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時代のうねり

ここからいっぱい人が死んでいくよ。

ははは、ワクワクするね。はぁ...

エリウ帝国と王国の辺境に一人の元帝国軍人が居た。名をエデ、金髪の長髪が似合う彼女は軍に所属していた頃は冷酷無慈悲の鉄の女と恐れられていた。そんな彼女は元々軍を辞めるつもりは全く無かった。祖国に尽くし、戦場で死ぬのだと。

だが彼女は出会ってしまった、冷たい鉄を溶かす光に。


「はぁ...!はぁ...もう追ってきてないよな?」

みすぼらしい男は息を切らしながらも逃げていた。彼は素行が悪く、不審だと住民から怖がられていた。その懸念は正しく、男は女を攫い強姦した挙句口封じに殺すという悪事を働いた。その結果追われる羽目になったのである。

「畜生、何なんだあの女......」

突如現れた黒い軍服を着た女はこちらを見るなり睨んできた。それだけで人を殺せそうな圧だった、只者じゃない、そう一瞬で判斷出来たので目眩ましの煙を魔術で出して必死に逃げてきた。

一刻も早くこの街から出なければ、そう思い歩みを始める。

「......は?」

一歩前に歩こうとしたがいきなり感覚が無くなりふらついてしまった。そして足を見ると、右足が無くっていた。

「あああああ!?!?何だよこれ!!?」

コツ、コツと足音が近づいて来る。暗闇から姿を表したのは先程の軍服の女、その眼には軽蔑と憤りがこもっていた。

「ゴミが。どうして逃げ切れると思ったんだ?品性だけでなく頭まで足りないらしい、さっさと死ね」

「て、テメエ!こんな事して許されると思っているのか!?この国は私刑は許されない、たとえ軍人であろうとも許可がなければ犯罪だろうが!?」

「そうだな。だがそれがどうした、お前のようなカスを殺すのに許可なんぞ一々取っていられるか。それにお前が死ぬのはこの街の住民の総意だ、理解したか?例え今の現場を見られたとしても咎める者は誰も居ない」

「クソがッ!全員地獄に──」

「囀るな」

黒い槍によって男の首がストンと落ちる。血が吹き出していたが女には返り血一つ付いていなかった。




扉の前で少し躊躇する。一度深呼吸をしてから扉を開けた。

「あ、エデさん。おかえりなさい」

軍服の女、エデを出迎えたのは茶髪の好青年。

「ああ、今戻った」

ぎこちなく言う姿は男を処刑した時には想像も出来ない程に弱々しい。恥ずかしくて思わず目線を逸らしてしまう。

「何で顔逸らすんですか?」

「何でも良いだろう。それよりもクリスト、食事は出来ているか。腹が減っているんだ」

「勿論。今日は貴女が好きなステーキですよ」

「そうか」

クリストは料理を取りに厨房へと向かった。彼が見えなくなった途端にヘナヘナと椅子にもたれかかる。

(また、素直になれなかった......)

恋人だというのに冷たい態度になってしまう。本当は好きで大好きで愛しているのに、軍人時代の言動が全く抜けない。

「はぁ...」

「今日はお疲れですね。貴女が溜め息を吐くなんて、相当大変な仕事だったんですね」

「あ、ああ。大変だった」

全然そんな事は無い、この街に来てから治安維持の仕事をしているが今まで苦労したことなんてない。昔と比べればぬるま湯どころか冷水だ。

夕食を食べ終わり、そのまま風呂に行き体を洗う。そして夜には二人一緒になって寝るのが日常だった。自分より小さい彼を抱き枕にして安眠をするのがエデにとって何よりの幸せ。


彼との出会いは三年前。任務でこの辺境に訪れた際に偶然クリストの経営する料理店に入ったのがきっかけだ。ただちょっとお腹を満たせれば良いという感情だったのだが思いの外料理が好みだったので毎日通っていた。そんなある日、店主であるクリストがガラの悪い者達に絡まれていたところを助けたところから交流が始まった。それから徐々にお互い思いを募るようになっていき、そしてエデの方から一緒に暮らそうと言い出した。

