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シュナと余命10年の騎士  作者: ぽこ
3章 祈祷師の本懐
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ガルウィングの疑心

脱力しているガルウィングをよそに、ダダは階下で冒険者登録を済ませると、登録者のみが使える資料室で東の国の聖獣伝承の書かれている文献を探した。


極東についての文献は少なく、多くは独特な剣術や体術についての文献ばかりだったが、ダダはその中で一際古びた背表紙の本を手に取る。



真神(まがみ)…これか?」



それは国造神話の翻訳本だった。原典ではないため細かなニュアンスは異なるのだろうが、大筋は合っているだろう。



◆◆◆



『人の言葉を理解する狼の真神は、

 人間の善悪を見抜く蒼き慧眼(けいがん)を持ち、

 善き人を護り、悪しき人に天罰を与える。


 狼は畑を荒らす害獣から

 作物を守護する動物であったことから

 真神は魔除けの象徴であり、

 事実その命尽きるまで善き人を護り愛しむ』



◆◆◆



ダダは再び頬を緩ませる。

シュナの味方は多ければ多いほど良い。


聖獣というよりは神の化身、いや神なのか。

課題はいかにして真神とバレずに過ごせるかだ。

一見すれば子犬にしか見えないが、稀有な白銀ゆえに聡い者には見抜かれてしまうだろう。

さてどうするか…



文献を棚に返すと、シュナ達の待つ冒険者ギルドの裏にある広場へと急いだ。



「お手!」

『アォン!!』

「伏せ!」

『アォン!!』

「よぉし!ほら取ってこい!」

『アォーーン!!』



セルムは支柱だったものを剛力で投げると、チビはその小さな身体の3倍はある支柱をその鋭い歯と強靭な顎で難なく咥え、楽しそうに戻ってくる。



「チビちゃんすごーい!力持ちだね!」

「チビお前賢いな!よぉしよぉし!」

『クゥーンクゥーン!』

「まんま犬じゃねぇか…」



ダダが裏の広場につくと、和気藹々としている3人と1匹、そして生えている雑草をブチブチと抜きながら独りごちるガルウィングがいた。


ダダは悪いと思いながらも失笑が隠せない。

聖獣を献上すればアルタの冒険者ギルドの功績を高く評価されるはずだったのだ。そのショックは如何許(いかばか)りか。

だが、真神がシュナを(あるじ)と選んだ今、ガルウィングどころか国すらどうする事も出来ないのだ。諦めて貰う他ない。



そんな時、マイルが現れてガルウィングを呼ぶ。



「ギルド長、ドンドさんがお見えです。頼まれていた物を持参したとの事です」

「おードンド爺さんか、今行く」

「行かんでもいいわい。どうせここで素振りするだろうから来てやったぞ。ガッハッハ!」



マイルのすぐ後ろからドンドがひょいと顔を出した。

その手にはダダのグレードソードよりも少し小さな、それでも大剣と言って違いない真新しい剣が握られている。



「届けてもらって悪かったな。こないだの魔物討伐で得物がダメになっちまったから助かるよ」

「石喰相手に馬鹿正直に斬りつけるからだ。もっと伝記伝承を勉強しろ。ん?嬢ちゃんたちもいるんか」

「そういえば爺さんも知り合いだったな。なぁ、一体このお嬢ちゃん何者なんだ?」

「ふむ。悪いが俺から話す事は何もない」

「だー!なんだよ!めちゃくちゃ訳ありじゃねぇか」



ガルウィングは頭を掻きむしって落胆した。

ドンドは悪びれもせず飄々としていたが、足元に寄ってきた子犬にふと気付く。

チビは尻尾を振っており、その慧眼でドンドを善き人と判断したらしいことが伺えた。



『アォン!』

「なんだ、誰のイヌッコロだ?」

「誰の?うーーーーーん…お嬢ちゃんの、だな」

「嬢ちゃんの?…ん?待て、なんだコイツ」

『アォン!』

「白銀…?いやだが、目の色が違う…だが…なぁガルウィング、このチビ」

「だーーーー!爺さん(みな)まで言うな!そうだよ!爺さんが想像してる通り()()だ!」

()()が何故こんな所にいる?」

「俺にもわからん。禁足地調査しに行ったらいた」

「…手懐けられるもんなのか?」

「このお嬢ちゃんに聞いてくれ」

「嬢ちゃんが手懐けたのか。…ガーハッハッハッ!」



シュナの元へ駆け寄り、臍天になりながら甘えるチビをワシャワシャと揉みしだきながら、シュナはガルウィングになんと説明したら良いのか言葉に詰まってしまう。



「手懐けたというか名付けたらこうなってしまって」

「ガッハッハ!意図せずテイムしちまったってところか。それで目の色が嬢ちゃんと揃いの琥珀になったと。通りで伝承の真神と目の色が違うわけだ」



ドンドは心底おかしそうに笑うと、なんの事情もわかっていないガルウィングの渋い顔を見ながら暫し考えこむ。



「嬢ちゃん、ガルウィングには話していいだろう。こいつはこれでもギルドの長だ。真っ直ぐで口も硬い。協力を得た方が都合がいいはずだ」

「ドンド爺ちゃんが言うなら信頼できるよ。シュナちゃん、話してみようぜ。どうせアスタネ国の国宝になるはずだったチビの存在を隠すためには、発見者のガルウィングさんの信頼と協力は絶対不可欠だしさ」

「…わかりました。ガルウィングさん、実はーーー」







ガルウィングは話を聞き終えると絶句した。

まさか目の前にいるこのお嬢ちゃんが聖女?祈祷師?

先日、石喰達が突如消えた事について老匠(ろうしょう)達が女神様の加護と讃えている事は知っているが、そのきっかけがこのお嬢ちゃんの力?



「信じられぬか?まぁ無理もない。()()()だからな」

「…ドンド爺さんが信じているなら、きっとそうなんだろう。だが…いや…しかし」

「こんな話を信じられないのは当たり前です」



言い淀むガルウィングを見て、シュナは申し訳なさそうに肩を(すぼ)める。

無闇矢鱈に祈ることはダダ達が良しとしないだろうから実証する手立てがない。どうしよう…




そんな時、一羽の梟が何処からともなく飛んできた。


漆黒の羽をもつ梟がシュナの隣に降り立つと、その大きな眼を細めてまるで笑っているようにホーホーと鳴いた。



「女神様の、梟?」

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