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シュナと余命10年の騎士  作者: ぽこ
3章 祈祷師の本懐
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聖獣

幾つものセキリュティをくぐり抜けてようやく辿り着いたのは3階の最奥にある部屋だった。

最新の指紋認証システムやキーロックを導入している辺り、待ち受けているモノの重要性が伺える。



「ここだ」

「私達は依頼を断るかもしれないのに、聖獣を見せてもいいのか?」

「ドンド爺さんが信じたお前さん達ならいいさ」



ゆっくりと扉が開かれると、部屋の中には白銀の子犬ーーーのような生物がつまらなそうに寝そべっていた。

その首には極太の鎖が支柱から繋がれているためその場からは動けないようだが、随分と暴れていたのだろう。皿が割れ、餌と思われる生肉が無数に散乱している。



「わ!可愛い!」



シュナが思わず声を上げると、ピクリと子犬の耳がそばだった。顔をそちらに向けて、クンクンと辺りの匂いを嗅いでいる。

白銀の毛皮は所々クルリと癖毛になっており、その瞳は真夏の青空のように青く澄んでいた。



「お嬢ちゃん近寄るなよ。おとなしそうに見えて獰猛だ。餌も一切受け付けない。近寄ると威嚇してくるから、ここから先には行くなよ」

「どうやってここまで運んだんだ?」

「魔封じの檻に入れて運んだ。魔獣用の眠り矢10本討ってようやく寝た。まじで大変だったぜ」

「親は?」

「周辺を探ったがいなかった。あれは元々東の国の聖獣のはずなんだ。この国の聖獣じゃない。あー犬じゃねぇぞ、狼の聖獣だ」

「子犬じゃなくて小狼…でも可愛い…」

『アォーン!』


 

小狼はシュナに向かって吠え始めた。しかし、それは威嚇というよりも「構って欲しい!」と訴えてるようで、尻尾をブンブンとはち切れんばかりに振っている。

その姿にガルウィングは唖然として呟く。



「どうなってんだこりゃ…」

「獰猛…には見えないっすね」

「いやいやいや、ここへ来てからもずっと威嚇してたんだ。何がなんだかさっぱりわからん」

「可愛い…可愛い…」

『アォーン!オン!オン!』



シュナの語彙が「可愛い」しかなくなった時だった。

繋いでいた極太の鎖がミシッと鳴るや否や弾け飛び、小狼が勢いよくシュナの元に駆け寄ってきた。そのスピードは石喰の長の如く、一瞬にして距離を詰めてくる。

ダダとセルムはすぐさま剣を抜いてその襲撃に備えて構えた。石喰鳥の時のような事はもう2度と起こさせやしない。2人が殺気立ったその刹那ーーー



『アォーーーン!』



小狼は臍を天に向けて、シュナの前に寝転がった。



「可愛いーーー!」

「「「え?」」」



尻尾を振り、撫でろとばかりに腹を見せてくる。

ついシュナの手が小狼の腹に伸び、その腹を撫でるとクネクネと身を捩りながら喜び始めた。


その様子を見ながらダダ達は唯ひたすら呆気に取られ、剣を持つ手が緩んでいく。

一体なにがどうなっているのだ?獰猛さは極太の鎖を引きちぎった事で証明されたが、臍天している目の前の小狼はまるで本物の子犬のようだ。



()()()()()()可愛いね!」

『アォン!』



そうシュナが小狼に向かって声をかけた時だった。

腹を撫でていたシュナの手が光ると、青空のような瞳はシュナと同じ琥珀色へと変化していき、小狼の身体が淡い光に包まれていく。



「待て待て待てーーーー!名付けるな!」

「え、え!?」

「お嬢ちゃん!それはテイムだーーーーー!!」



『アォーーーーーン!!』



ガルウィングやダダ達の制止の声も虚しく、小狼は光続ける。それはとても淡い琥珀の揺らぎ。キラキラと金の粉が舞い、暫くしてさざ波がひくように発光が収まると、辺りは一斉に鎮まりかえっていった。


ガルウィングが頭を抱えながらしゃがみ込む。



「…お嬢ちゃん、テイマーのギフト持ちか?」

「わかりません…」

『アォン』

「聖獣をテイムするなんて聞いた事ねぇぞ…」

「あの、テイムって…」

『アォン』

「主従契約だよ。お嬢ちゃんが名前をつけて、その()()()()()が応えた。もうそいつはお嬢ちゃんのもとを2度と離れねぇよ…」

()()()()()!?」

「そう呼んだろ?はぁ…どうしたもんかな…」

「マジかよ!ウケんだけど!シュナちゃんスゲー!!」



肩を落とすガルウィングをよそに、セルムが腹を抱えて大笑いし始めた。ダダが脳天に鉄拳を振り下すが、その笑いは止まらない。



「テイマーってアレだろ?普通は動物だよな!?ダダさんの魔眼もすげぇけど、名前つけただけで聖獣手懐けるってどんだけだよ!」

「お前さん、事の重大さわかってねぇだろ…()()()()()は東の国では魔除けの聖獣として崇められてんだ…王家に引き渡して国宝級の扱いになるはずだったんだぞ…」

「マジ!?」

「脳筋は少し黙ってろ」



2発目の鉄拳が振り下ろされ、漸くセルムは黙った。

ダダは青褪めているシュナとそのそばにピタリと寄り添うチビを見つめながら暫し思案する。

その美しい口端が徐々に弧を描き始めたが、それをそっと手で隠しながらダダはガルウィングに尋ねた。



「ガルウィングさん、この聖獣のことはもう王家には伝えてあるんですか?」

「…いや、まだだ。石喰達の後始末でてんやわんやしてたからこれから先触れを出すつもりだった」

「シュナがテイムしたということは、もう王家にはどうしようも出来ないということですか?」

「ああ、お嬢ちゃんが死ぬまでチビちゃんは離れねぇ」

「この聖獣は()()()になるんですか?」

「東の国ではそう言われているな。色んな禍事から守ってくれるらしい。…だーーーー!どうすんだこれ…」



ダダは答えに辿り着き、思わず破顔する。

決して口には出さないが、心のうちで歓喜した。

シュナの護りが増える分には問題ない。いや、むしろ聖獣が魔除けになるなど吉祥だ。アスタネに来たのはタンタ達の為だったが、緋緋色金製の武具を手に入れ、聖獣まで手懐けた。

これで私達が10年後いなくなっても安心だーーー



「こうなった以上はどうすることも出来ないでしょう。王家が知らないのであれば、隠し通すまで。なぁチビ?」

『アォン!!』

「はぁ…一体お嬢ちゃん何者なんだよ…」

いいねをくださった皆様、ありがとうございます!


スランプ気味でしたが元気をいただきました(*'▽'*)

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