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虎無双、虎無双。  作者: BB
2章

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15/59

第15話「虎が、北へ向かう」

虎「修行に出る」


ステラが虎を見た。


ステラ「……修行、ですか」

虎「古代兵器の件で、力の足りなさを感じた。カイエルの最後の一撃にも傷を受けた」

ステラ「……腕の傷は、処置しました」

虎「傷を受けたこと自体が問題だ。強さが必要だ」


ステラはしばらく黙った。


ステラ「……どこへ向かいますか」

虎「北だ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


虎「乗れ」

ステラ「……え」

虎「急ぐ。乗れ」


ステラは少し間を置いてから、

虎の背に乗った。


ステラ(……思ったより、広い)


ステラ(毛並みが、さらっとしている。洗った後と同じ、清潔な感触だ)


ステラ「虎様」

虎「何だ」

ステラ「毛並みが、いい状態を保っていますね」

虎「そうか」

ステラ「洗った甲斐があります」

虎「……そうだな」


虎が走り始めた。


ステラ(速い。かなり速い)


ステラ(これが虎様の、本気の移動速度か)


木々が、

後ろに流れていく。


風が、

強く吹く。


ステラ「……気持ちいいですね、これは」

虎「酔わないか」

ステラ「問題ありません」


北へ向かって、

二人は走った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


到着したのは、

山に囲まれた盆地だった。


そこに、

湖があった。


ステラ(……緑色だ。翡翠のような色をしている)


ステラ「虎様、これは」

虎「ヒスイの湖だ」


虎は湖を眺めながら、

続けた。


虎「回復精霊の加護を受けた珍しい泉だ。回復精霊と契約している者なら、その恩恵を受けられる」

ステラ「……回復精霊と契約、ですか。虎様は」

虎「している。一万年前に」


湖面が、

静かに光っていた。


ステラ「それで、ここで修行を」

虎「ああ。最初に鍛えるのは体の頑丈さだ」

ステラ「攻撃力ではなく、ですか」

虎「肉体の攻撃力や魔法攻撃力を高めても、それを扱う体が無ければ力に振り回されてしまう。カイエルの傷の件もある。まず土台を作る」


ステラ「……なるほど」


虎「体の頑丈さを鍛えるには、超回復を使う」

ステラ「超回復」

虎「体が一定以上の大ダメージを受けてから回復すると、以前よりも頑強になる。俺の体はそうなっている。この湖の回復促進があれば、効率が上がる」


ステラ「……実際には、どうするのですか」


虎「見ていろ」


虎は湖に入った。


それから、

自分の腕に向かって、

短く魔法を放った。


ズバァ。


鋭い風の音。


腕に、

深い切り傷が走った。


ステラ「虎様っ」

虎「見ていろ」


傷口が、

光り始めた。


翡翠色の光が、

傷に集まる。


目に見える速度で、

傷が塞がっていった。


十秒もしないうちに、

傷跡すら消えた。


ステラ「……」


ステラは湖から出てきた虎の腕に、

そっと触れた。


ステラ「……確かに。傷を受けた部分だけ、防御力が上昇しています。表面の密度が変わっています」

虎「そういうことだ。この方法でなら、体の頑丈さのみに限定して言えば、低リスクに鍛えることができる」

ステラ「……低リスクとは言いますが」

虎「自分で傷をつける分、深さを調整できる。制御できない攻撃を受けるより、ずっと安全だ」


ステラはしばらく腕に触れたまま、

黙っていた。


それから、

手を離した。


ステラ「……わかりました」


虎「俺はこの湖で修行を続ける。ステラはなるべく大量の食糧調達を頼む」

ステラ「食糧、ですか」

虎「この修行方法は栄養補給が重要だ。かなり腹が減る。この森には、湖の恩恵を受けた魔物がいる。栄養豊富なはずだ」

ステラ「……承知しました」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラが戻ってきたのは、

夕暮れ前だった。


両手に、

大きな荷物を抱えている。


ステラ「森の奥で、大型の魔物を数頭仕留めました。鹿に似た体格ですが、角に魔力が宿っているようです」

虎「それがうまいんだ」

ステラ「……知っていたのですか」

虎「一万年前にも食べたことがある」


ステラが調理を始めた。


肉を大きく切って、

香草と一緒に鍋に入れる。


湖の水を加えると、

ほのかに翡翠色になった。


虎「湖の水も使えるのか」

ステラ「少量なら問題ないかと。むしろ、回復精霊の恩恵が染み込んでいるかもしれません」


しばらくして、

煮えてきた。


虎は一口、食べた。


虎「……」


肉が、

柔らかい。

だが食感がしっかりしていて、

噛むほどに旨みが出てくる。

普通の鹿肉より、

旨みが二段階ほど深い。

香草の香りが、

その旨みを引き立てている。

スープを飲むと、

体の奥から温まるような感覚があった。


回復精霊の恩恵か、

あるいは肉自体の力か。


どちらにせよ、

うまかった。


虎「……これは、いい」

ステラ「確かに。肉の密度が違いますね」

虎「ここにいる間は、これが食えるのか」

ステラ「森に十分います。問題ありません」


虎は二杯目を食べながら、

空を見上げた。


北の空は、

星が多かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


食べ終わって、

火の前に座っていた。


ステラ「虎様」

虎「何だ」

ステラ「一万年前にも、同じ方法で修行を」

虎「したな」

ステラ「そのときも、この湖で?」

虎「別の場所だ。似たような泉があった」

ステラ「……食糧調達も、一人で?」

虎「そうだ」

ステラ「……すべて、一人で」


虎は少し黙った。


虎「そうだ」


ステラ「……」


ステラはしばらく、

火を見ていた。


ステラ「今は、私がいます」

虎「ああ」

ステラ「……役に立てていますか」

虎「ああ」


虎は続けた。


虎「古代兵器の際も、手当てをしてくれた。市民の安全確認も早かった。食糧調達も、今日は助かった」


ステラは少し間を置いた。


ステラ「……よかったです」


火が、

静かに燃えていた。


虎(一万年前は、こういう時間もなかった)


虎(一人だったから)


それ以上は、

考えなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラ「次回予告です」

虎「ああ」

ステラ「回復精霊とは、便利なものですね」

虎「一万年前、便宜上人間がそう呼んでいた」

ステラ「正式な名称は別にあるのですか」

虎「回復精霊は会話はできないが、ああいったスポットの周りに無数にいるようだ。」

虎「だが実際には回復ではなく、固定の精霊だ」

ステラ「固定、ですか」

虎「物事をあるべき姿に保持し続けることを目的としているようだ。傷を受けた体を、傷がない状態に戻そうとする。それが回復に見える」

ステラ「……時間を司る妖精にも近しい存在ですね」

虎「そうだ。一万年前の人間は回復精霊と呼んでいたが、俺はそう呼ぶのが正確ではない気がしていた」

ステラ「おおむね、固定精霊と呼ぶべきでしょうか」

虎「おおむね、そうかもしれない」

ステラ「……虎様がおおむねを使わないでください」

虎「そうか、お前の担当だったか」

ステラ「担当です」

虎「次の予告をしろ」

ステラ「次回、『虎が、修行を続ける』」

虎「地味な話になるぞ」

ステラ「虎様の修行を間近で見られるのです。地味ではありません」

虎「そうか」

ステラ「……私は、楽しみにしています」

虎「珍しいな」

ステラ「たまには言います」


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