51.
スタチュエットを終え、6日目のレギオンの日は私は終日何も魔法を使わない休みに充てた。
クラスメイトや蒼氷のメンバーが外に食事などで出た際に『お疲れ様!スタチュエットよかったぞ!!』と出会い頭に伝えて食堂の食券をお祝いだと渡してきたりなど、それなりに賑やかだが、穏やかな1日だった。
そして夜。
私は、母様に会うために、学院の職員室あたりにある貴賓室に来ていた。
別に学院の外部に出て会うのでも良かったのだが、教師達に魔導祭の代表だからと止められたのと、母様からも明日に備えて、あまり動かないで欲しいと言われたからだ。貴賓室を貸すから、そこで話してくれと言われ、色んな人から頼み込まれたというのもある。
母様曰く、今日話すのは、聞くだけでも疲れる話だろうからとのことだった。聞くだけで疲れるのであれば、魔導祭の後にすれば良いと思うかもしれないが、どうやら魔導祭が終わってからすぐに私がやらなければならないことがあるから、申し訳ないけれど今聞いて欲しいと言われたから、私は快く承認した。そもそも母様からの呼び出しだ。どんな状況であろうと、私に断るだなんて選択肢は存在しない。
そしてノックを3回して、貴賓室に入る。母様が先に来ていたようで、すぐに中から返事が聞こえた。
「しばらくぶりね、リーシャ。なんだか……前よりも表情が明るいわね」
「はい。きっと、学院生活が以前よりも充実しているからだと思うわ。前よりも、息がしやすくて、周囲も賑やかで……何よりも、楽しいの」
そこまで言ったところで、母様が泣きそうな顔になる。
そして感極まったように抱きしめられた。自身よりも少しだけ低い位置から抱きしめられる。そして、『良かった、本当に』と嬉しそうに微笑む母様の反応に、私も嬉しくなった。
誰よりも大切な存在から、愛情を与えてもらえて、幸せを喜ばれる。私は今、とても幸福だ。
***
「ごめんなさい。取り乱して。あ!スタチュエット、とても綺麗だったわ。思わず泣いてしまったくらいに、本当に素晴らしかった。貴女は、お父様のように研究職だけではなく、こういう芸術系も向いているのかもしれないわね――って、長くなってしまうわね」
「ううん、すごく嬉しいわ。ずっと聞いていたいくらいに」
「今度また感想を言わせてね。今回、これは本題じゃないの。今日は大切な話があって、わざわざ忙しいであろう貴女を呼び出したのよ」
母様が居住まいを正して、改めて対面のソファから私を見つめる。そして一呼吸の後、話し始めた。
「レッドグルール公爵――オーランドのご両親ね、彼らに婚約解消をしたいことを伝えて、魔導祭の後に正式に婚約を解消することを両家で合意を得ました」
母曰く、レッドグルールの公爵と夫人はずっと、オーランドに対して、婚約者に対する態度が冷たすぎないか?婚約者なんだからもっと優しく、大切にできないのか?突き放しすぎだろう、と説教し続けていたらしい。婚約者の気持ちを考えてあげてくれ、と。
そういえば、以前会った時も、公爵と夫人はとても丁寧な人達で礼儀を尽くす、善良な人間だったと思いだす。
しかし、オーランドは『彼女とは通じ合っているし、うまくいっているんだから、放っておいてくれ』の一辺倒。そして、今回私からの不満が漏れて、この婚約解消に至ったらしい。
通じ合っていないじゃないかと彼らも思い、流石に見過ごせないと今回の婚約解消に全面的に合意を見せたのだというのが、裏で進行していたことだった。
「レッドグルール公爵と夫人も、貴女に直接謝罪したいと言っていたわ。『愚息が失礼かつ申し訳ないことをしてしまった。心の傷は癒えないだろうが、せめて謝罪を受け取ってほしい』と、大金の慰謝料まで提示してきて――でも、貴女は興味なさそうね」
「公爵と夫人は何も悪くないし、私は正直結婚することに対してあまり執着していないので。母様に子供を見せられなくなってしまうのは本当に申し訳ないけれど」
「貴女がそれでいいなら、私は反対しないわ。別にお父様にも兄弟や親戚はいるし、血が完全に途絶えるわけではない。貴女が幸せに過ごせること。それが私の唯一の願い」
じっと瞳を見つめて、手を握られる。
その手の温かさから、真摯な言葉から、母様の強い思いが伝わってくる。
良い人間に囲まれ、自分の幸せを一番に願ってくれる人が一番近くに居てくれる。
私は改めて、自身の進みたい道を進んでいきたいと思った。きっとそれに従うのが、私にとって、周囲にとって、一番だと思うから――。




