47.
1日目、2日目は代表に選ばれなかった生徒含めた団体競技、3日目以降にカンタータ、グリモワール、スタチュエット、レギオン、そして最終日にデュエルと続く。それが魔導祭の日程。
私の残りの役割は、5日目のスタチュエットと7日目のデュエルだ。
カンタータ、グリモワールの結果は、どれも1位を 紅炎……オーランドが独占していた。正直、確かにオーランドは強い。それに魔法の知識もある。『天才』と言われるものだろう。
でも、負けるとは考えていない。スタチュエットでも、デュエルでも、私は打ち勝って見せる。その覚悟をしながら、私は5日目、スタチュエットの朝を迎えていた――。
スタチュエットは学院の中の大ホールの中で行われる。生徒だけでなく、保護者や学院関係者、そしてプロのスタチュエットの演者も見に来ているらしく、ホールは立ち見客が出てくるくらいに人で埋め尽くされていた。
代表選手である私達生徒は、舞台裏で待機していた。
私は蒼氷のメンバーに早めに連れてこられて、一番乗りだったが、段々と代表生徒が集まってくる。
雑談をしながら待っていると、 紅炎のメンバーを引き連れて、オーランドがやってきた。
一瞬カチリと視線が合い、交わるが、向こうが先に気まずそうに視線をそらした。
てっきりまた絡んでくるかと思ったが、何の反応もないその反応に、拍子抜けした。他の生徒の視線があるからかもしれない。
こうして、生徒が集まり切ってから、舞台が上がる。
一応、他の生徒の演技も見られるように、モニターが設置されており、舞台の映像が投影される。今は、スタチュエットの説明とそのルールについて、解説している最中だ。
【第五競技:スタチュエット 基本ルール】
・演技時間は最大15分。15分超過時は強制終了+減点
・魔法の使用制限なし。どんな魔法を使用することも許可する。
・道具の持ち込みは2つまで許可する。
【第五競技:スタチュエット 禁止事項】
・観客・審査員への攻撃
・制御不能な魔法の使用
・他者の演技への干渉および妨害
【第五競技:スタチュエット 評価基準】
・構成:45点
スタチュエットのストーリー性、物語の構成を評価する項目。
・技術力:25点
難易度の高い魔法を組み込んでいるか、その制御の緻密さと演者の演技力、ダンスや演奏などの技量を評価する項目
・美術:20点
魔法の美しさ、組み合わせ、魔法の流れの構成などを評価する項目。視覚的な美しさが重視される。
・独創性:10点
魔法の独創性、個性、発想力を評価する項目。
スタチュエットは本来、オペラやクラッシックのような芸術というポジションだが、今回は順位をつけるためにその基準点を設けているようだ。それに、15分と素人としては長く感じる時間の中で演技をする。本来のスタチュエットはもっと長いが。
きちんと蒼氷のメンバーに相談を乗ってもらってきてからここに来たが、生徒のレベルを見ていないので果たして通じるか……なんて、直前になってから段々と不安になってくる。
初めて知った。私は意外と本番で緊張するタイプなのかもしれない。否。今までは演奏会でもダンスでも興味が全くなかったから、緊張しなかったのだ。
人間は本番となると、こんなにも緊張するものなのか。
「No.1 紅炎 オーランド=レッドグルール。準備が出来ました。舞台へ上がってください」
そういえば、1番はオーランドで最後が私。
なんだか最初と最後で対立しているように思えた。そうして、オーランドが扉の先に消えていく。
そして、そのすぐ後に、紹介と共に舞台に現れた。
静寂。
既に舞台に上がった時点で、演技は始まっている。
そしてその数秒後、掌から引き抜くように出現させた剣を右手に持った。
ただ、それだけ。それだけなのに、空気が変わる。
客席を視線を向ける。一切の隙がない構え。
剣の構えも、呼吸も、視線も、全てが研ぎ澄まされていて――容姿も相まって、まるでそこに立って、スポットライトに当たっているだけで、『完成された彫刻』のように見えた。
次の瞬間。
