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シュナと余命10年の騎士  作者: ぽこ
4章 それぞれの選択
41/54

我儘

「アンジェさん綺麗だったなぁ」



シュナは今も興奮冷めやらぬ様子で、今日シュナ達の家の小さな庭で行われたガーデンウェディングのひと時を回想する。


プロポーズから2ヶ月後ーーー

この日のためにキラと一緒に大急ぎで作り上げたウェディングドレスは、真っ白な繊細な刺繍とレースをふんだんにあしらわれた逸品で、日によく焼けたアンジェによく映えていた。嬉しそうに笑い合う2人を見て、来客達は口々にお祝いの言葉をした。


職人ギルドのドンドやキラをはじめとして、冒険者ギルドのガルウィングやマイル、キルフェからはタンタ親子と第一騎士団寄宿舎の管理人夫妻であるメアリーやダンなど多くの人が駆けつけてくれていたっけ。皆嬉しそうだったな。



『次はシュナの番だな』

「わたし?ふふ…ダダさんが泣いちゃうだろうな」

『泣きすぎて枯れちゃうかも』



シュナとチビはベッドの中に潜り込みながらクスクスと笑い合う。階下のリビングではまだ来客とダダ達が夜通し飲んでいる頃だろう。12時を回った時点でシュナ達は部屋へと帰らされてしまったのが残念でならないが、過保護なダダは酒を飲むと更に過保護になるものだから仕方がない。



『シュナはもう18だから結婚してもおかしくない歳だろ。アルだってこの前の様子じゃプロポーズを考えてる様子だったし』

「…わたしね、この家にいたんだ。ダダさんとセルムさんとその日が来るまでずっと一緒にいたい」



セルム達は新居を構えることなく、アンジェたっての希望でアンジェがこの家に入ることで収まった。4人と1匹で暮らすことになると知った時、シュナは心の底から嬉しかった。

アルブレヒトと結婚することは願ってもいない事だが、嫁に行くとなると話は変わって来てしまう。



「あと5年、この家にいたいと思うのは我儘かもしれないけど、それでもみんなと一緒にいたいの」

『そんな事を悩んでたの?』

「うん…」

『アンジェみたいにアルにこの家に来て貰えばいいじゃん?なんで人間ってウジウジ考え過ぎるのかな。アルに聞いてみなよ』

「お婿さんに家に来てもらうって事?」

『人間って面倒くさいね。どっちがどっちでも、一緒にいられるならいいじゃん?』

「そっかぁ…一緒にいられるなら、いいのか…な?聞いてみようかな」



(それを聞くということは、周り回ってシュナからのプロポーズになるのでは)



とチビは思いつつも、結婚に前向きになりかけているシュナに水を差すようなことは言わない。ペロリとシュナの鼻を舐めると「俺は何処にでも着いて行くけどね」と言うとそのままスヤスヤと眠り始めた。



トントン…



「シュナちゃん起きてる?」

「メアリーさん!!」



扉の向こうからメアリーの声が聞こえてきた。

シュナは寝始めたチビを起こさぬ様にベッドから飛び出ると大急ぎで扉を開ける。


5年ぶりのメアリーとは結婚式の最中に話していたものの、まだまだ話し足りなかったシュナにとってこの真夜中の来訪は願ってもないことだった。

メアリーに飛びついてひとしきり抱擁し合うと、薄暗い部屋の中を案内して針仕事をする際に使う作業台に向き合って座って貰った。



「これがシュナちゃんの仕事机かい?」

「はい!家で針仕事をする時はここで作業します」

「祈祷師の針子さんかぁ…大したもんだ。あの時、キルフェから逃げて正解だったね」



作業台の木目をなぞっているメアリーの目には薄らと光るものがあった。メアリーがいなければ今ここにいる自分はいなかったと改めてシュナは思いながら、この5年間にあった出来事を語っていく。

祈祷師の力は魔物達を送還することに使っている事や、針仕事の際に細々と祈っている事、そして、今結婚を考えている人がいて悩んでいる事ーーー



「あはは!チビちゃんの言う通りだよ!ひとりで悩んでる時間があるなら2人で悩みな!どうとでもなるもんなんだよ。駆け落ちまでしたあたしがいうから間違いないよ」

「考えすぎてたみたいですね。聞いてみなくちゃ」

「…シュナちゃん、今幸せかい?」

「はい!とっても」

「それは上々。いつでも『今幸せ』って胸張って言える自分でいられるようにね。大事なものって案外少ないから、それを間違えなければ、あとはどうでもいい事ばかりだ。幸せになるんだよ」

