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虎無双、虎無双。  作者: BB
1章

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14/22

第14話「虎が、湖で魚を食べる」

東の街を出る朝、

ミオが立ち止まった。


ミオ「……ここで別れる」

虎「そうか」

ミオ「黒牙はまだ動いている。キールは身を隠すと言ったが、組織は消えていない。追う」


虎はミオを見た。


ミオ「……虎は、別の目的があるんだろ」

虎「ああ」

ミオ「……面白いものを探す旅、か」


ミオが少し、

口の端を上げた。


ミオ「……また会う。そのときは飯でも食おう」

虎「ああ」

ステラ「お気をつけて、ミオさん」

ミオ「……お前も」


ミオの後ろ姿が、

人混みの中に消えた。


ステラ「……行きましたね」

虎「ああ」

ステラ「寂しくないですか」

虎「なぜだ」

ステラ「……そうですか」


虎(また会うだろう。そういう気がする)


二人で、

街の門を出た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


街道を外れて、

しばらく歩いた。


ステラ「この先に、大きな湖があります。地図で確認しました」

虎「そうか」

ステラ「魚が豊富に生息しているようです。それと」


ステラが荷物を少し持ち上げた。


ステラ「街を出る前に、買い物をしておきました」

虎「また用意がいいな」

ステラ「いつものことです」


木々の間を抜けると、

湖が広がっていた。


虎(広い。水が透き通っている。底まで見える)


虎「……いいな、ここは」

ステラ「はい。静かです」


湖面が、

風に揺れている。

水の中に、

魚の影が見えた。


虎「取ってくる」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


虎は湖の浅瀬に入った。


冷たい水が、

足首まで来る。


じっと待った。


魚が、

ゆっくりと近づいてくる。


虎(一万年前にも、川で魚を取ったことがあった。あの頃と同じやり方でいい)


魚が目の前を通った瞬間、

虎は手を弾いた。


ぱん、という音。


魚が、

岸に飛んだ。


ステラ「……取れました」

虎「もう少しいる」


また待った。


ぱん。


ぱん、ぱん。


虎(これでいい。十分だ)


虎は岸に戻った。


ステラ「魔法は使用しないのですか」

虎「ああ、魔法だと取り過ぎる。すると、生態系に影響が出る」

ステラ「なるほど」


ステラ「15匹程度ですね」

虎「十分か」

ステラ「十分です」


ステラが荷物を広げ始めた。


小さな鍋、

板のような平たい器、

陶器の椀。


虎「……いい器だな」

ステラ「ありがとうございます」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラが調理を始めた。


魚を捌きながら、

荷物から食材を出していく。


玉葱、

トマトのような果実、

柑橘、

香草の束、

ピーナッツ、

それから小さな瓶に入った調味料。


虎「何を作っている」

ステラ「セビーチェです。魚を柑橘で締めて、野菜と和えたものです。火を使わずに作れます」

虎「火を使わないのか」

ステラ「柑橘の酸が、魚を締めます。それだけで食べられる状態になります」


ステラの手が、

てきぱきと動く。


魚の身を薄く切って、

柑橘の絞り汁に浸す。


玉葱を薄切りにして、

トマトを角切りにして。


香草を刻む。


ピーナッツを、

軽く砕く。


虎「ピーナッツを入れるのか」

ステラ「この地域のセビーチェには合うと、街の料理屋で聞きました」


全部を合わせて、

陶器の器に盛った。


それから鍋に火を入れて、

別の魚を丸ごと焼き始めた。


鍋の中で、

香草のスープも温まっている。


ステラ「少し待っていてください」


虎は湖を眺めた。


水面が、

光を反射している。


虎(静かだな)


虎(街にいる間は、ずっと何かが動いていた)


虎(こういう時間は、久しぶりかもしれない)


しばらくして、

ステラが器を並べた。


平たい器にセビーチェ、

焼き魚、

香草のスープ。


虎は一口、セビーチェを食べた。


虎「……」


柑橘の酸が、

最初に来る。

鋭いが、

嫌な酸さではない。

魚の旨みが、

その酸の中で凝縮されている。

玉葱の辛みが、

遠くに効いて、

トマトの甘みが全体を丸くしている。

香草の青い香りが、

鼻を抜けて。


そしてピーナッツだ。


噛んだ瞬間、

香ばしさと油脂の甘みが、

魚の旨みと混ざった。


予想外のうまさだった。


虎「……ピーナッツが、うまい」

ステラ「合いましたか」

虎「合った。これは合う」

ステラ「よかったです」


ステラも一口食べた。


ステラ「……酸味と、甘みと、香ばしさが、一度に来ますね」

虎「そうだ」

ステラ「面白い料理です」

虎「ああ」


焼き魚も食べた。


皮がぱりっとして、

中の身がほぐれる。

セビーチェの後だと、

シンプルな塩の味が、

落ち着いて感じた。


スープは、

香草の清々しい香りがして、

体の中を通り抜けていくような味だった。


虎「……全部うまい」

ステラ「今日は時間があったので」

虎「手間をかけたな」

ステラ「……虎様がうまそうに食べているのを見るのが、好きなので」


ステラは少し、

視線を湖に向けた。


ステラ「このような穏やかな時間を過ごすのは、久しぶりですね」

虎「そうだな」

ステラ「東の街では、ずっと何かが動いていました」

虎「ああ」

ステラ「……よかったです、こういう時間が取れて」

虎「俺もだ」


湖面が、

風に揺れた。


木々の葉が、

さらさらと音を立てた。


虎は二杯目のスープを飲んだ。


しばらく、

二人とも黙っていた。


それが、

心地よかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


食べ終わると、

ステラが器を丁寧に片付け始めた。


虎はその様子を、

なんとなく眺めていた。


虎(静かな午後だ)


虎(こういう時間が、これからも続けばいい)


湖面に、

夕暮れの赤が差した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラ「次回予告です」

虎「ああ」

ステラ「今日は穏やかな一日でした」

虎「そうだな」

虎「今回、器などを買ったようだが」

ステラ「五話の護衛依頼の報酬で、街で買い揃えました」

虎「……あの報酬をそこに使ったのか」

ステラ「はい。こういう場面がいつか来ると思っていたので」

虎「用意がいいな」

ステラ「おおむね、そのつもりで動いています」

虎「おおむね、か」

ステラ「おおむね、です」

虎「次の予告をしろ」

ステラ「次回、『虎が、北へ向かう』」

虎「何がいる」

ステラ「……強い気配がします」

虎「詳しく言え」

ステラ「今回は、読んでからのお楽しみです」

虎「珍しいな」

ステラ「たまには引っ張ります」

虎「……お前、本当にこなれてきたな」

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