ダダ
「「「ダダ(さん)!?」」」
「悪いと思ったんですが立ち聞きしてしまいました」
「え?本物?おばけ?」
「本物です。自分でも状況がよくわかってなかったんですけど、今の話で腑に落ちました」
ダダ本人以外は全くわかっていないのだが、とにかくダダが無事に帰ってきた。
シュナはすぐさまダダの頭上に目を向ける。
『3647』
ダダさんの数字が約10年分増えてる。
生きてる。生きて帰ってきてくれた。
喜びのあまりシュナはダダに駆け寄り、勢いよくその胸に飛び込んだ。
「ダダさんおかえりなさい!」
「ただいま、シュナ」
ダダは腕の中のシュナを抱きしめると、わんわんと泣き出したシュナの頭を撫でて微笑んだ。
「で、そんなボロボロの格好して3日間どこで迷子になってたんだい」
メアリーさんが呆れたように2回目の紅茶を注いでいる。
病室にサイドテーブルともう一脚椅子を持ち込んで、これからティータイム兼事情聴取の開始だ。
「討伐中に追い詰められて崖から落ちました」
「あの崖から落ちたんですか!?よく無事でいられましたね!?」
セルムさんが紅茶を吹きそうになる。
その崖というのはワイバーンが出没した海岸沿いの10m程の絶壁らしく、普段でも危険区域に指定されているという。
「無事では無かったはずなんだ。ワイバーンの爪に引っ掛けられて袈裟懸け状に抉られた記憶もあるし、崖から落ちていく途中までは覚えている」
「袈裟懸け…」
「でも気付いたら崖下の岩場にいて…騎士服が血塗れにになっていたのに、怪我ひとつ負っていなかった。その時はどう考えても答えが出なかったから、とにかく絶壁をどうやってよじ登るかに集中した」
「よじ登ったんですか?」
「いや、2日間挑戦したけどさすがにあそこは無理だった。装備類は全て捨てて海岸まで泳いだんだが、あの海流で着衣水泳は2度としたくないな…まぁそんな感じでやっと辿り着いてここまで歩いてきたから時間が掛かった。今さっき到着したところだったんだ」
ダダさんのいう崖登りと海渡りの過酷さを、ボロボロになった衣類から想像して3人は身震いした。
「寄宿舎に帰ってきたものの、誰もいなくて。話し声がするから声をかけようとして…立ち聞きしてしまった。私が生きて帰ってこれたのはシュナの祈祷のお陰だと思う。むしろそうでないと説明がつかない」
ダダはシュナを見つめて答えを待つ。
全てを聞いていたというなら話は早い。
「ダダさんが討伐に向かった日、見送りながら『どうか無事に帰ってきますように』と祈りました。その時のダダさんの頭の上には『赤い0』が浮かんでいたんです。今はセルムさんと同じで、ちょうど10年分増えています」
「そうか」
「生きて帰ってきてくれてありがとうございました」
「…シュナの命を分けて貰ったんだね」
「多分、そういうこと、なのかな。でも、わたしは自分が長生きするよりも2人が生きていてくれた方が嬉しいです。もう2度と周りの人が突然いなくなって欲しくないんです」
だから、これからは絶対に謝らないでくださいねとシュナは念を押した。2人は困ったような複雑な顔をしたが、メアリーさんが拳をあげると慌てて頷いた。