「…わたしの結婚式にも来てくれますか?」

「勿論さ!何を差し置いても駆けつけるよ。シュナちゃんはあたしの可愛い娘だからね」

「ありがとうメアリーさん!」





次の日ーーーー


宿泊した来客達は皆名残惜しそうに帰路についた。

残ったのは、庭の式場の片付けとリビングに山になっている酒瓶やつまみ、二日酔いで屍と化しているダダとセルムのみ。



「あれくらいの酒で二日酔いなんて弱過ぎる」

「あはは!アンジェさんが強すぎるんですよ」

「シュナちゃんストーップ!今日から私のことはお姉ちゃんと呼ぶこと。そしてその他人行儀な敬語をやめること。OK?」

「お、お姉ちゃん!」

「そう、よく出来ました。これからよろしくね!」



タイミング良くアルが箒片手にやって来たので、シュナ達は手分けして庭の掃除を始めた。

ガーデンウエディングのために近所中から借りて来た椅子やテーブルを難なく片付けているアルの背中は、16歳だった2年前に比べて随分と逞しくなった。背もダダと同じくらいに伸び、軒下に飾ってあるバルーンをひょいひょいと撤収していく。



「アル、大きくなったね」

「ん?まだ伸びてるよ。セルムさんほどは無理かもしれないけど、ダダさんは抜けるかもしんない」

「セルムさんはよくドアの上枠に頭をぶつけてるから、あそこまで大きくなると大変かも」

「それは勘弁だな!」



軽口を叩き合っていると、ふとした瞬間に静寂が訪れる。



「ねぇアル」

「何ー?」

「結婚したらうちに来てくれる?」

「いいよー。……………って、え!?結婚!?」

「うん。でも私はアルに話していない秘密があってね…この家に居たいの。ダダさんとセルムさんと一緒にいたいの」

「そりゃ勿論結婚する!!この家に居たいならこの家に俺が入ればいい!!え、待って、シュナちゃん、え!これプロポーズ!?…わ、痛ぇ!!」



アルは慌ててシュナのそばに駆け寄るものの、うっかりテーブルの脚に脛を打って悶絶する。蹲っているアルに駆け寄って心配するシュナをよそに、当のアルは顔を真っ赤にしながら「俺かっこ悪りぃ」と顔を挙げられずに更に蹲る。



「大丈夫?」

「…俺から言うつもりだったんだ」

「あ、うん」

「…2年前に初めて会った時、なんて可愛い子なんだろって。仲良くなって2人で出かける様になって、付き合ってくれた日の事、今でも覚えてる」

「鍛冶場で火傷してお見舞いに行った日だよね」

「俺やっぱカッコ悪りぃ…」

「そんな事ないよ」



クスクスと笑うシュナはしゃがみ込んでアルの隣に座り込む。そして、ポツポツとこれまでのことを話し始めた。アルは時折相槌を打ちながら、ただ黙って聞いてくれた。







「そんなわけでね、ダダさんとセルムさんにはタイムリミットがあるの。アンジェさんもそれを全てわかってそばにいることを選んだんだ」

「そんなことって…」

「だから、その日が来るまでこの家でみんなで暮らしたいの。それでも良ければ…「シュナちゃんストッーープ!」」

「この先は俺が言いたい」

「…はい」

「俺の寿命があとどれくらいかわかんないけど、俺はずっとシュナちゃんのそばにいる。ダダさん達に来るその日もそばにいる。この家に入るし、なんならデューラーを名乗ってもいい。大好きなんだ。だから俺とずっと一緒にいてください。これが俺の我儘。…シュナちゃん、俺と結婚してください。」

「はい。よろしくお願いします」

 


家の庭だが、親父(ダダ)は二日酔いで伸びているので邪魔しにくることはないだろう。

2人は触れるか、触れないかほどに唇を合わせる。

そしてアルはシュナの下唇をついばむと、シュナの身体を引き寄せてぎゅっと抱きしめた。



「大好き!」

「わたしも!」



言い出しはシュナだったものの、2人のプロポーズはこうして無事成約したのだったーーー

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