アビ山脈五〜十三日目
修行に来てから五日目。
ヘトヘトになりながらも投げ出さずひたむきに強さを追い求めた。アリアの才能は凄まじいもので一日経つごとに成長曲線は上に伸び続けていた。
「まだ五日なのにね。ククク、娘の才能が恐ろしいネ」
やる気を出しさえすればたった五日で第二等級を苦戦することなく倒すことが出来ていた。
(まあ等級が同じでも強さはピンキリだから第二を全て倒せる訳でもないけどね。最上級にはまだ勝てないか)
一人で戦っているアリアを見守る。魔物が大量にいる場所に放り込んでいるので万が一があってはいけない。アリアが死んでしまっては計画の見直しが必要になってしまう。無論、娘が死ぬところなんて見たくないのもある。
(ん?万が一...あ、彼の事忘れてた)
自分で頼んでおきながら迎えに行くのを忘れていた。ウッカリ
とその時、向かいの山が一部削れ、ぐちゃぐちゃになった魔物の死骸がエピックの横に勢いよくぶち撒かれた。
「お前な、どういうつもりだ」
音も無く横に立っていたオウル、簡素な格好とは打って変わって冒険者用の装備に身を包んでいた。覆面で鼻まで隠しゴーグルで目を隠し帽子で頭を隠す姿はザ・冒険者。
「いやーハハハ、ちょっと忙しくてね。ゴメンね?悪気があったわけじゃないんだよ」
「はぁ、お前が来ないから五日かけてここに走って来たんだぞ。転移して少し近道したとはいえ時間を無駄にした。この埋め合わせはしてもらうからな」
「はいはい、用意しとく...あぁそうだ。そこらに刺さってる武器を一本持って行くってので許してもらえないかな」
オウルはそれで納得したのか武器をざっくりと見た後で槍を一つ持った。
「よし、では俺はアレの様子を見に行ってくる」
「悪いね、僕が行っても命を消費するだけだろうから助かるよ。まだ三回目を迎えるわけにはいかないものでね」
「フンッ、精々娘を心配させないようにしろ」
十日目になった。アリアは一部の、ではあるが第一等級を単独で撃退出来るようになり、一対一であれば第二等級も全て倒せるようになった。
もはやとどまることを知らない成長速度だがここで一旦魔物を使った修行はストップをかけられる。
「君はとても凄い子だ、でもここで自信過剰になられてはあっさり死にかねないからね。ここで一度へし折りたいと思う」
「一体何を使うつもりですか?」
エピックは剣を取り出し、鞘を付けたまま矛先を向ける。
「僕だよ、僕に一撃でも当てたら合格だ。手加減はするけど君は遠慮しないでね」
「ええ!?そんな、危ないですよ!」
「ハハハ問答無用!」
強制的に剣を抜かされる。抜き身の剣がエピックを貫かないか不安になるが、信じて応戦した。結果はアリアの惨敗。完膚なきまでにボコボコに打撃された、顔は一度も当てなかったがそれ以外の部位は全部叩かれ痛みが全身に回った。
最初は剣だけで戦ったが技量で勝てるわけもなく次第に追い込まれていき、途中から魔術を使って全力でいくも避けられ防がれ跳ね返され、何も出来ずに終わった。
「そなたなぞ、まだまだ子犬よ」
床に絨毯の如く倒れ込み、意識を失うアリア。その言葉は過酷な環境に慣れ、少しだけ天狗になっていたアリアの自信を高所から落としたガラスの末路のように粉々に砕けた。
倒れているアリアの横を帰ってきたオウルが通り抜ける。五日間丸々戻って来なかったがエピックは微塵も心配はしていなかった。
「容赦なく折ったな」
「これもこの娘を思ってのこと、心苦しいけどね。で、状況は?」
「アレは消えた、恐らく何かと交戦して消し炭になったらしい。山が三つほど溶けてた。世界を滅ぼせるアレを完全に消滅させる存在がいるなんて、不味くないか」
「............いや、そうでもない。オウル、この件はもう気にしなくていい」
信じられないといった様子のオウル。そんな言葉一つで納得できるわけがなかった。
「なんだと?お前の知り合いか?誰だ、旅人か?竜か?それとも神か?」
「機械だ、少なくとも人類に敵対するようなものじゃないから安心して良い」
これ以上聞くなというオーラを放っているエピック、渋々その説明で納得することにした。
「はぁ...俺の任務は終わりか。次は?何をしろと?」
エピックはアリアの方を見る。それだけで意図が伝わったのか、オウルは溜め息をつく。
「剣は僕の方で教える。君は冒険者のあれこれを教えてもらおうか」
「俺が教師の真似事をするとはな、面倒だ」
十三日目。
オウルはどこからか出した黒板を背にして話す。
「冒険者っていうのは単純な職業だ。後の者達の為に道を切り拓く、それだけの仕事だ。だから先駆者と呼ばれることがある。今や一人を指す単語だがな、嘆かわしい」
「それだけと言ってもやはり未知を進んで行くのは怖いものではないでしょうか?」
「そうだな、だから冒険者は勇気を抱けなければやっていけないだろうな。もしくはお前みたいに通常の感性じゃないかだな」
初めて会って合計二日にも満たない期間なのに、お前の事は理解している風の事を言われると少しムッとするアリア、しかし多少思い当たる節があるので反論をするのは難しかった。
「貴方も未知が怖いですか?」
「いいや?」
先程怖いものだと肯定したはずなのに平然と違う事を口にする。
「俺の場合、まず一度撤退を前提とした動きをする。相手の手札を曝け出したうえで確実に勝つ展開を徹底する。最初から勝つつもりがないなら気が楽だろ、どうやらお前は馬鹿正直に勝負する傾向があるらしいからな、いいか勇敢と無謀を履き違えるなよ」
この日から修行は二つに別れた。正午前は座学、後は実戦。
座学は魔物の特性や国の特徴、こういう場面にあったらこうしたらいいなど意外にも分かりやすい授業でいつの間にかオウルの事を先生と呼ぶようになった。
問題なのは午後の模擬戦。たった一発当てるだけなのだが結果は悲惨なもので、何をどうやっても勝てない
「むー......」
夕食を食べる際に背を向けて食べる程にアリアは不機嫌になっていた。オウルはやれやれと呆れ、エピックは大いに狼狽えた。
「そ、そんなに拗ねる!?」
「私が弱いのは理解しています。ですがそれはそれとしてあんまりだと思います...」
「ぐぐっ!で、でも段々と立っていられる時間が長くなってきているから!いつかは当てられるさ」
少しだけ顔をエピックに向けたがすぐにプイッと顔を逸らされる。ブフッっとオウルが吹き出す音が響いた
「お前な、そういう慰めは本人が言ったら駄目に決まってるだろ親馬鹿め」
アリアは精神と肉体を虐められ、エピックは精神的にダメージを負い、オウルは心底楽しそうに愉悦した。




