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虎無双、虎無双。  作者: BB
2章

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21/82

第21話「虎が、肉体火力修行をする」

ノースピアを出た朝、

空は曇っていた。


虎「南へ向かう」

ステラ「シーソルまで、徒歩でおおむね一か月かかります。険しい山道が続きます」

虎「それでいい」

ステラ「……それが修行ですか」

虎「そうだ。実際の虎は、自然の中で自身を鍛える。険しい地形を進み続けることが、肉体そのものを鍛える」

ステラ「なるほど。では私は」

虎「乗れ」

ステラ「……また背中に、ですか」

虎「今回は違う」


虎は手のひらに、

魔力を集めた。


細い鎖が、

光の粒から現れた。


ステラ「……魔力鎖ですか」

虎「魔力細部修行の成果だ。以前の俺には、こんな細かい制御はできなかった」


鎖がステラの腰と、

虎の背を繋いだ。


しなやかな鎖だった。

ステラが動くたびに、

自然に伸び縮みする。


ステラ「……負荷が、ほとんどありません」

虎「そうだ。お互いの動きに合わせて調整している。乗るというより、繋がっている感じだ」

ステラ「……魔力細部修行の成果ですね」

虎「ああ」


ステラは虎の背に収まった。


ステラ(……前とは違う感触だ)


ステラ(鎖が、呼吸するように動いている)


虎「行くぞ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


山道に入ると、

すぐに傾斜が急になった。


岩が露出した道。

雪が残る稜線。

風が、

横から叩いてくる。


虎は止まらなかった。


ステラ「……虎様、ペースが落ちませんね」

虎「これぐらいなら問題ない」

ステラ「傾斜が四十度を超えています」

虎「そうか」


虎(体が重くなる感触がある。これが修行になっている)


虎(険しければ険しいほど、体への負荷が増す。それでいい)


稜線を越えると、

岩場になった。


虎は四肢を使って、

岩を登った。


ステラ「鎖が伸びています。大丈夫ですか」

虎「大丈夫だ」

ステラ「……虎様が岩を登るのを、間近で見るのは初めてですね」

虎「そうか」

ステラ「……しなやかですね」

虎「褒めているのか」

ステラ「……事実を述べています」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


三日目。


道の先に、

巨大な岩が立っていた。


虎が見上げた。


虎(高さは……十五メートルはあるか。幅も相当だ)


ステラ「……何かしますか」

虎「試してみたいことがある」

ステラ「何でしょう」

虎「魔力細部修行での勝利から考えていた」

虎「ステラの演算能力で魔法式を組み、俺は魔力と火力に専念する」

虎「やってみる」

ステラ「……今ですか」

虎「お試しだ。あの岩を対象にする」


ステラは少し間を置いた。


ステラ「……わかりました。私が魔法式を組みます。虎様は、私が合図したら魔力を流してください」

虎「ああ」


ステラの目が、

わずかに光った。


ステラ「魔法式、組み上げました。……いきます」

ステラ「今です」


虎は魔力を流した。


ズバァァ。


音が、

山に響いた。


光が走った。


岩が、

中央から割れた。


そのまま、

崩れた。


粉塵が広がる。


ステラ「……」

虎「……」


二人で、

しばらく黙っていた。


ステラ「……お試しでしたね」

虎「ああ」

ステラ「……お試しで、十五メートルの岩が消えました」

虎「そうだな」

ステラ「……想定の三倍以上の出力が出ました」

虎「そうか」


虎(火力に専念できると、これほど変わるのか)


虎(ステラが式を組む。俺が力を流す。それだけで、このぐらい出る)


ステラ「虎様」

虎「何だ」

ステラ「……私、魔力細部修行で虎様に勝って、少し調子に乗っていたかもしれません」

虎「なぜだ」

ステラ「これを見ると、虎様の強さは別次元だと、改めてわかります」

虎「お前が強かったのは本当だ。俺が弱かったわけではない」

ステラ「……それは、どういう意味ですか」

虎「将棋の盤の上では、お前が強かった。それだけだ。強さには種類がある」


ステラはしばらく黙った。


ステラ「……そうですね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


十日目。


山の中腹で、

大型の魔物に遭遇した。


熊に似た体格だが、

体全体が岩で覆われていた。


ステラ「ロックベアです。Bランク相当の魔物です」

虎「邪魔だな」


虎は一歩踏み出した。


ロックベアが咆哮した。


虎は右腕を振った。


どごん。


ロックベアが、

吹き飛んだ。


岩の表皮が、

砕けた。


ステラ「……」

虎「次行くぞ」

ステラ「……はい」


ステラ(肉体修行の成果が、もう出ている)


