第13話「虎が、核心を壊す」
光の渦の中で、
虎は手を伸ばしたままだった。
虎(熱い。だが、届く)
核心が、
脈打っている。
赤い光が、
全身を押しつぶそうとしている。
虎(一万年前には、なかった圧だ)
虎 (だが)
虎(俺の方が、古い)
手が、
核心に触れた。
その瞬間、
光が爆発的に膨らんだ。
ミオ「虎……!」
ステラ「……虎様っ」
虎は両手で、
核心を掴んだ。
握った。
どごん。
音ではなかった。
衝撃だった。
部屋全体が、
一瞬だけ、
静止した。
それから。
光が、
消えた。
紋様が、
消えた。
柱が、
内側から崩れ始めた。
虎は柱から飛び出した。
床に着地する。
膝が、
少し折れた。
虎(……効いた。これは効いた)
ミオ「虎! 大丈夫か」
虎「大丈夫だ」
ミオ「大丈夫に見えない」
虎「見えなくても、大丈夫だ」
ステラが駆け寄った。
ステラ「虎様、腕を見せてください」
虎「後でいい」
ステラ「……今です」
虎はステラを見た。
ステラが、
珍しく、
強い目をしていた。
虎「……わかった」
ステラが腕の傷を確認しながら、
処置を始めた。
ステラ「……地上の被害を並行確認します」
しばらく黙った。
ステラ「地上への影響は、小型の地震程度でした。建物の倒壊なし。死者なし。怪我人も、転倒による軽傷が数名のみです」
ミオ「……よかった」
虎「そうか」
部屋の中が、
静かになっていた。
柱の残骸が、
床に散らばっている。
ミオが部屋を見回した。
ミオ「……終わった、のか」
そのとき。
床に転がっていた黒外套の男の懐から、
小さな魔石が光った。
ステラ「……魔石から、信号が」
光が広がって、
空中に像を結んだ。
ホログラムだ。
そこに映っていたのは。
ミオ「……キール」
銀色の髪。
褐色の肌。
だが今は、
さっきまでの弱腰の少年の顔ではなかった。
猛禽類のような目が、
静かに三人を見ていた。
キール「やあ。思ったより早く終わったね」
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ミオの手が、
剣の柄に伸びた。
ミオ「……お前、何者だ」
キール「黒牙のリーダーだよ。今更だけど」
ミオ「……最初から、そのつもりで近づいたのか」
キール「うん。虎の力を見極めたかった。それが目的だったから」
虎「……そうか」
キール「怒らないの」
虎「なぜ怒る」
キール「騙していたのに」
虎「お前は嘘をついたか」
キール「……嘘は、ついていない」
虎「ならいい」
キールが少し、
目を細めた。
キール「……虎、君は変わってるね」
虎「よく言われる」
キール「今回の結果についても、話しておこうか。古代兵器の起動を止めてしまうとは、正直思っていなかった。僕の想像以上だった」
ミオ「……今回の件、最初から黒牙が仕組んだのか」
キール「そうだよ。黒牙は今回、この国の隣国に雇われた」
ミオ「隣国に」
キール「古代兵器の暴走なら、誰がやったか証拠を残さずに街を壊滅できる。隣国からすれば、この国が弱体化すれば領土拡大の絶好のチャンスだ。都合のいい依頼だったよ」
ステラ「……黒牙は、それを受けた」
キール「当然だよ。僕たちは悪の組織だから」
キールが、
静かに続けた。
キール「破壊する。それが僕たちの目的だ。悪であるなら、悪を行う。それだけのことだろう。自然な話だと思わない?」
ミオ「……自然じゃない」
キール「そう? まあ、立場の違いだね」
虎「キール」
キール「何?」
虎「お前は次に、何をする」
キールは少し間を置いた。
キール「しばらく身を隠すよ。虎、君に追跡されては厄介だ。今回わかった。君の力は、僕の計算の外にある」
それから、
キールは虎をまっすぐ見た。
キール「虎、君の目的は何だろうと考えてた。戦いながら、ずっと」
虎「結論は出たか」
キール「……可能性を持つ生命を残すこと、じゃないかな。力があって、まだ伸びる余地がある人間や生き物を、この世界から減らしたくない。そういう気持ちが、君の根っこにある気がした」
虎は何も言わなかった。
キール「僕たちの行動理由とは、真っ向から反対する立場だ。また会うこともあるだろう。そのときは、よろしく」
ホログラムが、
消えた。
部屋が、
また静かになった。
ミオ「……あいつが、黒牙のリーダーだったのか」
虎「そうらしい」
ミオ「……ずっと一緒にいたのに、気づかなかった」
虎「俺もだ」
ステラが、
虎の腕の処置を終えながら言った。
ステラ「……私も、おおむね気づきませんでした」
ミオ「……ステラでも、か」
ステラ「はい。情報屋という言い訳が、自然すぎました」
三人は少しの間、
黙った。
虎(可能性を持つ生命を残すこと、か)
虎(言葉にしたことはなかったが、外れてはいない)
虎(面白い奴だ、キールは)
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地上に出ると、
夜が明け始めていた。
東の空が、
うっすらと白くなっている。
ミオ「……終わった」
虎「ああ」
ステラ「神殿の周辺も、特に異常はありません。街は静かです」
三人で、
大通りに向かった。
朝の早い時間で、
人はまだ少ない。
ステラが一軒の店の前で立ち止まった。
ステラ「開いています。朝早くから営業している粥の店です。入りましょう」
虎「粥か」
ステラ「今の虎様には、重いものより合うと思います」
店に入ると、
温かい匂いがした。
しばらくして、
白い粥が運ばれてきた。
虎は一口、食べた。
虎「……」
薄い塩味が、
静かに広がる。
米の甘みが、
ゆっくり出てくる。
派手さは何もない。
だが、
今この体に、
染み込むように入ってきた。
疲れた体に、
温かいものが満ちていく。
そういう味だった。
虎「……うまい」
ミオ「……確かに。今は、これがいい」
ステラ「よかったです」
虎「ステラも食べろ」
ステラ「はい」
ステラが一口食べた。
ステラ「……温かいですね」
虎「そうだな」
ステラ「温かいものは、初めてかもしれません」
ミオ「……そうか」
三人で、
しばらく黙って食べた。
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食べ終わって、
店を出た。
朝の光が、
街に差し込んでいた。
ステラ「……今回の件、虎様によって防がれたことを、ほとんどの人は知らないでしょうね」
虎「どうでもいい」
ミオ「……どうでもいいのか」
虎「可能性が残ったのだ。それで十分だ」
ミオが虎を見た。
それから、
小さく笑った。
水色の瞳が、
朝の光の中で、
柔らかく光った。
ステラも、
口の端を上げた。
虎も、
気づかないほど小さく、
口の端が動いた。
三人の進む道を、
朝の光が照らしていた。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「黒牙との一件、終わりました」
虎「そうだな」
ステラ「キールは、また現れるでしょうか」
虎「現れるだろ」
ステラ「根拠は」
虎「あいつ、また会うと言った」
ステラ「……それは確かに」
虎「約束を守る奴だと思った」
ステラ「悪の組織のリーダーにそれを言いますか」
虎「悪かどうかと、約束を守るかどうかは別の話だ」
ステラ「……おおむね、そうかもしれません」
虎「おおむね、か」
ステラ「次回、『虎が、湖で魚を食べる』」
虎「また動くか」
ステラ「はい。この街は、おおむね堪能しました」