それからエデは速攻帝国の首都に戻り、引き継ぎのアレコレを素早く終わらせた後に皇帝に退役すると言い残し辺境に越してきた。

本来ならば退役するのは定年か怪我でのみだったのだが、エデに関しては今までの功績が凄まじいものだったので許された。それに完全に退役したわけではない、帝国が滅びかけるまたはそれに匹敵する大事には頼るように皇帝と部下には伝えている。無期限の休暇のようなものだ。

ちなみに軍服を着ている理由は単純に落ち着くから。


朝、朝食を食べている時。窓をコンコンと叩く音が聞こえた、そちらを見てみると白い鳥が外に居た。

「どうしたんでしょう」

「これは軍の連絡手段の一つだな」

鳥の足に紙が巻き付けているのを見たエデはそう呟く。

「あれ、辞めちゃったんじゃなかったんですか?」

「辞めた、がこうして連絡が来たという事は......チッ、面倒な」

「もしかして首都の方に戻ります?」

「君が行くなと言うのなら私は戻らないが?」

「いやいやいや、エデさんが呼ばれるくらいですから。絶対に行かないと大変な事になりますって!僕の事は大丈夫ですから、ご自身のやるべき事を為さってください」

「...そうだな」

朝食を食べ終わりエデは素早く支度を終え、家を出ようとする。しかしふと足を止めた。

このまま少ない言葉で彼と離れるのか、そんなことではクリストは失望はしないと分かっている。しかし一度気になってしまったらずっと脳内にこびりつくだろう。でも口から何かを言おうとしても出るのは冷たいものばかり、こうなったら身体で伝えるしかない。

「クリスト」

「はい?」

振り向いてこちらを見つめる彼に近づき、ギュッと抱きしめた。やはりこの瞬間がエデを最も暖かくする唯一の時間。しばらくの間堪能し、満足はしていないが離れる。

「すぐ戻る」

エデは足早に家を出た。お互いに照れるあまり顔が紅潮した事に気付いていなかった。




帝国は覇道を歩んでいる、国を吸収し続けて領土が広くなり続け、それ故に移動に時間が掛かる。辺境から首都まで魔車(魔力を動力とした車両)で走り、何の障害も無いとしても七日掛かる。

それはとても面倒だ。なのでエデは疲れるからやりたくなかったが、全力で走って向かう事にする。

「ふぅーー」

深呼吸。衰えないように鍛えてはいたが長距離走をするのは久しぶりだ。愛用する黒い槍を落とさないように握りしめる。

「ふっ!」

地面に亀裂が入るほどの踏み込み、一瞬の内に街が見えなくなる。

現役の頃はこうして走り、敵を殲滅してきた。多少衰えたとはいえ彼女であれば帝国の首都に休憩込みで三日で辿り着ける。更にエデは五日は睡眠食事をしなくとも動けるので掛かる時間は三日では無く一日と半日程だ。

そんなわけでエデは朝出発して明日の昼頃に着いた。

エデは都市に入ろうとする人々の列を無視して行こうとしたが慌てた様子の衛兵に呼び止められる。

「あの!中に入るにはちゃんと並んで申請し、許可取ってからではないと入れない規則でして...」

「何故私がそんな事をする必要がある?」

「いや、何故って規則でして」

少し揉めているともう一人衛兵が割り込んできた。

「おい新人、何を言い争って......」

途中から入ってきた中年の衛兵はエデの顔を見るなり固まり、そして徐々に顔を青ざめた。

「し、新人が失礼しました!どうぞお通りください!」

姿勢を正し、敬礼までとる態度に新人の衛兵はとても驚く。何事にも楽観的で緩い先輩がこんな規律正しくなるなどとにわかに信じられなかった。

「どうやら私が居ない間にずいぶんと腑抜けたらしいな、また教育が必要か?」

「すいませんすいません!どうかそれだけは、どうか...」

「ふん、今回は見逃してやる。次は抜かり無く」

「はっ!失敗しないようにこれからも努力してまいります!」

エデは少し息を吐き出し、無事門を通った。


「先輩、どうしちゃったんですか。なんだか変ですよ!?」

「馬鹿お前、あの方を知らないのか。あの方は帝国の英雄の一人、『黒き雷光』だぞ!」

「ええ!?マジすか!?うわー、とんでもない人に会っちゃった。これは自慢出来るぞ」

「はぁ、恐ろしさを知らないからこんな能天気なんだろうな。しかしあの方が見逃してくれるなんて何があったんだ?」



首都は相変わらず喧騒が絶えず、それでいて華やかだ。嫌いな訳では無いのだが、やはり田舎の静けさのほうが性に合っている。

軍の本部まで歩いたエデは本部の建物を見上げる。三年前まではここで休む暇も無く仕事をこなしていた、あの時は何も思わなかったが、今ではもう二度とやりたくないと思うようになった。自分でも心情の変化に驚く、何も感じなかった機械のような人生から暖かく感じるようにしてくれた最愛の彼にはとても感謝している。そんな事を考えていると自然と笑みがこぼれてきた。

