50.
全員の演技が終わり、表彰台の設置された大広間に呼び出された。
時間は既に夕方。ステンドグラスの窓からは優しい夕日がさしていた。美しい光景だ。
そして、表彰式が始まり、再度ルールの振り返りが行われる。
【第五競技:スタチュエット 基本ルール】
・演技時間は最大15分。15分超過時は強制終了+減点
・魔法の使用制限なし。どんな魔法を使用することも許可する。
・道具の持ち込みは2つまで許可する。
【第五競技:スタチュエット 禁止事項】
・観客・審査員への攻撃
・制御不能な魔法の使用
・他者の演技への干渉および妨害
【第五競技:スタチュエット 評価基準】
・構成:45点
スタチュエットのストーリー性、物語の構成を評価する項目。
・技術力:25点
難易度の高い魔法を組み込んでいるか、その制御の緻密さと演者の演技力、ダンスや演奏などの技量を評価する項目
・美術:20点
魔法の美しさ、組み合わせ、魔法の流れの構成などを評価する項目。視覚的な美しさが重視される。
・独創性:10点
魔法の独創性、個性、発想力を評価する項目。
選手総勢25名。
「――それでは、スタチュエット競技の結果を発表する!!」
拡声魔法による声が、広場全体に響いた。
司会者が順位発表を宣言すると同時に、会場から歓声が沸き上がる。そして表彰が始まった――。
《第25位 黄雷 サクラス=コロイド 47点》
・構成:18点
・技術力:15点
・美術:10点
・独創性:4点
『演技時間が15分を超えてしまったことで、残念!構成点から大幅減点!!』
名前と順位が発表されると同時に、点数がディスプレイに映されてる。そして、審査員からの一言が添えられているようだ。
そして表彰された生徒は、他の生徒に背中を押されて、少し泣きそうになりながら立ち上がって、周囲にペコリと頭を下げていた。きっと悔し涙を流しそうになっていたのだろう。
時間超過。気を付けていても、誰でも起こりうることだ。
順位は、下位から順に表示されていく。
下位の生徒は悔しそうだったり、面倒くさそうだったり、様々だった。
そして――
《第18位 蒼氷 ミレイア=ノクティス 70点》
・構成:35点
・技術力:13点
・美術:16点
・独創性:6点
『1年生で初出場!期待の新星!演技には少し緊張が見えたが、大きなミスなく踊り切った!自身の特徴を生かしたダンスの美しさに高得点!』
隣にいたミレイアは、少し溜息をついた後に伸びをするように立ち上がり、周囲に笑顔で手を振っていた。
ここから、蒼氷の代表がどんどん呼ばれていく。
《第17位 蒼氷 ガイゼル=リューネン 72点》
・構成:35点
・技術力:15点
・美術:14点
・独創性:8点
『珍しい生命魔法を使った演技が独創的で、高評価!独創性という武器を磨いた次の演技に期待!まだ2年だ、来年に期待大!!』
ガイゼル先輩は名前を呼ばれた瞬間、少し悔しそうにしていたが、モヒート先輩に促されて周囲にペコリと何度かお辞儀をしていた。
そう。私とミレイア、ガイゼル先輩にはまだ来年がある。
《第5位 セレナ=ヴァイスリート 88点》
・構成:40点
・技術力:21点
・美術:19点
・独創性:8点
『構成、技術力、美術、独創性、全てに於いて高得点!『恋』というよくあるテーマだったが、感情が揺さぶられる良い演技と演奏だった!』
セレナ先輩は満足そうに微笑み、軽やかに立ち上がると、周囲にお辞儀をする。
本当に綺麗なお辞儀だった。これで彼女のスタチュエットの演技を見るのが最後であることが惜しまれる、そんな演技だった。周囲からも、彼女のファンらしい生徒が『よかった!』、『綺麗だった!』と声を上げていた。
演技に悔しさを感じた人もいれば、セレナ先輩のようにやり切った人もいる。後悔が残らなかった人間の方がきっと幸せなのだろう。
5位からは表彰台に上がる。セレナ先輩は歓声を受けながら、舞台に上がっていった。
《第3位 モヒート=ウーヴ 92点》
・構成:40点
・技術力:24点
・美術:18点
・独創性:8点
