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シュナと余命10年の騎士  作者: ぽこ
1章 赤い数字が意味するもの
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メアリーの秘密

セルムは不思議だった疑問をメアリーに尋ねた。



「すげー疑問なんですけど、メアリーさんはなんでそんなに王族しか知らない祈祷師やら内情に詳しいんすか?」

「あぁ、()()()だからね。前王様の妹、現王様のオバさんってやつさ」



ガチャン!

セルムの持っていたティーカップがソーサーの上に落ちる。割れてはいなかったがメアリーの拳骨が頭に落ちた。



「は?イモウト?オバ?」

「王宮料理人の旦那に一目惚れして()()()()したのさ。駆け落ちして行方知らずになるくらいならってことで、最終的には認めて貰ったけれどね。表向きは他国に嫁いだ事になってるから王族とごく一部の臣下しか知らない話さ」

「メアリーさんが王族…」

「メアリーさん…いや、メアリー様?」

「辞めとくれ。あたしは第一騎士団管理人、美人のメアリーさんだよ」



騎士達の頭を易々と引っ叩く肝っ玉美人の正体が王族などと誰が予想出来るだろうか。3人の背筋が伸びる。もう市井の生活の方が長いし、ダンスも刺繍も全部忘れたよとメアリーはカラカラと笑った。


 



◆◆◆





「母がね、祈祷師だったんだよ」



3杯目の紅茶を入れ直したメアリーは少し苦しそうに話始めた。もうお腹がタプタプになってきたが、3人は元王女から勧められるがままにカップを手に取る。



「母は王妃としていつも祈祷室で細々と祈っていたよ。美しい人だったけれど、私が物心つく頃にはいつも顔色が悪かった」

「細々とした祈り?」

「あぁ、豊穣やら治水やらの類だね。今思えば、20年近くその手の祈りを続けられたってことは…単なる推測だけど、そういった『()()()()()()()()』は神様の慈愛も加わるから、祈祷師の命も少しだけ削るだけなのかもしれない。まぁそれでも負荷は負荷だ。父はわかっていて国のために祈らせ続けたんだよ」

「わかっていてそんな事を…」



王族なんてそんなものさ、と悲しげにメアリーは笑う。



「母が40そこそこになった時、父ーーー王は致命的な流行病にかかったんだよ。母は強制的に祈らされた。もう治る見込みのない者を完全回復させる祈りをね。それが母の最期さ」

「そんな…」

「それから父は血眼で祈祷師を探し続けたよ。またいつか自分が倒れた時のために。国の洗礼式制度が出来たのはそのせいさ。今まで1人も現れなかった祈祷師がまさかシュナちゃんなんてね…」



メアリーはため息をついて話し終えた。



祈りに大小あれど、必然的に祈祷師の命を削る。

全体の幸福につながる祈りは神と折半しているのでそこまで生命を削るわけではなく、個人的な祈りーーー死を回避させるような祈りは祈祷師の命を直接分け与える。これはもう3度実証されていることだけに、間違いはないだろう。




「シュナちゃんが祈祷師とバレずにこれから生きていくにはどうすればいいんすかね」

「1番は洗礼式を受けない事だね」

「でも洗礼式は絶対避けて通れないすよ。国民の義務っすもん」


洗礼式を受けていない以上、祈祷師であることは不確定事項ではあるが、万が一本当に祈祷師だった場合、露見したらもう誤魔化せない。


洗礼式を受けないなんて事は可能なのだろうか?

昔ならばとにかく、戸籍制度が整っている現在では小さな村でも名簿が作成されており、不受者がいると必ず調査官がやってくる仕組みになっていると学校で習った。



()()()()()()()()()()()()()()でもしない限り…」

「「「それだ!!」」」

「洗礼式を行っているのはキルフェ国の東西に位置するドルガ、アマーリアの近隣2カ国くらいだ。この3カ国を除けば洗礼式は行われていないから、祈祷師とバレずに生きていけるはずだよ!」

「でも、ダダさん達は騎士様だから…」

「そんなことはどうにでもなる。除隊すればいい」

「俺も除隊するっす。冒険者か傭兵どっちがいいすかね」

「冒険者の方が自由度が高いな。シュナを連れていても2人なら守り切れるだろう」



ダダとセルムはすっかり冒険者になるつもりで、どの国の冒険者ギルドで登録するのがいいかまで検討し始めた。話の展開が早過ぎて、シュナの感情がついていかない。



「あの…せっかく騎士様なのにそんな簡単に決めちゃっていいんですか!?」

「もうシュナ以上に大切な事はないから、騎士でいることには全く拘らない」

「時間が限られているから、早くシュナちゃんの生活基盤を整えないと死んでも死に切れないっす」



そうだ、10年は一緒にいられるけれど、そこからはまたひとりになってしまうのだ。わかっていたこととはいえ、途端にシュナの顔が曇る。それに気付いたダダは、セルムの脛をを思いっきり蹴りつつ、シュナの頭を優しく撫ぜた。



「大丈夫。シュナが大人になって、新しい家族が出来るまで絶対にいなくならない」

「俺が余計なこと言っちゃってごめん。俺も絶対一緒にいるから!約束する!」

「はい…よろしくお願いします」

「善は急げだ。準備が出来次第、出国しよう」










それからの2人の動きは早かった。



ダダとセルムはすぐさま除隊届を出した。

上層部からは考え直す様に言われたらしいが、2人は頑としてその意思を変えなかったので渋々受理されたらしい。



ダダに関しては伯爵家の二男で次期当主のスペアである立場上、除隊後の進退について揉めに揉めた。結局、当主である父親の怒りを買い、まさかの除籍処分になったという。当のセルムは「勘当されてスッキリした」とサラリと言いのけた。

それを聞いていたセルムは貴族ってめんどくせぇという顔をしながら「こう言う時、平民で身寄りがないと自由っす」とケラケラ笑った。



シュナは他国の遠い親戚の元に身を寄せることを理由に退学する旨を伝令鳥で学校に知らせてある。騎士団経由だったのであっさりと了承された。



ヴィヴィアンには手紙と鈴蘭亭で買ったブックカバーを送った。またいつか再会できる日がくることを願っていること、薔薇の園シリーズの感想会はその時にしようと書き記して。

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