その事に気付いた瞬間、自分の口を手で隠す。こんな姿を見られれば舐められる、それでは兵どもが腑抜けてしまう。

本部の中に入り、忙しそうにしている受付に話しかける。

「失礼。副団...いや、軍団長と会いたいのだが」

「軍団長にですかぁ!?あの方は忙しいので無理デス!私も忙しいので他の日にまたお越しくだサイ!」

「手紙を貰っている、急ぎの用なんだ」

「でしたら他の方を捕まえて何とかしてーー!」

「そ、そうか。分かった」

書類の山に囲まれた受付に流石のエデも強くは言えなかった。


その後、昔の部下を見つけて案内してもらった。

元部下が扉をノックする。

「軍団長、お客様がお見えです」

「何?一体誰が......」

エデと軍団長と呼ばれた男の目が合う。

「なんと!団長じゃないですか!」

「もう団長は辞めたぞ」

「いえいえ、私にとっては貴女はずっと団長なのです」

「...好きにしろ」

軍団長は部下に飲み物を出す指示をする。

「しかしまさか一日でここに来るとは思いませんでしたよ。全盛期ならともかく、今の団長は一線を退いていますから。三日は掛かるかと」

「速さは衰えていないな、だが体力は無くなってしまった。私は今かなり疲れている」

「疲れるだけとは、ハハハ流石黒き雷光。伝説はいまだ健在ですな」

「.....それで、何が起きた。私を呼び出す程の案件なのだろう?」

本部の様子を見ればかなりの大事だと察せれる。

「はい、実は王国との会談があったのですが。その会談に『騎士団』の介入がありました」

「何だと?死者は、怪我人は、被害はどれ程だ?」

「いえ!介入と言っても粛清された訳では無くてですね。本来は不可侵条約について陛下と王国の外交官が話されるはずでした。しかし突如エピックと名乗る者とあの『騎士』が割り込んできました。そしてあの者達は提案を出しました」

一、王国と帝国は正式に同盟を結び、お互いに武力行使をしない。

「ここまでは当初の予定どうりでした。しかしその後が問題でして」

二、帝国は軍の八割を国境の防衛に当てる事、配分は後ほど書類で送る。

「...そんな馬鹿な提案を飲んだのか?いや頷くしかないと理解はしているが......」

「兵の配置は王国の辺境を除いた全ての境に広く配置されます」

「西の魔物は、『魔王』の軍勢はどうする?まさか侵略をみすみす見逃すつもりか?」

「いえ、それが...」

三、西の防衛戦線の全ての負傷兵を回収し休息を与える。代わりに『騎士」が全て受け持つ

「そういう事か、ならば全ての提案を飲んだ方が利がある。しかし目的が分からないな、『騎士団』は何を警戒している?奴らが対策する程の脅威が帝国に襲撃するということか?それに王国の防衛はどうする、『騎士』の影響で王国に攻める者は少ない、だが隙だらけの今ならばいくらでも落とせるだろうに」

「そこは他の『騎士団』の者に任せるそうです、そして目的については...何も教えてくれませんでした。なので最大限の警戒態勢を国中でさせています、団長をお呼びしたのは未曾有の危機に向けての戦力が欲しかったからなのです」

エデは目の前の男の顔を見る。自分の後ろをぴったりと着いてきて、ただ命令に盲目に従うだけの男だったのが、今やこうして軍団長という座で責務を果たそうとしている。

「...フッ」

「団長が、笑った...?どうしたんですか??何か変なものでも食べました!?」

「いや、気にするな。ただ少し.....な。それよりも、私はこれから何をすればいい。今はお前が指揮官だ、指示をくれ軍団長」

「あ、はは。そうですね、私がしっかりしないと。では、まずは陛下にお会いし、そしてそこで協力者達と会っていただきます」

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