新居
テーブルから溢れださんばかりの料理の山を前にシュナは絶句していた。男性が3人いるとしてもこれは多すぎるのでは?
「兄ちゃん達こんなもんで足りるのか?」
「まだ食える。まだ頼む」
「美味しいな」
『この肉美味い!』
シュナの心配をよそに次々に皿は空になっていき、テーブルの下ではチビが山盛りの肉を方張っている。
今は宿屋暮らしだが、やはり毎食7人前は作らねばとシュナが心意気を新たにしていると、丁度ドンドがその話を振ってくれた。
「これからどうするんだ?旅を続けるのか?」
「キルシュ以外でどこかで腰を据えつつ、用があれば旅をする形になると思う」
「ならアルタはどうだ?空き家なら俺も一緒に探すし、冒険者ギルド長のガルウィングが訳を知っているから力になってくれるだろうよ」
「シュナはどうしたい?」
「…学校に行きたいです。まだ知らない事ばかりだから勉強したいです」
定めとは別に、勉強がしたい。
先程、ドンドが示してくれた生き方を模すには、まず一般的なことから勉強せねばならないとシュナは強く思った。
家族を失ったあの日から怒涛の様に過ぎていった日々。学校に通わなくなってからもう2ヶ月近く経っていた。初等学校は3月までなのであと2月もないが、勉強するのとしないのでは訳が違う。
「そうだよな。シュナちゃんはまず学校だな。アルタでいいんじゃないすか?爺ちゃんもガルさんもいるし、冒険者も多いからその手の情報も入りやすいし」
「そうだな。初等教育はあと2ヶ月程で終わるが、そこからまた中等学校2年に通ってもいいしな。学ぶ事はいい事だ」
「爺ちゃん、アルタに学校ある?」
「初等と中等学校の校長なら知り合いだ。話はつけてやる。そうなりゃ家は借りるか?買うか?」
ダダが「買う」と即答したものだからシュナは目を丸くする。その様子をおかしそうにダダは笑い、食事の手を止めて説明してくれた。
「シュナが困らないように財産を残す。時折旅をして、どこか好きな所が見つかれば家は売ればいい。一括で買えるくらいの金は余ってあるから気にしないでいいよ」
「借家よりは持ち家の方が防犯面で安心すもんね。事情を知ってる爺ちゃん達がいる町なら尚いいっす」
「お前さん達がアルタに残ってくれるならそんな嬉しい事はない。飯食い終わったらガルウィングのとこに行くか。冒険者ギルドのツテでいい物件があるか聞きに行こうぜ」
こうしてとんとん拍子に話が進み、食事を終えた一向は冒険者ギルドのガルウィングの元へと向かった。
「ちょうどいい物件があるぜ。俺ん家の隣だ」
午前中のはぐれ討伐の礼を言われた後、ガルウィングは地図を開いて市街地の少し外れを指差した。生鮮食品を扱う市場も近く、学校も20分程度の距離にあるという。
「少し古いが庭もあるし、3人で暮らすには十分だろう。元々は冒険者ギルドの持ち物でな。倉庫代わりに使っていたが新しくギルドの近くに買い直したんだ。今から見に行くか?」
「すぐに住めるんすか?」
「倉庫代わりと言っても、たまに来賓を宿泊させていたから家具はすべて揃っているぜ。ベッドが足りないからその辺は買い足さなきゃならんがいい条件だと思うぜ?」
「あぁ、見に行きたい。頼めるか?」
「お前さん達の頼みなら最優先だ。待ってろ、鍵を取ってくる」
ガルウィングと共に向かったその家はギルドから歩いて15分程の所にあった。
煉瓦造りのその家は少し古いが趣があり、白く塗られた外構に囲まれた庭には一本の大きな楠が生えていて、何も植えられていないが四隅には花壇と東屋がある。
「可愛い家!」
『俺ここ気に入った!』
シュナは元々住んでいた家も煉瓦造りだったせいか、一目で気に入った。春になれば花壇に何か植えても良いだろう。チビは嬉しそうに庭を駆け回りながら尻尾を振っている。
中は既に荷物が運び出されておりガランとしていたが、リビングキッチンと5つの部屋があり、3人と1匹で済むには十分だった。
「俺の奥さんも日中家にいるから、兄ちゃん達が不在でも安心だぜ」
「それは心強い」
「いい家だな。シュナちゃん気に入った?」
「とっても!ここがいいです!」
「ガルウィングさん、ここはおいくらですか?」
「家具込みで金貨50でいいよ」
金貨50は破格の値段だ。
平民の5年分の年収に過ぎない。
少し古いとは言え、十分に綺麗なこの家の値段としてはあり得ない金額だった。
「そんなに安くていいのか?」
「こっちの利益は0だがマイナスにならなきゃいい。そもそもお前さん達から金を貰うのも憚られるくらいだ」
「即金で買おう」
「毎度あり!手続きはギルドでしよう。ベッドなんかは、俺よりドンド爺さんのツテの方が良い物を買えるだろうからそっちに聞いてくれ」
「腕のいい大工を知っているから紹介するぜ。どうせならデカい兄ちゃん達様にデカいベッドを作って貰うといい」
「それは嬉しいっす!寄宿舎も宿屋もベッドも小さくて寝返りするたびに落ちそうだったからデカいベッドがいいっす!」
こうしてとんとん拍子に加速がつき、二手に分かれてその日のうちに契約を結んだダダと、ベッドを特注しに行ったセルムによって、あっという間に新居を構えることになったシュナ達だった。




