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虎無双、虎無双。  作者: BB
2章

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18/70

第18話「虎が、次の獲物を探す」

双峰の山域を下りて、

三人でノースピアに戻った。


コウ「……いや、本当に一発だったな」

虎「そうか」

コウ「炎魔法、一発だぞ。アイスフェニクスより手ごわいって話だったのに」

虎「炎に弱かった」

コウ「弱かったって話じゃないと思うんだけど……」


ステラ「ミスリルリザードは炎属性への耐性が低い魔物です。虎様の魔法火力が上がっていたこともあり、おおむね一撃で仕留められる条件が揃っていました」

コウ「おおむね、って言うけど。虎の炎魔法一発で、Aランク魔物が消し炭になったんだよ」

虎「うるさかったから早く終わらせた」

コウ「鳴き声がうるさかっただけで、か」


虎(それだけではないが、口には出さなかった)


虎(魔法火力の向上を感じた。あの感触は、まだ伸びる)


問題は、

その後だった。


ステラ「……剥ぎ取りができません」

コウ「表皮が硬すぎて、俺の剣が跳ね返されたな」


ミスリルリザードの亡骸が、

地面に横たわっていた。


体長は三メートルほど。

全身がミスリル鱗で覆われていて、

金属のような光沢がある。


虎「俺が切るか」

ステラ「虎様が切ると……」

虎「綺麗な切れ味にならない可能性がある、か」

ステラ「はい。食材として処理するなら、適切な解体が必要です」

コウ「俺の剣も跳ね返されるし。ギルドに持ち込むか?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ギルドの受付に、

ミスリルリザードの亡骸を持ち込んだ。


受付「……これ、ミスリルリザードですか」

虎「そうだ。解体を頼みたい」

受付「申し訳ありませんが、当ギルドでは解体不可です」

コウ「え、なんで」

受付「ミスリル鱗の硬度が高すぎて、通常の解体器具では歯が立ちません。過去に試みた職人が器具を三本折っています」

虎「そうか」

受付「ミスリルリザードの解体ができる方は、この街には……」


受付が少し言いよどんだ。


コウ「いるんですか、できる人」

受付「……一人だけ。ただ、その方は」


受付がまた黙った。


コウ「その方は?」

受付「……かなり、気難しい方で。ギルドからも過去に依頼を断られていまして」


コウが虎を見た。


コウ「行くしかないな」

虎「そうだな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


チェブルの店は、

ノースピアの外れにあった。


コウ「……看板、出てないな」

ステラ「住所はここのはずです」


古い建物だった。

窓に明かりはある。

煙突から、

細く煙が出ている。


コウ「噂によると、相当な偏屈物らしいぞ。街で一番うまい魔物料理を作れるのに、気に入らない客には材料を投げつけて追い返すって」

虎「投げつける、か」

コウ「俺、なんか嫌な予感がするんだけど」


ステラがドアをノックした。


しばらく沈黙。


それからドアが、

勢いよく開いた。


ドアの向こうに、

小さな人影が立っていた。


身長は百三十センチほど。

黒いシルクハットに、

黒い紳士服。

白いひげと白い髪が、

顔のほとんどを覆っていて、

目だけがぎろりと光っていた。


チェブル「……なんだ、客か」


しわがれた声だった。


コウ「あ、はい。ミスリルリザードの解体をお願いしたくて」


チェブルがコウを見た。

それからステラを見た。

それから虎を見た。


チェブル「……でかいな、お前」

虎「そうか」

チェブル「虎か」

虎「ああ」

チェブル「ミスリルリザードを持ってきたのか」

虎「そうだ」

チェブル「どこで仕留めた」

虎「双峰山域の南側だ」

チェブル「どうやって倒した」

虎「炎魔法一発だ」


チェブルが、

黙った。


長い沈黙だった。


チェブル「……炎魔法一発で、か」

虎「ああ」

チェブル「嘘をつくな」

虎「嘘をつく理由がない」


チェブルがまた黙った。


それから、

目だけがすっと細くなった。


チェブル「……証人は」

コウ「俺です。見てました。本当に一発でした」

チェブル「……」


チェブルは虎をじっと見た。


チェブル「料理はするのか」

虎「しない」

チェブル「なぜ持ってきた」

虎「食べたいからだ。うまいと聞いた」

チェブル「誰から聞いた」

虎「経験から知っている。魔力の高い生物はうまい」

チェブル「……」


またしばらく、

チェブルは黙っていた。


コウ(断られそうだな、これ……)


