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虎無双、虎無双。  作者: BB
2章

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26/97

第26話「虎が、エンド島を歩く」

エンド島の港に着くと、

霧が嘘のように晴れた。


虎「……明るいな」

ステラ「霧の中とは、全然違いますね」


空が青かった。


緑が深く、

鳥の声がする。

港には、

数軒の家があるだけだ。


船乗り「一泊したら、また戻る。それまでは自由にしていい」

虎「わかった」


船乗りが虎を見た。


船乗り「……霧の中で何かあったか。船が揺れた」

虎「少し、戦った」

船乗り「霧の中で戦う人間は、初めて見た。大丈夫か」

虎「問題ない」

船乗り「……そうか。まあ、島を楽しんでくれ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


島の道は細く、

草が両側から迫っていた。


虎「歩くか」

ステラ「はい」


二人で、

島の奥へ向かった。


ステラ「……静かですね」

虎「ああ」

ステラ「霧の中も静かでしたが、あちらは張り詰めた静けさで、こちらは穏やかな静けさです」

虎「違うな」

ステラ「……同じ静かでも、中身が違います」


木々の間から、

光が差し込んでいる。


葉が揺れるたびに、

光が揺れた。


虎(一万年前、こういう場所をよく歩いた)


虎(だがあの頃は、静けさが重かった)


虎(今は、軽い)


ステラ「虎様」

虎「何だ」

ステラ「霧の中の過去の私、倒しましたが」

虎「ああ」

ステラ「……少し、可哀想でした」

虎「そうか」

ステラ「あの頃の私は、何も知らなかったので」

虎「何を」

ステラ「食べ物のうまさも、旅の面白さも、虎様のことも」


虎は少し黙った。


虎「……それは、俺も同じだ」

ステラ「虎様も、ですか」

虎「あの頃の俺は、何もなかった。面白いものも、うまいものも、話す相手も」


ステラ「……今はあります」

虎「ああ」

ステラ「……よかったです」


鳥が、

頭上を飛んでいった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


島の奥に、

小さな泉があった。


透き通った水が、

静かに湧いている。


虎「……きれいだな」

ステラ「地図には載っていませんでした。あまり人が来ないからでしょうか」


虎は水に手を入れた。


冷たかった。


一口飲んだ。


すっきりとした、

癖のない水だった。

冷たさが、

喉を通り抜けていく。

後味に、

ほんのかすかな甘みがあった。


虎「……うまい水だ」

ステラ「水が、うまいのですか」

虎「水にも、うまいまずいがある」


ステラも手に取って、

口に含んだ。


ステラ「……確かに。甘みがありますね」

虎「ああ」

ステラ「なぜでしょう」

虎「地下で何か特別なものを通ってきているんだろ。ミネラルか、魔力か」


二人で、

泉の前に座った。


しばらく、

何も言わなかった。


風が木々を揺らした。


鳥の声がする。


ステラ「……いい場所ですね」

虎「ああ」

ステラ「旅をしていると、こういう場所に出会えますね」

虎「そうだな」

ステラ「地図にない場所が、一番いいことが多い気がします」

虎「急がないからだろ」

ステラ「……そうかもしれません」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夕方、

港の近くの家で、

島の老人が食事を分けてくれた。


老人「旅人か。珍しい。この島に来る人間は少ないからな」

虎「霧のせいか」

老人「そうだ。でも、来る人間はたいてい、何かを見て変わって帰る」

ステラ「変わって、ですか」

老人「悪い変わり方じゃない。自分の昔を見ると、今がわかる。そういうことだよ」


老人が出してくれたのは、

島で取れた貝の炊き込みご飯だった。


貝の旨みが染みたご飯で、

上に刻んだ香草が乗っている。


虎は一口食べた。


虎「……」


貝の出汁が、

ご飯の一粒一粒に染みていた。

滋味深い旨みで、

派手さはないが、

食べ続けられる味だ。

香草の青い香りが、

アクセントになっている。

島の素朴な食事だったが、

それがかえって、

心に沁みた。


虎「……うまい」

老人「島の飯は、そんなもんだよ。派手じゃないけど、飽きない」

虎「それがいい」


老人は笑った。


老人「霧の中で何かあったか。二人とも、少し顔が違う」

虎「昔の自分と会った」

老人「……そうか。みんな、そういうものを見る」

ステラ「虎様のは、つまらなそうな顔をしていました」

老人「今は違うのか」

虎「違う」

老人「……それならよかった。また来てくれ」

虎「機会があれば」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜、

港の石段に座った。


海が、

月明かりに光っていた。


ステラ「虎様」

虎「何だ」

ステラ「おおむね、いい旅でしたね。海の旅」

虎「おおむね、か」

ステラ「おおむね、です。霧の中は大変でしたが」

虎「あれも悪くなかった」

ステラ「……虎様は本当に、何でも面白がりますね」

虎「面白くないものは、少ない」


波の音が続いた。


ステラ「明日、船で戻りますね」

虎「ああ」

ステラ「次はどこへ向かいますか」

虎「決めていない」


その時だった。


空気が、

ぶれた。


ステラ「……虎様」

虎「わかってる。何かが来る」


光が、

点滅するように現れた。


それが広がって、

人の形になった。


少女だった。


年は十六、七か。

つやのある黒色の髪に、

きらきらとした赤い衣装を着ている。

息が、

荒い。


少女「……いた! 虎! 虎っていう人、あなた?!」


虎「そうだ」


少女「よかった……! 探してたんだよ、ずっと!」


少女が膝に手をついた。


少女「お願い、助けてほしいの。私、アップルっていって……ナイトポップシティーから来たんだけど、街がやばいことになってて……!」


虎はアップルを見た。


虎(ワープ魔法か。かなりの距離を飛んできた。消耗している)


虎「詳しい話は後でいい。今は休め」

アップル「でも……!」

虎「休め」


アップルは少し黙った。


それから、

ぺたりと石段に座り込んだ。


アップル「……ありがとう」


ステラがアップルに水を差し出した。


ステラ「どうぞ」

アップル「……人形、なの?」

ステラ「はい」

アップル「……しゃべる。すごい」

ステラ「よく言われます」


虎は海を見た。


虎(ナイトポップシティー、か)


虎(聞いたことのない名前だ。面白そうだな)


虎「行こう」

ステラ「ナイトポップシティーに、ですか」

アップル「え?いいの?まだ何にも説明してないんだけど…」

虎「ああ、かまわない」


虎の口の端が、

上がった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラ「次回予告です」

虎「ああ」

ステラ「アップルさんが来ました」

虎「面白そうな話を持ってきた」

ステラ「詳細はまだ聞いていませんが」

虎「それでも行くか、という話だ」

ステラ「……行くのですか」

虎「面白そうだから」

ステラ「……やはりそれですか」

虎「それ以外の理由が必要か」

ステラ「……いいえ。おおむね、それで十分です」

虎「おおむね、か」

ステラ「おおむね、です」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌朝。


アップル「じゃあ、行くよ! ワープ、発動!」


光が広がった。


三人を、

光が包んだ。


さて


虎(どんな場所だ)


光が、

弾けた。


ーーー次回、『虎が、都市へ向かう』

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