小さな叙任式
「シュナにお願いがある。少し待っていてくれる?」
ダダはしばらく考え込んでからそう言うと、部屋から出ていった。お願いとはなんだろうか。
暫くすると自室から1本の剣を持ってダダは帰ってきた。「いつも使っている剣は討伐時に無くしてしまったから練習用だけど」と言っているが、それでも普通の剣の2倍程の大きさだ。ダダさんはその美しい見た目と裏腹にパワータイプらしい。
するとセルムは「あ!ダダさんずるいっすよ!」と慌て始め、病衣のまま急いで自室に戻ると、やはり剣を持って帰ってきた。「俺はタンクだから剣は普通なんだ」と何故か拗ねている。
「剣?」
シュナは不思議そうにしているが、メアリーは意図がわかったようで満足げに微笑んでいる。
ダダとセルムは同じように鞘から剣を抜き出すとシュナに向けて捧げ、揃って跪いた。
「私はこれからの10年を全てシュナに捧げる。この身は一度王に誓いを立てたが、今一度改めてシュナに騎士の誓いを立てたい」
「ダダさんの真似みたいで格好悪いけど、俺もシュナちゃんに全部捧げるよ。どうか、剣を受け取って欲しい」
「騎士の誓い!?」
騎士達の叙任式のことは知っているが、あれは誉ある儀式のはずだ。決してシュナのような一庶民の少女に捧げるものではない。
困惑しているシュナを見てメアリーが助け舟を出した。
「誓いたいって言ってるんだから勝手に誓わせればいいさ。シュナちゃん、ほらその剣を持ってこの子達の肩に当ててごらん。そして叙任宣言と騎士に与える誓いの文句を唱えればいいんだよ」
2人とも真剣な眼差しで跪き、剣を差し出している。このまま断ったとしても、絶対に諦めないであろうことはシュナにもわかったが、叙任の宣言の文言など聞いたことすらない。
恐る恐るダダから剣を受け取ってはみたものの、両手でも持ち上げられないほど重かった。これを首に当てて保持出来る自信は全くなく、叙任どころか支えきれずにダダの首が飛ぶのではないだろうか。
メアリーはケラケラと笑いながら、更に助け舟を出す。
「叙任の宣言なんて難しいか。ほらあんた達、自分達から言い出した事なんだから、自分達で誓いを立てな。剣も重過ぎるから別の方法であんた達らしく叙任式をやってごらんよ」
ダダとセルムは目配せし合うと「もちろん」と頷いた。
ダダとセルムは跪き首を垂れ、その肩には剣の代わりに小さな両手が置かれている。
2人同時に叙任するのは、これから3人はずっと一緒だからと2人が願ったことだ。
立会人のメアリーは静かに見守る。
もう口を出すことはしない。13歳の少女と2人の騎士らしい心からの刀礼であればそれでいい。
「我、ダダ・ド・リオンヌはシュナ・デューラーに全てを捧げ、永遠の忠誠と永遠の矛になることを誓う」
「我、セルム・ノイマンはシュナ・デューラーに全てを捧げ、永遠の忠誠と永遠の盾になることを誓う」
彼らに与えられた時間は10年。
その全てをシュナのために使うという誓い。たった13歳の少女の為だけに立てられた心からの誓い。
「シュナ・デューラーはダダ・ド・リオンヌとセルム・ノイマンとともに生きていきます。…これからの10年が3人にとって幸せでありますように」
誓いと祈りが混ざり合った誓いを与えると、ふわりと3人の体が温かく光った。皆その光に驚くが、祈祷師の祈りであればこれくらいの奇跡は当たり前なのかもしれないなと納得した。
ダダとセルムは、肩に置かれた小さな手を取ると、その手背にキスをした。
メアリーはパチパチと手を叩きながら3人に言祝ぐ。
「おめでとう。これで2人はシュナちゃんの騎士になったね。あんた達、小さなお姫様を命懸けで守るんだよ」
「「もちろん」」
こうして、小さな病室で行われた小さな叙任式は無事に終わったのだったーーー




