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シュナと余命10年の騎士  作者: ぽこ
2章 新天地と出会い
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昔々の御伽噺

工房から宿屋に帰ったのは、月が真上に登った真夜中だった。ダダとセルムは「慣らしをしてくる」と譲り受けた剣を片手に再び出て行った。


1人残されたシュナはベッドに潜り込み、ドンドから聞いた御伽噺を思い返していた。





◆◆◆




昔々の物語ーーーー



大きく地が鳴り終わると

崩れた山の割れ目から魔物が溢れ出た。

田畑は荒らされ、麓村の人々は飲まれていった。


この世に魔物が蔓延るようになった、事の始まり。


 


人々を愛していた優しい梟は泣いた。

梟の子守唄で眠った幼子たちの死を偲んで泣いた。

「せめて幼子たちを逃す時間があれば」


それを聞いた女神は心を痛め、梟と同じ琥珀の瞳を持つ人の子に『時の見える目』をやった。

「せめて幼子たちを逃す時間をやろう」




『時の見える目』を授けられた人の子は優しく、聡かった。その知恵で皆が赤くなる日を導き出すと「禍事の起こるその日に備えよ」と人々に伝え歩いた。



皆赤くなる日がやってきた。

また大きく地が鳴り山は崩れ、魔物は山のねぐらを追われて再び里に降りてきた。



ある村は伝えを信じて、魔物から逃げ皆生き延びた。

ある村は伝えを信じず、魔物に飲まれ皆死んだ。



飲まれた村の幼子は、親を選ぶことができぬ故に逃げることは叶わなかった。誰もいなくなった村を訪れた人の子は泣いた。

「時が見えるだけではすべてのものは救えなかった」




それを聞いた女神はまたも心を痛め、

人の子の祈りを叶えてやることにした。

「ただしお前の命と引き換えだ。それが世界の理」



人の子はその命を削りながら祈った。


魔物は山に潜むよう、

決して里に降りぬよう、

幼子たちがすくすくと育ちますようにと。



人の子の祈りを女神は叶えた。


人の子の身が光輝くと、魔物は山のねぐらに帰っていった。里に魔物が現れなくなると、逃げ延びた人々は幼子たちを抱きしめながら喜んだ。


しかし、人の子はそれから間も無く儚くなった。




それを見ていた心優しい梟もまた泣いた。

「お前だけに責を背負わせてしまった」

その涙は枯れることなく、梟は後を追うように儚くなった。



女神は心優しい1人と1羽を偲み、初めて泣いた。

「また生まれておいで。一度与えた目と定めは不変だけれど、次の世は幸せになるためにまた生まれておいで。その祈りの代償半分は私が引き受けよう」




そして地が鳴って山が崩れそうになるたびに、人の子と梟はこの世に生まれ現れた。


与えられた定めと『時の見える目』で人々に禍事の日を伝え歩き、その命を削って女神に太平を祈った。


魔物は山に潜むよう、

決して里に降りぬよう、

幼子たちがすくすくと育ちますようにと。 


そして、再び魔物は山のねぐらへ帰っていった。




女神が代償の半分を引き受けたおかげで、人の子はすぐに儚くなることはなくなったが、それでも心優しい人の子は残りの命を祈りに捧げながら生きた。



人々は祈りを捧げる人の子を聖女と讃え、慈しんだ。





昔々の物語ーーー





◆◆◆


 


御伽噺は口伝を経て今に伝わるものなので、全てが当てはまるわけではないのだろうが、祈祷師のルーツはきっとこの御伽噺にほぼ間違いないのだろう。

時の見える目や祈りの代償などの話は、シュナの知る限り一致する。


 

そして、シュナには思い当たる節があった。

それは、両親を襲ったワイバーンだ。山向こうから殆ど出てこないと言われているにも関わらず、あの日を境に続けて4頭も現れた。



「もしかして、明日山が崩れる…?」

  




ホーホーホー


何処からともなく、夜の帷の中で梟が鳴いていた。

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