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シュナと余命10年の騎士  作者: ぽこ
4章 それぞれの選択
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セルムのプロポーズ

「なんで脳筋(セルム)はあんなに嬉しそうなんだ?」



はぐれ送還の帰り道ーーー

菜の花で有名な街道は初春らしい風景に様変わりして、一面菜の花に埋め尽くされている。


ダダの愛馬黒風に相乗りしながら、シュナが横目でそれを楽しんでいると、ダダからひとつの疑問を投げかけられた。先行くセルムは後ろから見てもご機嫌で、少し音の外れた鼻歌を奏でている。



「アンジェさんと仲直りしたらしいですよ。ダンジョン踏破デートの時に喧嘩して以来、「口を聞いてもらえない」って嘆いていたからよっぽど嬉しかったんじゃないですかね?」

「はっ、あれから1ヶ月経って漸く仲直りしたのか」

「アンジェさん、本気で怒ってましたからね」

『めちゃくちゃ怒ってたよなー!』



キラの仕立て屋にやって来たアンジェから事の顛末を聞いていたシュナは、喧嘩の原因を聞いたのを思い出しながらため息をついた。その場にいたチビはアンジェのあまりの怒りようを思い出してゲラゲラと笑い出す。



ダンジョン踏破した直後、前もって計画していた逆プロポーズ作戦。アンジェなりに勇気を出してプロポーズしたにも関わらず、突然の事で驚いたのか「でも、でも」と脳筋らしくない返事をするセルムに腹を立て、そのままセルムを置き去りにしてダンジョンから帰還したーーーそう言って本気で怒りつつも、ひどく傷付いていたアンジェ。



「1週間『唐辛子』に通って、漸く許して貰ったみたいです」

「それで脳筋(セルム)あんなに機嫌がいいのか」

「なにー?俺の話っすかー?」



セルムはニコニコと嬉しそうに振り返りながら、愛馬ふぅちゃんの足並みを黒風に合わせて並走させる。



「そうなんすよ。やっと仲直り出来たんす!」

「プロポーズされて「でもでも」なんぞ言うなよ」

『セルム最悪だぞ、それー』

「いや本当アレはなかったっす。驚いたとは言え、最悪の返事ですよね。平身低頭謝りました!」

「それでどうするんですか?アンジェさんからのプロポーズ受けるんですよね?」

「いや、受けないよ」

「え?どうして!?もう2年もお付き合いしてるじゃないですか!え?やだ、セルムさん酷い!」



セルムとアンジェが付き合いだしてから2年が経っていた。セルムは25になり、アンジェに至っては童顔ながら27だ。結婚適齢期の女性を捕まえておきながら、プロポーズを断るなど()()以外の何者でもない。

シュナはドン引きしながら、セルムを睨みつける。



「シュナちゃん違う!そうじゃなくて!改めて俺からプロポーズしようと思ってさ!そう言う意味!」

「あー…そういうことですか。良かったぁ…」

脳筋(セルム)のわりには考えたな」

「俺だって色々考えてたんすよ。あと5年しかないのに結婚していいのかって。でもやっぱりアンジェちゃんと一緒にいるのが俺の幸せだし、冒険者だからいつか突然いなくなることも覚悟出来てるって前々から言っていたから、じゃあ良いのかなって」

「…例えあと5年でもセルムさんには幸せになって欲しいです。アンジェさんにとってもそれが幸せだと思います」



シュナは改めてセルムの頭上に浮かぶ数字を読み取る。

それは5年を少し切ったくらいを表示しており、いくら目を凝らしても変わることはない。それはダダも同じだ。



「うん。幸せになる!…そういうことで、今日ドンド爺のとこに寄ってってもいいすか?結婚指輪を作ってもらおうと思って!」

「それを持ってプロポーズするんですか?素敵!」

「ドンドさんならいい物を作ってくれるだろう。しっかり頼み込めよ」

「うぃす!」

『もう失敗するなよー!』






一連の話を聞いたドンドはガーハッハッハッと大笑いしながら、セルムの背中をバシバシと叩いた。

隅で話を聞いていたアルブレヒトも、何か思うところがあるのか真剣にその話を聞きながら、あまりのお粗末なセルムの失態を反面教師としているかのように頷いている。



「失敗したな!なに、挽回すれば問題はねぇ!ミネルヴァ様に献上するのと遜色のない指輪を作ってやるから、当たって砕けてこい!」

「砕けるのは勘弁っす!」

「ガーハッハッハッ!ちょうどお前さん達の剣を使った緋緋色金(ひひいろがね)の余りが少しだけあるからそれで作ってやるよ!特級冒険者のアンジェにはそれくらい硬いやつじゃないと壊れちまうだろ!」



