薄縁の運命 sideチビ②
楽しそうに話し込みながら牡丹園に向かうアルブレヒトとシュナの一歩後ろをついて行きながら、チビはくんくんと鼻を鳴らす。あと5分ほどで到着する牡丹園からなんとも芳醇な香りが漂ってくるのに気付き、女神の来訪を知る。
(ミネルヴァ様が来てるのか)
人間たちは気付いていないものの、牡丹園は女神のお気に入りとなったようで、このところ幾度も女神はこのアルタに来訪している。
ドンドが金細工まで極め始めたものだから、夜な夜な夢に現れては次々と注文しに来るついでに牡丹園を散策しているようだ。年単位で早まった開花も偶然ではないだろう。
『チビや』
鈴の音を転がしたような、天上の調べの如き美しい声が聞こえてくる。前を行くシュナは何事もないようにアルブレヒトと話しているところをみると、女神の声はチビだけにしか聞こえていないようだ。
『ミネルヴァ様、お久しぶり!』
『息災のようで何より。汝等も牡丹を観に行くのかへ?今日が一番の見頃じゃ、楽しむといい』
『肉売ってた?』
『ドンドの隣がめんつぃかつとかいう物を売っていたぞ。美味なのか?』
『やった!バロンの店だ!ジューシーで美味いぞ!』
『ふむ。妾も食してみたい。後でシュナに言うて供えるがいい』
『わかった!そんでどうしたの?なんで俺だけに話しかけたんだ?』
女神はふむ、と言ったきり黙ってしまった。
何か言い出した難いことなのだろうか。
少し先に牡丹園の入り口が見え始めたところで、漸く女神は次の言葉を紬出す。
『シュナのな』
『どうしたの?シュナに聞かせられない話?』
『シュナの運命の番はあの童じゃ』
『マジかよ!?』
『うむ。だがちと訳ありでな』
『なにが?』
『あれは鍛治神の愛し子でな。次の輪廻がない。死んだ後は神になる子じゃ』
『へぇ!スゲェじゃん!それがなにか問題あんのか?』
人は死ねば輪廻に還る。
そして時が来ればまた人の世に生まれ落ちていくが、極稀に神に愛された人の子がその類い稀なる才能によって跡を継ぐ『神成り』することがある。
『運命の番は輪廻しても邂逅するが、神となったら人とはもう結ばれぬ。そうなればシュナは幾度生まれ変わっても1人になるのじゃ』
『…そんな事って…シュナ可哀想じゃん!』
『あの子の運命なのじゃ』
家族とは死に別れただけでなく、誓い合ったダダとセラム達との別れを7年後に控え、番とは今世だけの縁になってしまうとは。なんと縁の薄い娘であろう。
(そうか。ミネルヴァ様が言い淀んでいたのはこの薄縁の運命のせいか…)
『どうにか出来ないのかよ?』
『鍛治神の愛し子はそれが定めの血じゃ』
『そんな…』
『だが、ひとつだけ方法がある』
『なに!?俺、何でもする!!』
『愛し子は血によって継がれる。故に次世代の愛し子となる子どもが産まれるまで、シュナが1人でも多くの子を産む事じゃ』
『簡単じゃん!』
犬や狼は生殖年齢が早く、多産で知られている。
自分の兄弟も8柱と多いチビはケロリとその唯一の方法を受け入れると、打って変わって嬉しそうに尻尾を振った。
『次世代の愛し子が生まれさえすれば、神成りの順もその子に移る。さすればあの童も神にならず、人としてまたシュナと共に輪廻の輪を巡ることが出来る、のじゃが…』
『じゃが?』
『愛し子の定めは神成り。故に薄縁じゃ。必然的にシュナとあの童の子孫は薄縁であり続ける』
『そんな!』
『お前に出来る唯一のことは、シュナの子孫に愛し子が生まれ続けるように一族を見守り続けること。シュナは別に転生する故、もうそばにはいれぬがな」
『なんで?俺シュナが転生してもシュナと一緒にいたい!』
狼の化身である大神の寿命は永遠ではないものの、人の転生を待つことなど容易いくらいには長寿だ。
人は儚いが、チビはこれからずっと先もシュナの転生を待ちながら共にいる気でいた。
『これが唯一だ。それが出来ぬならシュナの一族の薄縁の運命を受け入れろ。私に出来るのは、それを知ったお前をそばに居させて見守る様に助言することだけ』
『でも…!』
『お前はその次の愛し子が同じようになった時、そばを離れられるか?可愛いシュナの子らが薄縁でも見ぬふりが出来るか?』
この方法は神成りする者が現れないというデメリットもあるが、愛し子が産まれる限りは先延ばしすることが出来る。神にとっては数代数十代分の人の命など瞬きのようなもの。
これが女神に出来る、唯一の助言。
薄縁のシュナにしてやれる、唯一の方法。
(シュナの子孫なら可愛いだろう…きっと薄縁をどうにかしてやりたくなるはず…でも、もうシュナとは転生しても一緒にいられない…)
利自か利他か。
長命な自分にしか出来ないことは、シュナの子孫を薄縁から守ることーーー
犬は多産ゆえに安産の神とされるが「狼も似た様なもんだな」と独りごちながら、ふぅとため息をついてチビは覚悟を決める。
『わかった。シュナのためなら俺、やるよ』
『シュナを好いているお前には酷な事だ。しかし、これしかないのだよ』
『シュナに連なる子どもと、その子どもと、ずっとずっと先の子ども達を薄縁から守る。幸せになれるように守るよ』
『よく言うた。聡い子だ。あぁ話が長くなったね。ほらゆっくり牡丹を観ておいで』
女神がそう言うと、声とともに甘い香りが消える。
既に前を歩いた2人は仲良さそうに牡丹園に入り、彩り豊かに咲き誇る牡丹を眺めていた。
番に会った初日に、わざわざ俺に会いにくるなんて女神様も相当シュナが好きらしい。次世代の愛し子が生まれるように見守り続ける、かーーー
(まずはダダをどうにかしないとな)
チビは武者振いしながら、シュナの後を追った。
チビの不安をよそに、シュナの子ども達は皆目に入れても痛くない程可愛くて可愛くて。この子達の幸せの為なら命も惜しくないほど、何世代にも渡ってチビが溺愛し続ける。
その溺愛はチビの子孫達にも受け継がれ、鍛治神の愛し子が神成りするのはずっとずっと先の、気の遠くなるくらい先の話ーーー
物語も38話まで進むことが出来ました。
お付き合いしてくださっている方々、ありがとうございます。
ここまで長く続いたのは初めてで、もう少しああすれば良かったこうすれば良かったと後悔することもありますが、今大幅に改変してしまうと、再読する方の方が少ないのではないかと思いそのままです…が!!
名無しの権兵衛で、想定以上に話に登場していたタンタの両親に名前を付けました_(:3」z)_今更ですみません。そして安直ですみません。
タンタの父親→トト
タンタの母親→カカ
ダダとセラムの個別の話も書きたいので、もう少し風呂敷を広げます。
療養中のためコンスタントに投稿出来ないのが申し訳ないですが、2024年の目標は完走&ハッピーエンド!引き続きよろしくお願いします!