コウ(虎、もう少し愛想よくできないのかな……)


チェブル「入れ」


コウ「え」

チェブル「入れと言った。ぼやぼやするな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


店の中は、

広かった。


大きな作業台が中央にあって、

壁一面に見慣れない道具が並んでいた。


チェブル「ミスリルリザードを運んでこい。外に置いておくな」

虎「わかった」


虎が亡骸を持ってきた。


チェブルが亡骸を見た。


チェブル「……いい個体だ。鱗の状態がいい」


チェブルは棚から道具を取り出した。

黒光りする、

見たことのない刃だった。


コウ「その刃、なんですか」

チェブル「ミスリル合金製だ。ミスリルはミスリルでしか切れん」


チェブルが作業台に亡骸を乗せた。


それから、

刃を走らせた。


すっ、という音。


ミスリル鱗が、

きれいに剥がれた。


コウ「……すごい」

ステラ「鱗の断面が、鏡のようです」

チェブル「当然だ。俺の仕事は雑にしない」


チェブルの手が、

止まらずに動いていく。


解体が、

進んでいった。


虎はその手元を、

じっと見ていた。


虎(……丁寧だ。一万年前にも、こういう職人がいた)


しばらくして、

チェブルが手を止めた。


チェブル「解体は終わりだ。料理はどうする」

虎「頼めるか」

チェブル「……お前、何が食いたい」

虎「うまいものだ」

チェブル「それだけか」

虎「それだけだ」


チェブルがまた目を細めた。


チェブル「……気に入った」


コウ(気に入ったの?! それで?!)


チェブル「今夜、作ってやる。帰れ。夜に来い」

虎「わかった」

チェブル「ただし」


チェブルが虎を見た。


チェブル「残さず食え」

虎「当然だ」


チェブルがドアを示した。


三人は外に出た。


ドアが、

勢いよく閉まった。


コウ「……なんかよくわからないうちに、解決したな」

ステラ「虎様の答え方が、チェブルさんには合ったようです」

コウ「愛想ゼロなのに、なんで」

ステラ「……愛想がないのではなく、余計なことを言わないのだと思います」

虎「そうか」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜、三人でチェブルの店に戻った。


テーブルに、

料理が並んでいた。


ミスリルリザードの肉を、

薄く削いで炙ったもの。

骨でとったスープ。

鱗を器にした盛り付け。


虎は一口、食べた。


虎「……」


肉が、

重い。

嚙むと、

金属のような冷たさが一瞬あって、

それから深い旨みが広がった。

ミスリルの魔力が肉に染み込んでいるのか、

後味に、

じんわりとした力強さが残る。

スープは、

骨の旨みが凝縮されていて、

一口ごとに体の奥に沁みた。


虎「……うまい」


チェブルが腕を組んで見ていた。


チェブル「そうか」

虎「お前は食べないのか」

チェブル「俺は作る側だ」

虎「もったいない」

チェブル「……」


チェブルは黙ったまま、

少し視線を逸らした。


コウ「チェブルさん、なんでミスリルリザードの料理ができるんですか」

チェブル「五十年やってるからだ」

コウ「五十年……」

チェブル「珍しいものを料理したくて、ここに居着いた。それだけだ」


虎「珍しいものを求めて、か」

チェブル「そうだ」

虎「そういう生き方もある」

チェブル「……お前も、そういう口か」

虎「似たようなものだ」


チェブルがしばらく虎を見た。


それから、

鼻を鳴らした。


チェブル「また珍しいものを持ってきたら、料理してやる」

虎「そうする」


コウ「……チェブルさん、俺たちのこと気に入ってくれましたか」

チェブル「お前は普通だ」

コウ「普通か……」

チェブル「虎だけ気に入った」

コウ「なんでだよ!」

チェブル「うるさい」


コウが口をつぐんだ。


ステラが、

静かに笑みを浮かべた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラ「次回予告です」

虎「ああ」

ステラ「チェブルさんに気に入っていただけましたね」

虎「料理がうまかった」

ステラ「それが理由ですか」

虎「珍しいものを求めて五十年、という話が面白かった」

ステラ「……虎様と似ていますね」

虎「そうか」

ステラ「一万年と五十年、という違いはありますが」

虎「五十年でそこまでの腕になるなら、たいしたものだ」

ステラ「……虎様が人を褒めるのは、珍しいですね」

虎「そうか」

ステラ「次回、『虎が、魔法火力修行を終える』」

虎「まだやることがある」

ステラ「魔法火力の強化は、おおむね目処が立ちつつあります」

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