南風号
その日アスタネに向かう船便はちょうど1便しかなく、親子3人の乗る船に同乗することが出来た。
「さてと、あの親子はどこかなっと」
背の高いセルムが辺りを見回し、親子3人を探す。
隣国アスタネ行きの船ーーー南風号は鋼鉄製武器を求める冒険者や商人が多く乗り込んでおり、その中で小さい子連れは珍しかったのですぐに見つけることが出来た。
「いた。二等客席にいてくれて良かった。一等だと個室だから見つけるのが大変だったからラッキー」
船の中央に位置する二等客席は半分が座席、半分が広間になっていて雑魚寝が出来るようになっている。親子連れは広間の片隅に定位置を決めたようで、楽しそうに荷物の整理をしている様子が見えた。
「アスタネに着いたらどこに向かうんでしょうか?」
「聞いてみるのが1番だな」
「怪しくないですか?」
「怪しいっす」
「む」
幸い、親子の隣には誰もおらずスペースが空いている。まずはそこ陣取ってからまたもや聞き耳を立てることにしたのだが…
「騎士さま?」
「ん?」
「おにいさんたちは騎士さま?そのおおきなタテとケンは騎士さまの?」
まさか向こうから声をかけてくるなど思ってもみなかった。「これ!」と嗜める両親を尻目に、少年はセルムの隣にやってきたのだ。茶色の癖毛をぴょんぴょんと揺らしながら、その琥珀色の期待に満ち溢れている。セルムはニヤリと笑い、大盾を下ろして少年の前に置いた。少年の背丈よりも大きなその大盾をを見た少年は、目を大きく開きながら喜色満面に嬌声をあげる。
「んー今は違うけど、昔は騎士だったよ。盾は俺ので、剣はあっちの綺麗なお兄さんのもんだ」
「やっぱり騎士さまだったんだね!」
「少年、名前は?」
「タンタ5さいです!騎士さまのおなまえは?」
「セルムだよ。これからどこ行くんだ?」
「じいちゃんのとこ!」
「じいちゃんちか。いいな。港から近いのか?」
「みんなでのる馬車にのってビュンだよ!
セルムの演技力は兎も角として、誘導尋問のうまさにシュナが舌を巻いていると、タンタの両親は申し訳なさそうに謝ってくる。いつも5歳児の好奇心と畏れ知らずの行動力に手を焼いているのだろう。
「突然すみません!これタンタ!いつも言っているだろう!よそ様に迷惑かけたらいけないって!」
「めいわくだった?ごめんなさい騎士さま…」
しょんぼりとしたタンタは下唇を突き出して泣くのを必死に我慢しているが、その手は大盾を大切そうに撫でている。それがあまりに可愛らしくてシュナは思わず笑ってしまった。
「タンタ君は騎士様が好きなの?」
「うん!かっこいいから大好き!大きくなったら騎士さまになりたいの!」
「立派な騎士様になれるといいね!」
「…おねえちゃんはお姫さまなの?」
「わたし?」
「うん!騎士さまといっしょにいるからまもられてるでしょ?お姫さまでしょ?」
「!」
シュナはなんだか気恥ずかしくて耳まで赤くなった。お姫様はこんな霞んだ髪色もしていないしもっと可愛くて上品でとにかく違うの!と口籠るが、ダダとセルムが2人して大きく首肯する。
「そうだよ、このお姉ちゃんはお姫様だよ」
「2人で守っているんだぜ」
「かっこいいねーーー!」
タンタは再びキラキラと目を輝かせた。「そうだぜ〜俺はかっこいいし〜♪お姫様はかわいいし〜♪」と出鱈目な歌を歌いながらセルムは立ち上がりタンタを肩車する。タンタもつられて「かわいいし〜♪」と歌い出すものだからシュナは思わず吹き出してしまう。ダダの表情は最早無だ。
「ちょっと甲板を散歩して来たいんすけど、いいすか〜♪」セルムは両親の許可を得てタンタと歌いながら広間を出て行った。途端に嵐が去った後のような静けさが訪れる。
「息子がご迷惑をおかけしてすみません!!」
「いえ、こちらこそ興奮させてしまったようで誠に申し訳ない。皆さんはアスタネのお爺様のところへ行かれるのですか?」
「はい、私の父がアスタネで武器工房をやっておりまして、そこへ帰省するところです」
タンタの父はトト、母はカカと名乗った。
トトの父が武器工房をしていると聞いたダダの目がきらりと光る。
「武器工房?」
「昔からある古い工房です。そちらの様な大剣や大盾などは父が得意とする得物で、息子は小さな頃からそれを見ているので余計に興奮したようです。本当にすみません」
「大物がお得意なのですか?」
「はい。今は魔銃や取り回しのいい武器が主流になっているので、なかなか大物の需要が減っているのですが…それでも父は昔ながらの職人気質なので今も大物を作り続けているんです」
「是非お伺いしたい!」
「え?」
ダダは嬉しそうに膝を叩いた。
そういえば今帯剣しているのは予備の大剣だ。本命の大剣はワイバーン討伐で無くしている。
「丁度、武器を新調しようと話していたのです。大物を扱う武器工房は希少なので…よろしければ道中ご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」
「それは全く構わないですし、お役に立てるのであれば願ったりなのですが、息子がまた皆さんにご迷惑をお掛けしてしまうのでは…」
「いえ、子どもはあれくらい元気な方が安心します。うちのも大きな子どもみたい奴がいますけど」
セルムだけでなく、アスタネの港に着いた後も同行する約束を取り付けたダダの話術にまたもや舌を巻いたシュナであったーーー
改稿し、名無しの権兵衛だったタンタの父親と母親の名前をつけました。
父親→トト
母親→カカ




