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シュナと余命10年の騎士  作者: ぽこ
2章 新天地と出会い
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高速馬車の旅

3人はまずキルフェの南部にあるイドへ向かう事にした。

イドはキルフェ最大の港町で、多くの貿易人達で賑わっている。様々な国から人が集まるのでまずそこで情報収集をしてからどこへ向かうか決めようとダダが提案したのだ。



イドへ向かう為に高速馬車を利用する。

8本足の魔獣スレイプニルと軍馬を掛け合わせて従順に品種改良された6本足のグラニ種は、2週間ほどかかる道のりも5日程で駆け抜ける。20人ほど乗れる大きさの高速馬車は車輪も大きく、その分だけかなり振動するため車内は常時酔い止め草の香が焚かれている。


この香は独特な匂いがするので人を選ぶのだが、シュナはまんまと初日から酔い止め草の匂いに酔い、ほぼ寝たきりの状態になってしまっていた。



「シュナちゃん大丈夫?」

「…気持ち悪いです」



セルムに横抱きにされて芋虫のように丸まっていたシュナは辛うじて答える。昔からどうしても酔い止め草のアルデヒド臭だけは受け付けられず、臭いに当てられてしまう。乗車から2日経ったが、絶えず臭いを嗅ぎ続けているためその酔いは一向に良くならない。


向かい合わせの席でダダが心配そうにシュナの具合を心配している。その悲哀に満ちた表情は彫刻のようで、題名がついていてもおかしくない美しさだったが、当のシュナはそれどころではない。



「次からは高速馬車を使うのはやめよう」

「そうすね、これじゃシュナちゃん可哀想だ」

「臭いがしなければ平気なんですけど…うぷ」

「もうすぐ小休止の時間だ。馬車が止まったら一度車外に出るからそれまで頑張って」



高速馬車は3時間ごとに小休止が義務付けられており、その僅か30分の間に毎度2人のどちらかに抱き抱えられて外に出ていた。



『カーンカーンカーン』



丁度小休止を知らせる鐘の音が3回鳴り響いた。

ダダとセルムが外に出る準備をしていると、座席の後ろから甘ったるい声がした。



「またお嬢様は具合悪いのぉ?」

「あと3日もあるのにお兄さん達も大変ねぇ」



くすくすと笑い声とともに顔を覗かせたのは2人組の女だった。どちらも露出の高い出立ちで、其々腰にレイピアと魔銃を挿していることから2人は冒険者なのかもしれない。



「お嬢様ぁ〜たまにはひとりで外に行ってきたらぁ?毎回毎回お兄さん達に迷惑かけたらダメよぉ?」



シュナは頭痛と吐き気で焦点が合わないながらも、割れそうなほど痛いこめかみを押さえて女達に視線を合わせる。



「どなたでしょうか…」

「ミミルよ。こっちは妹のリリル。よろしくねぇ♪」



2人組はあからさまにシュナを無視し、ダダとセルムにしなを作って自己紹介した。近づいてくるミミルとリリルから強いパルファムの香りがボックス席の中に漂い始める。


嗅覚の限界寸前だったシュナは、嘔気が胸に込み上げてくるのを必死な堪えながら呟いた。



「…くさ」

「「は?」」



普段であればこんな暴言などはかないが、思わずセルムの手を握りしめ涙目になりながらシュナは訴える。



「くさくて吐きそう」



セルムはすぐさまシュナに靴を履かせると、軽々と抱き上げ、ボックス席に1人残されたダダに目配せする。ダダはそんなセルムに目もくれずに、女達を睨め付けながら暗く低い声で告げる。



「先に行ってろ」

「了解っす」

 


セルムはそのままシュナを連れてタラップを降りていった。



「お兄さん達はこれからどこへ行くのぉ?」

ミミルがダダの隣に、リリルは向かいの席に腰掛けようとしたその時だった。



「どけ」

「え」

「どけと言っている。匂いが座席につく」

「怒ってるのぉ?あの子がずっとお兄さん達に迷惑掛けてるから私達がわざわざ」

「【2度と声をかけるな】」

「「は、はぁ〜?」」

「【2度と視界に入るな】」



殺気を隠そうともしないダダに2人は思わず息を呑んだ。

その手は既に剣の柄を握っており、その瞳はは磨硝子様に変化して底の見えない夜の海のような暗闇を宿している。



「「ひっ」」



2人は後部座席から荷物をひったくるように持つと、脱兎の如く馬車を降りていった。




◆◆◆




馬車から少し離れた風通しの良い小高い丘で、シュナはセルムの膝に座って甲斐甲斐しくしく世話を焼かれていた。

 


「無理しないで。はい、お水」

「ありがとうございます。…さっきの人たちはナンパだったんでしょうか?」



シュナはやけに親しそうに声をかけてきた2人組を思い浮かべた。鈴蘭亭でも多くの女性の目をひいていた2人だ。声をかけられることはなかったが、こういうことはこの先何度もあるのだろうなとシュナは苦笑いする。



「多分もう2度と会わないから気にしなくていいよ」

「でも同じ馬車に乗ってるんじゃ」

「んー?用事でも思い出して降車したかも」

「そうなんですか?」

「うん、多分ね」



セルムはアルカイックスマイルのダダが真顔になった時が1番恐ろしい事を知っている。騎士団の中では有名な話だ。



一見盾タイプにみえるがあの美丈夫は完全に矛タイプだ。本人も自覚しているのだろう。セルムは叙任式で自ら「矛になる」とダダが宣誓していたことを思い出す。

要するに虫も殺さないような顔をしているが、実際はイケイケの武闘派なのだ。そして、ダダの瞳は精神干渉の魔力が宿っている魔眼だ。静かにキレていたから、きっと今頃あの女達を綺麗さっぱり追い払っていることだろう。



「あ、そうだ」


後を追ってやってきたダダに『酔い止め草の香の匂いなどしない』とシュナに暗示をかけるように提案した。

 

「もっと早く気付けば良かった」とダダは悔しそうに眉を顰めるが、セルムは珍しく褒められたので嬉しそうに笑うのだった。

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