラ「はい、ここにいます」
虎「アップルは」
ステラ「……いません」
二人だけだった。
周りを見た。
高い建物が、
空を切り取るように並んでいた。
道が石畳ではなく、
黒く滑らかな素材で舗装されている。
光る看板が、
夜でも昼のように街を照らしていた。
虎(……一万年前には、なかった種類の街だ)
道を、
人が歩いていた。
人間だけではなかった。
ステラと似た、
人形の姿をした存在が、
普通に歩いている。
買い物をしている。
人間と並んで話している。
ステラ「……ヒューマノイドが、普通にいますね」
虎「ああ」
ステラ「私と同じような存在が、この街では当たり前なのですね」
ステラはしばらく、
道行くヒューマノイドを見ていた。
ステラ(……不思議な感覚だ)
ステラ(今まで、私と同じような存在に会ったことがなかった)
通行人の一人が虎を見て、
二度見した。
通行人「……虎!? でかい!!」
虎「そうか」
通行人「なんで虎がいるんだ……コスプレか?」
虎「違う」
通行人「……本物か」
虎「本物だ」
通行人は少し固まってから、
足早に去った。
ステラ「虎様、目立っています」
虎「いつものことだ」
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とりあえず、
大通りを歩いた。
ステラ「アップルさんとはぐれました。連絡手段を確認する必要があります」
虎「あいつのワープが失敗したのか」
ステラ「おそらく。消耗していましたから」
虎「そうか」
ステラ「街の情報を集めながら、合流場所を探しましょう」
虎「ああ」
大通りの両側に、
色々な店が並んでいた。
食べ物の屋台、
魔道具の店、
音楽が流れている店。
ステラ「……ナイトポップシティーというだけあって、夜でも明るいですね」
虎「眠らない街か」
ステラ「そのようです。看板の光、建物の光、全部が魔力で動いているようです」
虎は建物を見上げた。
虎(この街の技術は、今まで見た街とは別格だ)
虎(一万年前の世界と、今の世界の差より、さらに先にある感じがする)
大きな画面が、
建物の壁に映し出されていた。
五人の少女が、
歌って踊っている。
ステラ「……あれは」
虎「アップルか」
画面の中に、
見知った黒髪の少女がいた。
他に四人いる。
それぞれ、
髪の色が違った。
画面の下に、
文字が流れていた。
ステラ「プリンシパルプリンシパル、と読めます。アイドルグループのようです」
虎「あいつ、アイドルだったのか」
ステラ「……知らずに来ましたね」
虎「面白いな」
ステラ「どうやって合流しますか」
虎「あいつが探してくれるだろ。ワープできるんだから」
ステラ「……楽観的ですね」
虎「それまで、街を見る」
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路地に入ると、
小さな食堂があった。
カウンターだけの、
狭い店だ。
店主が、
ヒューマノイドだった。
白い肌に、
青い目。
エプロンをしていて、
手際よく料理を作っている。
店主「いらっしゃい。……あら、虎ね。珍しい」
虎「入っていいか」
店主「もちろん。何にする?」
虎「うまいものをくれ」
店主「……わかりやすい注文ね」
ステラが店主を見た。
ステラ「あなたも、ヒューマノイドですか」
店主「そうよ。あなたも?」
ステラ「はい」
店主「どこから来たの。この街のヒューマノイドじゃないでしょ。型が古い」
ステラ「……遠いところから来ました」
店主「そう。まあ、ゆっくりしていきなさい」
しばらくして、
料理が出てきた。
平たい麺に、
濃い色のスープがかかっている。
上に、
薄切りの肉と、
卵と、
香草が乗っていた。
虎は一口、スープを飲んだ。
虎「……」
濃い。
だが、くどくない。
豚骨に似た旨みだが、
それより複雑な層がある。
魔力を帯びた食材を使っているのか、
後味に、
じんわりとした力強さが残った。
麺はもちっとして、
スープをよく吸っている。
肉は薄いが、
噛むと旨みが出てきた。
虎「……うまい」
店主「ありがとう。この街の定番よ、これ」
虎「どこでも食えるか」
店主「夜中でも開いてる店が多いから、いつでも食べられるわよ」
ステラも食べた。
ステラ「……複雑な旨みですね。何が入っていますか」
店主「魔力骨とスパイスよ。レシピは秘密だけど」
ステラ「……そうですか」
ステラは麺をすすりながら、
店主を見た。
ステラ「この街で暮らして、長いですか」
店主「十年ね。人間と変わらない暮らしよ。税金も払うし、選挙にも行く」
ステラ「……そうなのですか」
店主「あなた、ヒューマノイドが市民として生活してるの、初めて見た?」
ステラ「はい」
店主「この街では普通よ。まあ、最近ちょっときな臭いけどね」
虎「きな臭い、とは」
店主「……変なヒューマノイドが増えてる。目がおかしいやつ。人間に突っかかるやつ」
ステラ「ウイルス、ですか」
店主「……知ってるの?」
ステラ「噂程度に」
店主「街の人は、あまり大ごとに思ってないけど。私は怖いわ。同じヒューマノイドが、変になっていくのは」
ステラが静かに言った。
ステラ「……わかります」
店主は少し、
ステラを見た。
それから、
また料理に戻った。
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食堂を出ると、
空気がぶれた。
アップル「いたーーー!!」
光が収束して、
アップルが現れた。
息が、
また荒い。
アップル「どこ飛んだの!? 探したんだよ!?」
虎「お前のワープが失敗したんだろ」
アップル「……ちょっとだけ計算ミスした」
ステラ「おおむね、大きなミスだったと思いますが」
アップル「おおむね、ってなに……?」
アップルは虎とステラを見た。
アップル「でも、無事でよかった。迷子になってたらどうしようかと思って」
虎「迷子にはならない」
アップル「……なんで」
虎「面白いものを見ながら歩いていたからだ」
アップルは少し、
呆れた顔をした。
アップル「……のんきだね」
虎「そうか」
アップル「とりあえず、メンバーと合流しよう。説明したいことがたくさんあるから」
虎「ああ」
アップルが歩き出した。
その背中を見ながら、
ステラが虎の隣に並んだ。
ステラ「虎様」
虎「何だ」
ステラ「この街、面白そうですね」
虎「ああ」
ステラ「……私も、そう思います」
夜の街が、
光に溢れていた。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「アップルさんと合流できました」
虎「街を少し見た」
ステラ「ヒューマノイドが普通に暮らしている街でしたね」
虎「お前と同じような存在が、たくさんいた」
ステラ「……不思議な感覚でした」
虎「そうか」
ステラ「……同じような存在がいる、というのが、こんな感覚なのかと」
虎「どんな感覚だ」
ステラ「……うまく言えませんが、悪くなかったです」
虎「そうか」
ステラ「次回、『虎が、プリンシパルプリンシパルと会う』」
虎「五人全員か」
ステラ「はい。アップルさん以外の四人と、初めて会います」
虎「どんな奴らだ」
ステラ「……聞いてからのお楽しみです」
虎「お前が知らないのか」
ステラ「……おおむね、私もまだ情報が足りていません」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」




