ドンドの頼み
「好きなのを選べ、と言いたい所だがちょっと待っとけ」
居酒屋木漏れ日から10分程歩いたところにタンタの祖父、ドンドの武器工房はあった。日中は武器を求めて多くの冒険者が集まってくるというが、閉店した今その喧騒は鳴りを潜め静まり返っている。
ドンドの工房は一階が店と鍛冶場を兼ねていて、二階が住居という造りになっていた。店内には所狭しと得物が並べられており、一般的なロングソードやレイピアも揃っているが、壁に掛かっているものはどれも大物が多い。心なしか鞘の作りが大物の方が凝っており、タンタの父親が言っていたように大物造りが好きな刀匠なのだろう。
暫くすると、ドンドは2本の真紅の剣を持って帰ってきた。真紅に染まった剣身は艶かしい輝きを放ち、鏡のように研がれた刃は美しいとしか言いようがない。
「とっておきのグレートソードだ。お前さんなら振り回せるだろ」
そう言ってダダに渡された大剣はシュナの背丈を優に超えていて、その厚さは通常の剣に比べて2倍程厚かった。
ダダは少し離れたところで思い切り振りかぶると、ブンッと低重音が辺りに鳴り響く。それと同時にブワリとした刀風がシュナ達の元に届いた。ダダは嬉しそうに目を輝かせ、その握りを何度も確かめている。
「これは…いい。今までで1番しっくりくきます」
「その顔でよくもまぁ軽々と振り回すもんだ…。それはな、緋緋色金で作ったから金剛石よりも硬ぇし鯖もしねぇ。どんだけ振り回しても折れねぇぞ!ガッハッハ!」
「爺ちゃん俺の剣は!?」
「お前さんのはこれだ。片手剣がいいんだろ?」
「そう!いざって時は盾を持ってシュナちゃん守りたいから片手剣!」
「ファルシオンだ。斧や鎌にもなるから接近戦は強いぜ。これも緋緋色金だ。どっちもうちの家宝だ!ガッハッハ!」
それはダダのグレートソードよりも短いものの、片刃で幅広の鎌のような形をしている。これもまた重厚な造りをしていて、真紅の剣身が美しい一本だった。ドンドの拘りでその柄には金が巻きつき、見事な彫金が施されている。
「そんで、嬢ちゃんにはこれだ」
「わたしに?」
ドンドの懐から出て来たのは、掌程の小さな刀だった。
シュナはこんな小さな剣など初めてみたが、これはどうやって使うのだろう。受け取ったその刀は思ったよりも軽かったので木で出来ているのだろうか。漆黒に塗られた鞘には飛翔している梟を模った彫りが施されていて、見惚れるほど見事だった。
「東国の『護り刀』ってやつだ。自分の身を自分で守るためのもんだが、まぁ嬢ちゃんの場合はあの兄ちゃん達がいるから心配してないけどよ。もう一つ意味があってな。災いや邪悪な物から身を護る…まぁお守りだ」
「お守り…」
「なんの縁だかな、それも緋緋色金だ。うちでこさえた緋緋色金はさっきを含めて3本だけだ。他所にもねぇよ。…きっと嬢ちゃん達に持たす為に鍛冶神様が俺に作らせたんだろよ」
シュナはゆっくりと抜刀すると、出てきた剣身はダダ達の刀のように真紅に染まっていた。よく研がれた刃は輝き、小さくても良く切れるだろうことが伺える。慎重に扱わねば確実に怪我をしそうだ。シュナは丁寧に納刀すると、ドンドに礼を言った。
「ドンドさん、こんな貴重なものをありがとうございます」
「これを実際に使う時が来ないことが1番だがよ、いざとなったら本気で使うんだぞ。これを使うってことはそういう時だ。兄ちゃん達に基本を教えて貰うといい」
「はい!」
大切な家宝を譲り受けた3人は改めてドンドに礼をしようとしたその時、ドンドが深々と頭を下げた。
その顔は見えないが、微かに肩が震えているのが見てとれる。握りしめられた拳は白くなり、なお一層力が込められる。
「…嬢ちゃん、兄ちゃん達、頼む。こんなもんで良ければいくらでもやる。店のもんも、俺の持ってる知識も技術も全部やる。どうか、どうかタンタを助けてやってくれ。俺みたいな爺さんはもういいんだ。だけどタンタだけは…タンタだけは頼む」
涙声になったドンドにかける言葉が見つからない。
居酒屋木漏れ日にいた時、全員が『1』だと知ったドンドさん。勿論、その中にドンドさん本人も含まれていると理解したはずだ。せっかく緋緋色金製の武器を譲ってくれたが、今もドンドさんの頭上には『1』が浮かんでいる。それはこれだけの変化では運命は変えられないということの証左ーーー
やはり祈祷師としての祈りしかない。
自分がどこまで出来るかわからない。安易に大丈夫と言うことは無責任なので使いたくないものの、こんな時にかける言葉などたった13歳の自分は持ち合わせていない。
それでもーーー
「タンタ君もドンドさんも、皆が助かるように最善を尽くします」
「嬢ちゃん…頼む」
「お願いがあります。ドンドさんが聞いた御伽噺を教えてくれませんか?何かヒントがあるかもしれないです」
シュナはにっこりと微笑み、ドンドの手を握りしめた。