さらに三日後、

今度は翼竜型の魔物が現れた。


ステラ「ウィングドレイクです。Aランク下位です」

虎「少し面白そうだ」


虎は跳んだ。


空中で翼竜と組み合って、

そのまま地面に叩きつけた。


どごん。


地面が、

えぐれた。


翼竜が動かなくなった。


ステラ「……虎様、鎖の負荷は」

虎「なかった」

ステラ「私も感じませんでした。魔力鎖、うまく機能しています」

虎「そうだな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一か月が経った頃、

道が下り始めた。


ステラ「標高が下がってきました。気温も上がっています」

虎「南に来たな」

ステラ「はい。シーソルまであと三日ほどかと」


山道が終わると、

緑が増えた。


木々の間から、

海が見えた。


虎「……海か」

ステラ「シーソルは港町です。北の街と全然違いますね」

虎「ああ」


温かい風が吹いた。


虎(ノースピアの雪道から、一か月。体が、確かに変わった)


虎(重さへの慣れが違う。足の入り方が違う。体の芯が、以前より太い)


ステラ「虎様」

虎「何だ」

ステラ「体の変化は感じますか」

虎「ある」

ステラ「どのような」

虎「地面の感触が変わった。踏み込むたびに、以前より力が地面に伝わっている気がする」

ステラ「……それは、肉体火力修行の成果ですね」

虎「そうだろうな」


シーソルの街が、

近づいてきた。


白い壁の建物が、

海沿いに並んでいる。

潮の匂いがした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


シーソルの食堂に入った。


港町らしく、

海鮮料理が並んでいた。


ステラ「今日はここにしましょう。この街の名物は、魔力珊瑚に生息する魚を使った料理だそうです」


運ばれてきたのは、

透き通った白身の刺身と、

香草で蒸した丸ごとの魚だった。


虎は刺身を一口食べた。


虎「……」


淡白だが、

深い。

臭みが全くなく、

嚙むほどに甘みが出てくる。

魔力珊瑚の影響か、

後味にかすかな輝くような感触が残った。

蒸し魚は、

香草の青い香りが全体を包んでいて、

身がふわりとほどける。

塩だけで食べているのに、

旨みが何層もあった。


虎「……うまい」

ステラ「一か月ぶりのちゃんとした海鮮ですね」

虎「そうだな」


ステラも食べた。


ステラ「……北の食事とは全然違いますね」

虎「ああ。重さがない」

ステラ「でも、物足りなくはない」

虎「不思議だな」


二人でしばらく、

静かに食べた。


海の音が、

外から聞こえてくる。


ステラ「虎様」

虎「何だ」

ステラ「一か月、よく歩きましたね」

虎「お前もよく揺れに耐えた」

ステラ「鎖のおかげです」

虎「そうだな」


ステラは蒸し魚を一口食べた。


ステラ「……南の街は、食べ物も違いますね」

虎「ああ。世界は広い」

ステラ「……まだまだ、知らないものがありますね」

虎「それがいい」


虎は二杯目の刺身に手を伸ばした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラ「次回予告です」

虎「ああ」

ステラ「シーソルに着きました」

虎「港町だな」

ステラ「海がある街は、しばらくぶりです」

虎「クラーケンの船以来か」

ステラ「……あれは海の上でした」

虎「似たようなものだろ」

ステラ「全然違います」

虎「そうか」

ステラ「ところで虎様」

虎「何だ」

ステラ「今回の魔力鎖で繋いだ状態ですが」

虎「ああ」

ステラ「名前をつけてもいいですか」

虎「……好きにしろ」

ステラ「合体モードにします」

虎「……合体」

ステラ「はい。合体モードです」

虎「そのままだな」

ステラ「わかりやすい名前の方がいいと思いまして」

虎「……まあ、いい」

ステラ「今後も合体モードを使う場面があるかもしれません」

虎「そうかもしれないな」

ステラ「次回、『虎が、シーソルを歩く』」

虎「地味だな」

ステラ「地味でいいと思います」

虎「なぜだ」

ステラ「たまには、何も起きない話があってもいいので」

虎「……そうかもしれない」

ステラ「ご期待ください」

虎「お前に言われると、何か起きそうだが」

ステラ「……おおむね、何も起きません」

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