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虎無双、虎無双。  作者: BB
2章

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23/92

第23話「虎が、海を渡る」

シーソルの港に、

船が並んでいた。


漁船、

商船、

それから島伝いの渡し船。


虎「あれか」

ステラ「はい。東の島々を経由する定期便です。次の出港は明朝です」


船乗りの一人が、

虎を見て固まった。


船乗り「……乗るのか、あんた」

虎「そうだ」

船乗り「……虎が、船に乗るのか」

虎「問題あるか」

船乗り「……ないけど。前にも一度、でかい獣人が乗ったことあったし。まあ、いいか」


ステラ「チケットを二枚お願いします」

船乗り「……人形も乗るのか」

ステラ「はい」

船乗り「……ノースピアの冒険者が言ってた、人形と虎のコンビって、あんたらか」

ステラ「おおむね、そうかもしれません」

船乗り「噂になってるぞ。雪像大会で圧勝したとか、山道を一か月歩いてきたとか」

虎「そうか」

船乗り「……変わった旅人だな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌朝、

船が出た。


甲板に出ると、

潮風が吹いた。


虎「……いいな、海は」

ステラ「シーソルにいる間も、毎日海を見ていましたね」

虎「飽きない」

ステラ「虎様が飽きないと言うのは、珍しいですね」


シーソルの街が、

遠ざかっていく。


白い壁の建物が、

小さくなっていった。


ステラ「今回の航路ですが、三つの島を経由します。最初の島はカラロ島、二つ目はミドル島、三つ目は東端のエンド島です」

虎「それぞれ、どんな島だ」

ステラ「カラロ島は漁業の島。ミドル島は交易の中継地点。エンド島は……記録があまりありません」

虎「記録がない、か」

ステラ「古い地図には載っていますが、近年の記録がほとんどないようです」

虎「面白そうだな」

ステラ「……私はおおむね、心配しています」

虎「おおむね、か」

ステラ「おおむね、です」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


昼過ぎに、

カラロ島が見えてきた。


小さな島だった。

緑が濃く、

岩の多い海岸線が続いている。


港に着くと、

漁師たちが網を干していた。


漁師「……珍しい旅人だな。虎と人形か」

虎「そうだ」

漁師「どこへ行く」

虎「東へ」

漁師「エンド島まで行くのか」

虎「経由するだけだ」

漁師「……そうか。気をつけろよ」


漁師が少し、

声を落とした。


漁師「最近、エンド島の方から変な霧が出るって話があってな。船が近づくと、方向がわからなくなるらしい」

ステラ「変な霧、ですか」

漁師「昔からある話だけど、最近特にひどいって漁師仲間が言ってた。俺はエンド島には近づかないようにしてる」


虎(霧か)


虎(面白い)


ステラ「……虎様、今、面白いと思いましたね」

虎「なぜわかる」

ステラ「耳が動きました」

虎「……そうか」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


カラロ島で、

一泊することになった。


ステラが島の食堂に入った。


ステラ「カラロ島の名物を教えてもらいました。魚の塩釜焼きです」


しばらくして、

丸ごとの魚が、

塩の塊に包まれたまま運ばれてきた。


船員が、

ハンマーで塩の塊を割った。


中から、

白い湯気が立った。


虎は身を取り出して、

一口食べた。


虎「……」


塩がほどよく染みている。

だが、しょっぱくはない。

塩釜の中で蒸されたことで、

魚の旨みが全部内側に閉じ込められていた。

身はしっとりとして、

ほぐれるように柔らかい。

嚙むたびに、

濃い旨みが出てくる。

海の魚なのに、

重くなく、

食べ続けられる味だった。


虎「……うまい」

ステラ「塩釜は、外側が蓋の役割をするので、旨みが逃げないそうです」

虎「なるほど。理にかなっている」


ステラも食べた。


ステラ「……確かに。旨みが、凝縮されていますね」


食堂の主人が、

嬉しそうに見ていた。


主人「久しぶりに、うまそうに食べる旅人が来たな」

虎「うまいからだ」

主人「……そういう旅人が、一番好きだよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜、

港の近くの宿に泊まった。


窓から、

星が見えた。


ステラ「虎様」

虎「何だ」

ステラ「エンド島の霧、どう思いますか」

虎「行ってみればわかる」

ステラ「それだけですか」

虎「ああ」


ステラはしばらく黙った。


ステラ「……虎様は、知らないものに対して怖いとは思わないのですか」

虎「怖い、か」


虎は少し考えた。


虎「一万年前、初めて竜と戦ったとき、少し怖かった」

ステラ「……そうなのですか」

虎「見たことのない相手だったからだ。だが、戦ってみたら、たいしたことはなかった」

ステラ「……それで、怖くなくなったのですか」

虎「怖さより、面白さの方が勝った。そういうことだ」


ステラはまた黙った。


ステラ「……なるほど」

虎「何だ」

ステラ「虎様は、怖くないのではなく、面白い方が大きいのですね」

虎「そういうことかもしれない」


波の音が聞こえた。


ステラ「明日はミドル島です」

虎「ああ」

ステラ「エンド島は、その次です」

虎「ああ」

ステラ「……楽しみですか」

虎「ああ」


ステラは窓の外を見た。


ステラ(……虎様が楽しみにしているなら、私も楽しみにしよう)


ステラ(怖さより、面白さの方が大きい方が、旅はいい)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラ「次回予告です」

虎「ああ」

ステラ「カラロ島を出て、ミドル島へ向かいます」

虎「交易の島か」

ステラ「はい。人が多いようです」

虎「賑やかそうだな」

ステラ「虎様は賑やかな場所、嫌いじゃないですよね」

虎「ああ」

ステラ「その後はエンド島です」

虎「霧の島か」

ステラ「……霧の島、という名前ではありませんが」

虎「そう呼ぶことにした」

ステラ「……虎様が名前をつけるのは珍しいですね」

虎「気に入ったからだ」

ステラ「次回、『虎が、ミドル島に寄る』」

虎「何かあるか」

ステラ「ミドル島で、少し面白いことが起きるかもしれません」

虎「おおむね、か」

ステラ「今回はおおむねなしで、確実に面白いことが起きます」

虎「確実か」

ステラ「はい」

虎「珍しいな、お前がそこまで言うのは」

ステラ「……たまには、引っ張ります」

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