黒き雷光
「戻りました!」
夜明けを迎え、無事にキャンプに戻ったアリア。エピックが腕を広げて歓迎してくれるかと思いきや、キャンプにはオウル一人しか居なかった。
「あの、エピックさんは?」
「あいつなら帰ったぞ、仕事があるからな」
「仕事...なら仕方無い、ですね」
露骨にテンションが下がるアリア、血はほんの僅かしか繋がってないがやはり似た者親子なのだとオウルは思う。
「帰り際にお前に頼み事をしていった」
「頼み、ですか?」
「そうだ『帝国に行き、苦痛の源を殺すこと』それがあいつからの依頼だ。そして、今回は俺もついていくことになった。とはいえ俺はただの案内人みたいなものだがな、助けはしないから精々頑張れ」
「どうして助けてくれないんですか」
「俺が積極的に手伝ったら成長は出来ないだろう、あと面倒くさい」
アリアは物申したい気持ちがあったものの、グッと堪えた。
アビ山脈は東の最果てに位置する、帝国まで向かおうと思ったらとんでもなく時間が掛かる。オウルは途中でテレポートを使用して時短していたが、今回はその手段は取れない。
ではどうするのかというと...
「......」
「......」
「......」
三者同様に沈黙する。二人の目の前には紅い竜『光炎帝』レヴィア。
オウルは事前にレヴィアの住処を調査しておいたので訪問するのにさほど時間は掛からなかった。
「ふむ...また来なさいとは言ったさ。だが其方等早すぎやしないか」
「別に構わんだろ?どうせ暇なんだろうから」
「......否定はしないでおこう。それで用件は...ふむ、当てようか。歩くのが面倒が故この光炎帝に送ってもらおうという魂胆だな?」
「そのとおりだ、お前はその要求を断れない。冒険が見たいからな」
「良かろう、これは貸し一つだ。それで、どこに行きたいのだね?」
「帝国の首都、その外壁の上にしてもらおうか。当然人目がつかないところだ」
その要求にアリアはストップをかける。
「そんなに具体的には無理なのでは?西側にある帝国に、レヴィアさんは行ったことないと思うのですが」
「問題無い。この竜は天眼という能力を持っている、いつでもどこでも覗き見し放題」
「節度は守っているとも。ただ偶然にも濡れ場を目撃してしまう事もあるからして、いやはや困ったものよなぁ」
「この変態竜の事なんぞ放っておけ」
クククと笑うレヴィアに二人は呆れつつ、そして竜の手によってテレポートしていった。
「...別に世界の全てを見て、識ることが可能かと言われれば否なのだがね、まあ良い。さあ、其方等は何を為す?ああ、楽しいなぁ」
眩い光に包まれ、思わず目を瞑る。ずっと見続けていたら目が悪くなりそうだ。
「もう開けていいぞ。初めての帝国デビューだな」
初めて見るというのにアリアの反応は無、だった。とはいえ心までそうである訳ではなく、王国には無い新しい何かが有るかもしれない、そんな思いから少しワクワクしている。
そういえば、と気になっていた疑問を口に出す。
「苦痛の源を、とは言っても何をすれば良いんですかね?」
「それは歩きながら話すとしよう」
「一体どちらへ?」
「城だ。皇帝に謁見する」
夜、城の裏口からこっそりと二人は入る。最近起きている帝国の事件を解決する協力者としての立場にいる。それはエピックが皇帝と交渉した結果だ。何故エピックがそんな事をしたのか、どういう立ち位置の者なのか気になるがこの際置いておく。
そして協力者の存在は絶対、ではないが出来る限りバレないようにするとのこと。知っているのは皇帝、現軍団長、『黒き雷光』、『影刃』のみらしい。
暗い廊下を進んでいると突然声をかけられる。
「待っていた、お前達が協力者だな」
暗闇から窓から差す光に踏み入った事で姿が見える。灰色の軍服、その特徴からオウルは彼が『影刃』だと理解する。
「案内しよう。陛下はお前達を待っている」
『影刃』は背を向け歩き出す、その後を二人はついていく。
案内された扉の前に着くと仕事は果たしたと言わんばかりに『影刃』は影に消えていった。無駄を嫌う性格なのだろうか、話が続かなさそうなどとくだらない思考をするくらいにはアリアは落ち着いていた。皇帝に会う前だというのに緊張感の無い様子にオウルは少し危機感を覚える。落ち着ける状態を維持するのは良いことだが、それによってうっかりやらかしそうで怖い。昔エピックがやらかして大変な事態となり、とても面倒な事になった、そこが似たりするかもしれないので目を光らせる必要があると思う。
部屋の中に入り開幕一番に目にしたのは、数多の種類の動物と戯れる大人と椅子に座りひたすらにモフモフの動物を撫でる黒い軍服の女、そして中間管理職特有の死んだ目をした男である。
「何だ.....これは...?」
「何ですかこれ」
死んだ目をした男はこちらに気付き、動物を愛でる二人にしっかりするように言う。
「客人か。余...いや俺としたことが見苦しい姿を見せたな。俺がエリウの皇帝、アインだ。そしてこの二人は俺が唯一信頼する者達だ。今回は帝国に巣食う害虫の駆除の協力に感謝しよう」