『力強く、迫力にあふれた歴史に残る、プロ顔負けの演技だった!欠点はほぼなく、第3位!相手が悪かったかー!』
「惜しかった、な。まあ、予想はしていたが」
そう言いながらも、モヒート先輩はどこか満足そうだった。私を挟んでミレイアと同じように隣にいた彼は、『表彰台で待っている』と私に声を掛けて、セレナ先輩と同じように歓声に包まれて舞台に上がっていった。
そして、会場がざわざわと残りの2名……私とオーランドどちらが2位なのかと騒ぎ始める。司会者もそのざわめきを楽しむように、暫く溜めて、2位の発表をした――。
《第2位 オーランド=レッドグルール 95点》
・構成:44点
・技術力:25点
・美術:19点
・独創性:7点
会場が揺れる。歓声と、納得のざわめき、驚きの声。
『文句のつけどころのない素晴らしい剣舞!天才は何をさせても天才なのかー!!?だが、今回は2位!これを破ったのは1位のその才能を超える天才!』
2位であることを無駄に煽るような司会者を無視して、オーランドは静かに立ち上がった。表情は変わらない。だが、わずかにこちらへ視線を寄越す。――次だ、と言わんばかりに。
もう誰が1位なのかは分かっているが、歓声の鳴りやまない1位の発表。
《第1位 リーシャ=スプライント 100点》
・構成:45点
・技術力:25点
・美術:20点
・独創性:10点
――一瞬、音が消えた。そして、次の瞬間。
それまでとは比べ物にならない歓声が、爆発した。
「うおおおおおおおお!!!」
「満点!?」
「スタチュエットで100点!?何十年ぶりだ!!?」
「今回のは納得だろ!!」
耳が痛くなるくらいの周囲の歓声。
私は、しばらくその表示を見つめていた。
自分の名前。そして、その隣に並ぶ数字。
「……勝った」
小さく、呟く。
自分自身の順位と点数が発表されて初めて、じわじわと実感が広がっていった。
『納得の1位は1年生にして初出場の天才・リーシャ=スプライント!!スタチュエットに初挑戦だとは思えない、1年生だなんて思えない程に誰よりも強い個性で、会場全体の感情を揺さぶる最高の演技だったー!!将来が最も楽しみな1年生!優勝だー!』
『誰よりも強い個性』という言葉に、胸の奥が熱くなった。
何の個性もない、無機質だった私に与えられたそんな言葉。自分自身の変化が嬉しいと思えた瞬間だった。
「リーシャ!!おめでとおおおおお!!!」
隣にいたミレイアに抱きつかれて揺さぶられる。
そしてそのまま立ち上がらされて、表彰台に上がっていった。周囲からの足元がぐらつくくらいの大きな歓声。その中には、私を腫物扱いしていた同学年の生徒たちもいた。
そこからも、『綺麗だった!』『バケモン扱いして、本当に申し訳ない』など、若干勝手な主張が聞こえてきたが、実際問題を起こしたのは私の方でもあるので、この人たちの私を見る目が変わったのだなくらいにしか思わなかった。
そんなことよりも、自分の『良い方向』への変化の方が嬉しい。
表彰台に上がると、セレナ先輩は穏やかに微笑む。隣のモヒート先輩は軽く肩をすくめた。
「これで文句なしの一位だな」
二人に私も微笑んでいると、モヒート先輩とは逆方向から声が聞こえてきた。
え?と声が出て、隣を向くと、そこにいたのはオーランド。彼が2位なので、当然と言えば当然だが。
そして、彼は短く言った。
「……本当に綺麗だった」
それだけ。
だが、それは彼から私に向けられる初めての『前向きな評価』だった。
純粋な好意の言葉。
私は、ほんの少し緩む口のまま応えた。
「ありがとうございます」
簡潔に返す。
それ以上は何も言わない。オーランドも、何も言わなかった。
別に彼の今までの態度や無礼を許したわけではない。婚約を解消したいという心も変わらない。だが、今くらいは別にこの感情に浸っても良いだろう。
――次は、デュエル。
本当の勝負は、まだ終わっていない。
けれど今は、今のこの瞬間だけは、この勝利を喜んでも良いだろう。そうして私は、勝利の嬉しさに浸りながら、表彰を受けた――。