――一閃が走る。剣を振った時の音が遅れて鳴った。それくらいに鋭く、速い一閃。
振るわれた剣の軌跡をなぞるように、細い光が舞台に残る。その一本の線が、始まりだった。
次の動きは、あまりにも静かだった。振った、というより、攻撃を受け流すような動き。
だが、その軌跡に沿って、淡い光が残る。細く、繊細な線。まるで、空間に糸を通したように。
二歩歩く。そして、腰から上だけがしなやかに捻られ、遅れて腕がついてくると同時に回転。その流れを利用するように、刃が空中を走る。
今度は三歩歩く。踏み込みは浅く、しかし、その一歩で重心が完璧に移る鋭く力強い突き。
細く伸びた刃先から、光がまっすぐに伸びる。
オーランドは止まらない。だが、一つ一つの動きが、丁寧に繋がっているのが分かる。
剣を払う、受け流す、ひらりと返す。実際に戦っているかのような剣。
二振り、三振り、四振り。
斬撃が増えるたびに、光がオーランドの周りに漂うように彼を明るく照らす。やがてそれは、幾何学的な紋様へと変わっていく。
「これは……魔法陣?」
剣筋で描かれた美しい魔法陣。
振るうたびに、光が発生し、残り、重なり、構築される。
剣の軌跡そのものが魔法になっている。
制御の制度が異常だ。あんな緻密なものを集めて、正確に描き出すだなんて、見たことがない。
あんな攻勢をしていたら、普通なら途中で制御を失って崩れるものだ。
剣舞を披露しながら、普通では考えられない構築方法で魔法を構築している。
なのに彼の魔法は全く乱れない。
やがて、舞台の周囲を取り囲むように無数の光の魔法陣が張り巡らされた。
その中心で、オーランドは静かに息を吐く。
そこからは怒涛の剣捌きだった。今までとは違う、まるで戦地にいるかのような激しい剣筋。
剣を引く、踏み込む、避ける、防御する、振り翳す。
それらの動きに、今度は様々な属性が重なり、その属性に合わせた動きに変わる。
炎。
荒々しく、全てを焼き尽くさんとする激しい剣と魔法。
少し、恐怖を感じた。舞台を貫いて、こちらまで貫通しそうな程に鬼気迫る剣。
風。
楽しそうに、跳ねながら踊るような軽やかな剣と魔法。
観客も音楽に合わせて楽しそうに手を叩いている。オーランドにその場の雰囲気が支配されていることが分かった。
雷。
今までとは打って変わってエキセントリックで、目で追うのが大変なほどに素早い動きの剣。
水。
繊細で、美しく、孤独な剣。
その美しさに、会場ですすり泣くような声が聞こえていた。
喜怒哀楽を表現しているようだ。
しかも、剣舞と魔法、その演技で他人の心を大きく動かしている。
正直、こんなところでも才能があるのかと、内心思った。
そして、大きな一閃。その一撃と同時に、魔法陣が割れる。
その光り輝いていた魔法陣が割れて、周囲を光で包むのはとても美しい光景だった。
そしてその光は、段々とオーランドの剣に収束していき、最終的にはその刀身に全てを飲み込まれた。
最後に、オーランドは剣をまた掌に仕舞った。その姿は、まるで祈るように見えた。
美しさの余韻だけを残して、スポットライトも消えた。
残ったのは、暗闇と静寂。
そして、中央に立つオーランド。
スタチュエットの演技が終わったのだ。しかし、誰もすぐには声を出せなかった。
だが、すぐに会場を割れんばかりの拍手が包む。
選手控室は、絶望している生徒、床に崩れる生徒、恍惚とした顔の生徒、負けてはならないと自分自身の頬を叩いて景気づけをする生徒、様々だった。
でも私はそのどの生徒とも違った。
凪。自分の演技に対する嫌な緊張が完全に解け、適度の緊張だけが残された感覚。うまく集中できている時の感覚。私はそのまま自分の出番を待った――。
こちらとは別作品ですが、何作か完結済みの作品を投稿しました。
お時間ありましたら、是非!
以下の作品は連載中です。この作品はそろそろ完結予定なので、次は以下を更新予定です。
『今回は絶対に婚約を回避します!~前回塩対応してきていたはずの元婚約者の様子がおかしいのは何故ですか!?~』