オウルはアリアが何かを言う前に一歩前に出た。
「はい、部外者の身ではあれど、私達は責任を持って仕事を果たしましょう。既にご存知かもしれませんが、私はオウル、こちらがアリアです」
「それは初めて知った。あの者は協力者としか言わなかったからな、まあ良い。よろしく頼む、オウル、アリア。早速今後について会議しようではないか、疑問に思った事は遠慮なく聞いてくれ」
ひょこっと横から顔を出し手を上げるアリア。
「どうしてこんなに動物が居るんですか?」
可愛らしい動物、モフモフ多めの部屋は皇帝が用意した部屋としては威厳なんて何も無い。
しかし皇帝アインは特に気にしていないように答える。
「ハッ、そうだな。帝国には俺を目の敵にしている奴が多くてな、幼少から大人になるにつれて味方は減り、敵が多くなった。次第に癒しが欲しくなるんだ。人間は裏切る、だが動物はずっと味方だ、少し多いのは否定しないが」
しんみりとした空気になり、アリアは悪い事を聞いてしまったかと思い黙ってしまう。そんな空気を察知したアインは擦り寄ってきた一匹を両手で捕まえる。
「ほら、見てみよ。こいつは『しばいぬ』という犬らしい、俺が取引の時に頼んで『騎士団』が異世界から持ってきた内の一匹だ。こちらにも似たような犬はいるが凶暴過ぎてな、その点こやつは可愛らしい」
触ってみよ、とアインはアリアにしばいぬを手渡す。初対面にも関わらず警戒することもなく、むしろ甘えてくる。そのうえモフモフしているので思わず笑みが零れそうになるが、グッと堪えて無表情を貫き通すことに成功した。
「気に入ったようで何より、さて席に座るがよい」
アインに促され高そうなソファーに座る。見た目通りとても座り心地が良く、動物たちもよくリラックスしている。
「エデ」
「はっ。最初に我々が依頼するのは、帝国北部にて起きている不可思議な事件の解決です。報告によれば住民の記憶に空白が出来ている、そこに何かあったはずなのに何も無い。そのような事態が多発しています、
記憶を操作もしくは消去などを何者かが行っている場合、帝国としては最優先に潰すべきなのですが...今は兵の殆どを国境の警備に使わされている状況なので、お二人に解決して欲しいのです」
「二人だけでとは言わない、この『黒き雷光』ことエデを同行させる。戦力は申し分ない、もしかしたら過剰かもしれないな」
あっ、と何かを思い出した様子のアインは「軍団長」と死んだ目をした男を呼び、耳打ちをする。軍団長は命令をされたのか部屋を出て何かを準備しに行った。
「そうだ。実はな、このエデが協力者二人の実力を確かめたいと言ってきてな。お互いに強さを把握しておきたいだろう、準備運動のついでにと思うのだがどうだろうか?」
疑問として問いかけてはいるが皇帝からの提案なのでそれ、拒否権無いのでは?と思うアリア。
「分かりました、ですが戦うのはこのアリアのみとさせていただきます」
「ほう?それは何故だ?」
「私の役割は案内人となっており、手出しは禁じられています。それに私が手出しをすればこの未熟な生徒は成長出来ないでしょう」
「成長か、エデは過去教官をしていたことがあるから、丁度良いかもしれないな。良いだろう、軍団長に訓練場の手配をさせた、そこで戦ってもらおうではないか」
訓練場に来た一行はアリアとエデ以外は各々観戦席に座る。訓練場というより闘技場のような建物だ、疑問に思っているとエデが説明をする。
「この場所は元々剣闘士達が戦う闘技場でした。しかし『魔王』が発生した事により剣闘士達は魔物を食い止めるため戦場に向かいました、それから徐々に廃れていったのです」
「『魔王』?」
「ご存知ありませんか?『魔王』は帝国の西側の地にて突如として出現した強力な魔物の王、凶悪な災害です。その目的は不明、しかし魔物を率いて帝国の領土を犯しているので今現在も対処しているのです。数多くの精鋭を向かわせ、短期での制圧を試みたことがありましたが結果は痛み分け。私も戦場に赴き、実際に『魔王』と対峙しました」
「結果はどうなったんですか?」
その問いにはぁ、と溜め息をつく。その顔には苦々しい表情が浮かび上がっていた。どう見ても良い結果にはなっていない。
「陛下をあまりお待たせしてもいけません。その疑問の答えは、この腕試しを終えてからにしましょう」
エデは黒い槍の矛先をアリアに向ける。
「全力で来てください、私への遠慮は無用ですので」
アリアはまず冷静に分析をする。正直に言ってしまえば勝ち目なんて無いだろう、底が全く見えないのだ。現在の自分では観測が不可能、冷や汗が止まらない。
瞬きをほんの僅か、一秒にも満たない時間視界を黒く遮る。
目の前の相手は消えていた
「...っ!」
咄嗟に身体の背面を魔力を集中させて守る。次の瞬間には勢いよく蹴飛ばされて、訓練場の壁にめり込む。
「初見で私の速度に対応するとは...、どうやら楽しめそうだ」
浮かべた笑みはとても無慈悲で冷酷なものだった。
アリアLv60黒き雷光Lv80程の実力差がある。




