第17話「虎が、アイスフェニクスと戦う」
双峰の山域は、
名前の通りだった。
コウ「右が雪山、左が火山。なんだこの地形」
ステラ「地熱と冷気が交差する特殊な環境です。アイスフェニクスはその境界線上に生息しているようです」
虎「気配がある。上だ」
三人が空を見上げた。
雲の切れ間に、
白い影が見えた。
翼を広げると、
確かに十メートルはある。
アイスフェニクスの存在だった。
コウ「でかいな……」
虎「来るぞ」
影が急降下してきた。
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最初の攻撃は、
氷だった。
巨大な氷柱が、
三人めがけて降り注いだ。
コウ「散開!」
コウとステラが左右に跳んだ。
虎は動かなかった。
氷柱が、
虎の全身に直撃した。
どん、どん、どん。
コウ「虎!!」
白い粉塵が晴れると、
虎が立っていた。
防寒マントが、
所々裂けている。
だが虎は、
それを一瞥しただけだった。
虎(……痛くない)
虎(ヒスイの湖での修行前なら、これで傷を負っていた)
口の端が、
上がった。
虎「……なるほど。効果が出ている」
コウ「今、氷柱を全部受けただろ! なんで立ってるの?!」
虎「修行の成果だ」
アイスフェニクスが旋回して、
また降下してくる。
虎「コウ、切り替えのタイミングを読め。ステラ、氷魔法を頼む」
ステラ「了解です」
コウ「わかった!」
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アイスフェニクスが炎を吐いた。
赤い炎が、
地面を舐めるように広がる。
コウ「炎属性に切り替わった!」
ステラ「今です」
ステラの両手から、
鋭い氷の槍が生成された。
それが、
アイスフェニクスの翼に向かって飛んだ。
ざん。
翼に、
細い傷が走った。
アイスフェニクスが、
甲高い声を上げた。
コウ「効いた!」
ステラ「翼の付け根を狙った方が効果的です。次は」
アイスフェニクスが高度を上げた。
虎(あの翼の付け根に、魔力が集中している。核心はそこだ)
虎「俺が接近する。二人は牽制を続けてくれ」
コウ「接近って、空を飛ぶのか?」
虎「跳ぶ」
コウ「え」
虎は地面を踏んだ。
どごん。
地面が、
大きくえぐれた。
虎の体が、
空に飛んだ。
コウ「跳んだ……!!」
アイスフェニクスが氷属性に切り替えた。
コウ「氷だ! 虎、避けろ!!」
虎は避けなかった。
氷の嵐が、
空中の虎を全力で叩いた。
どごん、どごん、どごん。
コウ「……」
粉塵の中から、
虎が出てきた。
防寒マントが、
完全に消えていた。
だが虎は、
まっすぐアイスフェニクスに向かっていた。
虎(体が、重くない)
虎(これがヒスイの湖の成果か)
アイスフェニクスが、
巨大な翼で虎を払おうとした。
虎はその翼の付け根を、
両手で掴んだ。
ぎ、という音。
アイスフェニクスが、
急速に高度を落とした。
そのまま、
地面に叩きつけた。
どごん。
地面が、
大きく揺れた。
ステラ「止めを」
虎「ああ」
虎は手を翼の付け根に当てて、
魔法を放った。
ズバァ。
光が散った。
アイスフェニクスが、
動かなくなった。
コウ「……終わった?」
ステラ「はい。おおむね、完璧な戦闘でした」
コウ「……俺、ほぼ牽制しかしてないんだけど」
虎「十分だ」
コウ「そう言ってくれると助かるけど……」
虎は確実に強化されていた。
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その夜、
三人で火を囲んだ。
アイスフェニクスは、
ステラが調理した。
翼の肉を大きく切って、
炭火で焼いた。
表面を焼いてから、
内側はほとんど火を通さない焼き方だ。
虎は一口食べた。
虎「……」
外の皮がぱりっとして、
中の肉がとろりとほどける。
鶏肉に近いが、
それより遥かに重い旨みがある。
嚙むほどに、
魔力を帯びた肉特有の、
じんわりとした甘みが出てきた。
後味に、
かすかに氷と炎の両方の気配がした。
不思議な味だった。
だが、うまかった。
虎「……これは、相当うまい」
コウ「まじか。俺も」
コウが一口食べた。
コウ「……なんだこれ。鶏じゃないな、全然」
ステラ「翼に魔力が集中していたので、翼の肉を中心に使いました」
コウ「大正解だな」
ステラも一口食べた。
ステラ「……旨みが、重層的ですね。氷と炎を両方持つ生物だからでしょうか」
虎「そうかもしれない」
三人でしばらく、
黙って食べた。
炎の音だけが、
静かに続いていた。
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食べ終わって、
コウが空を見上げた。
コウ「……星、多いな」
虎「ああ」
コウ「山の上だからかな」
しばらく黙っていた。
虎「コウ」
コウ「なに」
虎「ハーレムを目指す理由、聞いてもいいか」
コウが少し驚いた顔をした。
コウ「……虎が聞いてくるとは思わなかった」
虎「面白そうだと思った」
コウ「面白いかどうかわからないけど……大したことない理由さ」
コウは火を見た。
コウ「母親が死んだんだ。普通に病気でね」
誰も何も言わなかった。
コウ「その母によく言われてたんだ。嫁さん見つけて孫を見せろってね。だから……天国からでもわかるぐらいでっかいハーレムでも作ろうかなってね」
ステラ「……意外な理由ですね」
コウ「しっくりこない理由だろ? でも体がそう決めちまってね。動き出さないわけにいかなかったのさ」
コウが笑った。
いつものへらっとした笑いとは、
少し違う笑い方だった。
コウ「笑えるだろ、こんな理由」
虎「笑えない」
コウ「え」
虎「動き出さないわけにいかなかった、というのはわかる」
コウはしばらく虎を見た。
それから、
また空を見上げた。
コウ「……虎って、たまにそういうこと言うよな」
虎「そうか」
コウ「うん。だから、嫌いじゃないよ。お前のこと」
ステラが、
静かに火に薪をくべた。
炎が、
少し大きくなった。
北の夜は、
寒かった。
三人の周りだけは、
温かい。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「アイスフェニクス、うまかったですね」
虎「ああ。修行の成果も感じた」
ステラ「氷属性の攻撃を全身で受けていましたね」
虎「痛くなかった」
ステラ「以前なら傷を負っていたはずです」
虎「そうだな」
ステラ「……ヒスイの湖での修行が、形になりましたね」
虎「まだ途中だが」
ステラ「次の修行は何ですか」
虎「魔法火力がまだ足りない。次も食べる必要がある」
ステラ「……虎様の食事は、修行と切り離せませんね」
虎「うまければなお良い」
ステラ「……おおむね、それが虎様の基準ですね」
虎「ああ」
ステラ「次回、『虎が、次の獲物を探す』」
虎「コウはまだついてくるか」
ステラ「本人は来ると言っています」
虎「そうか」
ステラ「……よかったですか」
虎「賑やかな方がいい」
ステラ「……珍しいことを言いますね」
虎「そうか」