ドンドはそう言うと、鍛冶場の作り棚から重厚な箱を持ち出して中を見せてくれる。そこには真っ赤に燃えているような延べ棒がほんの僅かに鎮座していた。



「あと4本くらい作れるくらいは残っているから、嬢ちゃんとダダの結婚指輪分くらいはあるぞ!」

「シュナはまだ結婚は早い!」

「え!」



アルブレヒトが思わず声を上げた。

それと同時にダダが冷気漂う視線で睨みつける。

アルブレヒトとシュナは揃って18になったばかりだが、アルタでは16から結婚を認められている。多くの者は20前後に結婚するので、早すぎるということはないのだ。



『まあまぁ。結婚が早いってことはシュナの子どもに会えるのも早いってことだぜ?シュナの子どもなら可愛いと思うぜ〜?』

「ぐっ…シュナの子ども…は…可愛いだろう。だが…」

『だろ〜?シュナもいつまでも子どもじゃないんだから、そろそろ認めてやれよ〜」

「ダダさん認めてください!お願いします!」

「おいおい、こんな流れでアルブレヒトまでプロポーズしてんじゃねぇぞ。ガーハッハッハッ!」



顔を真っ赤にしたシュナは意味もなく店内を見回し、聞かなかったふりをする。一同が揃った店内カウンター越しにプロポーズされるのはいくら何でも野暮である。



「あ!今のは無し!違う!違うから!シュナちゃん違うから!」

「…うん、聞かなかったことにする…」

「はい!皆!今日は俺のプロポーズ大作戦の話だから!俺の話をして!アルブレヒトはまた別の日にして!」

「また別の日…シュナがプロポーズ…いやでも、俺が生きているうちにシュナの子どもを…可愛いだろうぁ…いやだが…」



ダダが美しいポンコツになり始めたところで、セルムとドンドは結婚指輪のデザインについて詰め始めた。

緋緋色金に彫金を施すのは硬すぎて刃が入らないということで、シンプルな甲丸の指輪を仕立てることがトントンと決まり、話はいつ何処でプロポーズするかという相談に変わっていく。


アルブレヒトは慌々とシュナに弁解し、チビはそれを見ながら「こちらもそろそろだな」とほくそ笑む。






それから1週間後、菜の花の咲き誇るあの街道にセルムとアンジェはいた。


皆の賛同を得て、シュナが祈祷師であること、そして自分のタイムリミットが5年であることを告げる。

初めて知った3人の秘密に動揺を隠せないアンジェだったが、死と隣り合わせの特級冒険者であるアンジェの覚悟は変わらなかった。



「騎士の誓いはシュナちゃんに立てたから、騎士としての自分はシュナちゃんのために生きる。それでも…アンジェちゃんを残して逝ってしまうことを許してくれるのなら、自分は共にいたいと思っている。俺と結婚してくれませんか?」

「ずっと長生きできないって言ってたのはそういうことだったんだね。そっかぁ…5年かぁ…」

「…5年、やっぱ短いよな…ごめん、今のプロポーズ無かったことに「は?また置いてけぼりにされたいわけ?」



アンジェはプロポーズの場に相応しくない姿ーーー仁王立ちで腕を組みながら、セルムの言葉を遮った。



「あと5年あれば、3人…4人は産めるわね。死にたくないって泣かせるくらい幸せにしてやるから覚悟しな!」

「アンジェちゃん…!」

「今から泣いてんじゃないよ!泣きたいのはこっちだって言うのに…この泣き虫セルム!」



2人は泣き笑いしながら、抱きしめ合う。

遠くない未来に訪れる別れを怖くないといえば嘘になるが、それを恐れて何もしない方が怖い。限りある時間を1秒も無駄に出来ない2人は、すぐさま結婚式の準備に取り掛かろうと囁き合う。



でも、今はこの幸福に浸りたい。

ドンドの作ってくれた結婚指輪をお互いにはめ合うと、もう一度きつく抱きしめ合うのだったーーーー


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