48.
ミレイアは彼女らしい元気なダンスと光の魔法で会場を盛り上げ、セレナ先輩はヴァイオリンと造形魔法で『恋』を表現した。何気にマナ・タグで蒼氷の数少ない生き残りだったガイゼル先輩は生命魔法を使った豊穣の祈りの舞を、モヒート先輩は演目こそオーランドと同じ『剣舞』だったが、彼とは真逆の激しく、そして力強い美しさを持った剣舞だった。しなやかな石像と剣を交え、戦う。より実践的で、緊張感があるスタチュエット。
皆、『個性』が出ている素晴らしいスタチュエット。
かつての私であれば、その『個性』に対して、引け目を感じていただろう。私は何でもできたけど、何も好きなものなんて持っていなかったから。
しかし、今は違う。自分でも変わったとは思う。
ある人は、『昔の話しかけ難い雰囲気とは変わった』、『接してみると、聞いていた評判と違った』と言った。そして、私の師であるクレイヴ先生は――『開花した』と私を現した。
これはそんな師の言葉から着想を得た演技。
今日までに出会った人、知識、環境に感謝を込めて、私の今持てる全てを現したスタチュエット。
暗闇の中、舞台袖から舞台の中心へと歩みを進める。
そして、演技が始まる直前――私はスタート位置でしゃがみこみ、周囲を薄い膜で覆った。
舞台の中心で私が小さく薄い明かりを灯すと、観客が中央にある球体――私が作った卵のような、人間一人が覆われた物体に注目しているのが分かった。
何度も、何度も、小さな明かりを飛ばして、殻を破ろうとする。しかし、殻は分厚く、破れない。
その苦しい姿を、何をしても殻を破れない姿を、かつて教わっていたバレエの動きを交えて表現する。殻を破るのを諦め、周囲は真っ暗になる。
数秒の間の後、殻の外に炎でできた鳥が止まり、殻はいとも簡単に、弾けるように泡になって消える。
弾けた殻の内側から、私は戸惑いながらも出てくる。1歩、2歩、3歩。
歩いていくと、炎の鳥が私の周囲をくるくると旋回しながら、淡く舞い上がる。そして、それが私が着ている服の一部に引火した。
客席から軽く悲鳴が上がる。でもそれも一瞬だった。私が舞台用にと着ていた灰色の、地味でみすぼらしく見えるくらいに薄汚れた服が燃え尽き、純白のバレエ衣装が現れる。スカートが燃え尽きると同時に、チュチュボンスカートがポンッと跳ねて出現する。
客席が、戸惑いから軽い歓声に変わったのが分かった。
服が変わると同時に、炎の鳥だけでなく、水でできたリス、光の粒子を纏った蝶や蔦でできた鹿が現れる。爪先を踏み出した先から、光魔法でできた草木が生い茂る。
タンジュドゥバン、グランバトマン。高く上げた脚が、纏わりついていたかつての空気を切り裂き、舞台に光をあふれさせる。
私の動きに合わせて、周囲の光の草木が意思を持ったように芽吹き、茎を伸ばしていく。水でできたリスが楽しげに跳ね、蔦の鹿がゆっくりと歩を進める。ルティレ、グランバトマン。
光魔法と音魔法を複合して作り出した楽器が曲を奏でる。
その音に合わせて、私は踊る。足の先から足のてっぺんまで美しく。私が伸ばす腕の延長線上に、光の軌跡が残る。それは私を支える翼のように広がった。
「天使が舞っているみたい」
最前列の観客がポソリと呟いたのが聞こえた。
ピルエット。
回転を始めると、周囲の魔法で作り出した動物たちが一斉に私の元から外へと動き出す。炎の鳥が客席の奥まで飛び回り、水のリスが舞台から手すりを伝って駆け出す。蝶たちは私の周囲を飛び回る。鹿はゆっくりと歩きだす。
回転するたびに舞台から飛び出した魔法が編み込まれ、周囲には目にも鮮やかな光の庭園が完成していく。
回転を終え、ピタリと静止すると、客席の様子が良く見えた。たくさんの視線が私に向いている。でも、緊張はなかった。むしろ、気持ち良いとすら思える。
そのまま、アラベスク、シャッセで軽やかに体重を移動させ、右足で踏み込みながらジャンプ、グランバドマン。重力を感じさせない跳躍。空中で脚を大きく開いた瞬間、私は自分の全てを開放した。暗闇の中にいた私の殻が砕け、その中から色鮮やかな羽が広がるように――。
空中で、私は笑っていた。そして着地はアラベスクで、音も感じさせないほどにしなやかに。
私は、楽しく……本当に楽しく舞台を踊りまわった。
複数の魔法の行使で脳が焼き切れるくらいにしんどいのに、今の私はただ、楽しかった。
かつて何も持たなかったはずの私が、今こうして、魔法とダンスで世界を自分の色で染め上げている。
何も持っていなかった私は、スタチュエットで、自身の中から溢れんばかりの情熱を放っている。人は変わる。きっと数年後の私の世界はもっと花開いて、輝いている。そんな希望と恍惚感の中で私はアティチュードのポーズでスタチュエットの演技を終えた。
魔法で奏でていた音楽が停止すると、静寂が訪れる。そして――割れんばかりの拍手が、私を包み込んだ。
この作品は、オカマ魔女のフィギュアに見守られながら書いてます。




