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輿車

 作戦会議を終えたあとの廊下。

 ジークフリートの牽引する、タケルを載せた荷車がゴロゴロと音を立てる中、彼女は軍師クリスを伴って宝物庫へと向かう。

 先の会議で痛いほど思い知った、場の凍てついた空気。

 第一王女の立場でその場を無理やり押し切ったが、結局は全員が疑念を残すことになった。

 いや、最初からわかっていた。

 得体の知れない素焼きの土器に、自らの身命を進んで託せる者は絶無だということに。

 このまま指揮を執らせたところで、雑兵一人とて動かせないだろう。

 そこで一計を案じることになった。

 名付けて隠匿作戦。

 やんごとなき身分の者が卑しい庶民に見られないように、御簾で姿を隠して権威性を高めたという話から思いついた方法。

 王城内に設けられた教会の宝物庫に収蔵されている神事用の輿があり、それを使って姿を隠しつつ、タケルの英雄性を伝えようとするイチかバチかの賭け。

 門番を務める教会専属の騎士に開門を命じ、タケルを荷車ごと外において宝物庫に入るジークフリート。

 目の前の土器を騎士たちが胡乱な目で見つめる中、三十分程して、立派な飾りのついた輿車を曳いてやってくる。

 本来は教会の祀る神像を置き、各地を行脚するための物。

 それを王女の権力の下、強引に借り上げた。

「こちらにあなたを乗せて運びます」

 そういうと、門番の騎士と協力してタケルを積み込む。

 移動中、うっかり倒して破損させることのないように、台座部分をしっかり固定すると、ジークフリートは兵士の待つ閲兵場へと輿車を曳き始める。

 閲兵場

 豪華に飾られた広間に、タケルを乗せた輿車がジークフリートに牽引されて入る。

「おいあれを見ろよ」

 輿車を見た雑兵の言葉に、周りの兵士が反応する。

「おお、あれが…」

 輿の中に異世界からの英雄が入っている兵士たちが俄かにざわめきだす。

「どんなお姿をされているのだろうか…」

「きっと屈強な体で、一騎当千の猛者なのだろう」

「いや、神話に出てくる女神さまのように、美しいお姿をされているに違いない!」

 異世界の英雄の姿に、あらぬ妄想を膨らませてひたすら期待を高めてゆく将兵たち。

 対する真実を知るジークフリートは、高揚する兵団を眺めながら、ただただ蒼い顔で沈黙する。

「…クリス、いいわね?」

「ええ、分かっております」

 輿車を止め、深呼吸。

 兵士たちの視線が一斉に集まる中、ジークフリートは巨大なハッタリをかます。

「皆聞け、妾の召喚術により、異界の英雄が現れた。

 かの物ならば、わが国を救い、世に平和を取り戻してくれようぞ!」

 ジークフリートの演説に湧き上がる兵たち。

「ジークフリート様、早くその英雄のお姿を見せてください!」

(ついに来たか)

 絶対に知られてはいけない姿。

 期待に目を輝かせる兵たち。

 今にもここから逃げたい感情を抑え、さらなるハッタリをかます。

「それはならぬ」

 凛然と、そう答える。

 俄かに動揺する兵士たち。

「な、なぜですか」

 困惑しながら兵士長が口を動かす。

「この者は誇り高きお方、おいそれと姿をさらすことは好まれぬ様じゃ。

 じゃが安心せよ、この者の持つ軍略は確かじゃ。

 いざとなれば妾がこの者をサポートするゆえ、安心して戦うがよい!」

「お、おお…」

 何とも言えない空気になる閲兵場。

 困惑した空気を残しながら、兵たちは場を離れてそれぞれの部隊に分かれてゆく。

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