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シュナと余命10年の騎士  作者: ぽこ
最終章
49/54

ラルシュの祈り

突然現れた女神に、シュナ達は一様に固まった。



チビがどれだけ懇願しても頑なに拒んできた女神が、今になって何の為に現れてのか。

皆礼をとるのも忘れ、ただその御姿を見つめる。



『ミネルヴァ様!』



チビの怒気を含んだ一声で、呆気にとられている子ども達以外が最敬礼をとると、女神は『よいよい』と楽な姿勢をとるように促した。



『今更なんの用だよ!』

『せっかく来たのに酷い言われようじゃな』

『僕が何度頼んでも『ならぬならぬ』ばっかりだったじゃないか!!ならぬならぬーー!!』

『あの時はどうにもならぬ事だった故、ならぬと申したまでじゃ』

『じゃあなんで来たんだよ!』



女神は妖艶な微笑みを浮かべると、まるで舞うようにラルシュの元へと歩みを進めた。立てば芍薬坐れば牡丹歩く姿は百合の花ーーーその姿はこんな時であって美しく艶やかだ。




『ラルシュや』

「ミネルヴァさま?どうして来たの?」

『汝の祈りを叶えにきたのじゃ』

「いのり?」



今も琥珀色の目に涙を(たた)えながら、ラルシュは不思議そうに女神を見つめる。



『今、汝が祈ったであろうよ。「ずっと一緒にいたい」と。()()()の汝の祈りじゃ。叶えてやろうぞ』

「きとうし?」



突然の女神の言葉に、シュナ達は狼狽した。

シュナと同じ琥珀色の瞳はただの遺伝であるとしか思わず、稀有なギフトが遺伝しているなど知る由もなかった。



ダダとセルムが蒼白になりながら叫んだ。

延命を祈る代償はその()()()()()であるーーー

祈りの代償を幼子に払わせるわけにはいかないと、2人は力の限りに懇願した。



「ミネルヴァ様!幼いラルシュの命と引き換えに生きながらえようとは思いませぬ!どうかその祈り、無かったことにしてくださいませ!」

「そうです!ラルシュは何もわかっていない!命を削り分ける事の意味なんてまだわかっていないんです!どうかそれだけは!!」



女神は騒ぐ男達を一瞥すると、白い柳のような手を振ってその声と動きを封じてしまう。

声の出なくなった2人はそれでも懸命に何かとか叫ぼうともがき、シュナとアルも動かぬ手をラルシュに伸ばそうとするが女神の制止によってそれも叶わない。

自我の強い大人達は動きを止められ、なす術もなくその場に立ち竦んだまま。



『ラルシュや。まだ幼い汝の生命を分けるには忍びない。代わりにお前の1番大切な物を出すが良い』

「大切なもの?」



ラルシュは暫し一考すると、小さな箱から緋緋色金のピアスを取り出して女神に差し出してみせた。



「ぼくのたからもの。だいじだいじのたからもの!」

『ほう、これはこれは。緋緋色金の耳朶飾りか』

「うん。ダーにもらったの。これがたからものだよ」

『これと引き換えにダダらの命を長らえさせてやろうと思うが…如何にする?』

「…なが?いか?」



幼いラルシュには女神の言葉が難しかったようで、こてんと首を傾げてしまう。



『むむ、難しいか。…これを妾にくれるというなら、これからもダダらと一緒にいられるようにしてやるが「あげる!!これ、みねるばさまにあげる!!だからお願い!!ダー達と一緒にいさせて!!」』



女神が言い終えぬうちに、不遜にも言葉を被せたラルシュは興奮しながら女神の手に緋緋色金のピアスを押し付けた。

それを見ていたルージュと双子達もはっと我に返った様子で、箱からピアスを取り出すと、我も我もと女神に押し付ける。



「ルーもあげる!ルーのたからもの!あげたくないけどパパ達と一緒にいたいからあげる!だからミネルバ様お願い!」

「「おねがい!!」」



子ども達によじ登られる形となった女神は仰天したが、呵呵大笑(かかたいしょう)しながらふわりと子ども達を抱きしめた。



『汝等は利他出来る聡い子らに育ったな。よかろう、その祈り、これをもって叶えてしんぜよう』

「「「「しんぜよー!」」」」










途端に眩い光の渦がラルシュの全身を包み込む。


そしてキラキラと輝く琥珀の揺らぎが辺り一面に広がると、その波紋はダダとセルムに向かって押し寄せていく。固まったままの2人は信じられないという顔をして、ただその琥珀色の波の中で揺蕩(たゆた)うばかり。



シュナは2人の頭上に浮かぶ『()()0()』が次第に形を変えていく奇跡を見逃すまいと、息をするのも忘れて注視していた。



それは三桁、四桁、五桁…と増えていき、最後に示された数字は穏やかな余生を過ごすに余りあるもの。

ダダもセルムも()()といっても憚らないだろう。

子ども達が産んだ子らを可愛がることも出来るだろう、そんな数字が新たに浮かんでいる。



シュナは声にならない声で、女神に感謝した。

自分ではどうすることも出来なかった2人の死を、無垢な祈りで救ってくれたラルシュに感謝した。










『さて、用はこれで済んだ。なに、()()()のはシュナに限ったことじゃ。これは新たな祈祷師の祈りじゃからの』



女神はチラリとチビを一瞥すると、意地悪そうに北叟笑(ほくそえ)んだ。



『ラルシュが祈ってくれるのを待っていたわけではないぞよ。偶然じゃ、偶然。ダダがいなくなるとお裾分けがなくなると他の神々から非難囂々(ひなんごうごう)だった故、助かったわ』



あっはっは!とまた呵呵大笑しながら女神は、『ついでにこれも貰っていくぞよ』と壁に貼られた昨日ラルシュが描いた御姿の絵を嬉しそうに懐にしまうと、そのまま音もなく消えていった。

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