アビ山脈一〜二日目
第二等級”喰殺狼”中型の狼人であり硬い金属だろうとも容易く折ってしまう怪力を持つ、だが真に恐ろしいのはその特殊能力、喰殺狼の身体は一定の魔力以下の魔術の類が効かない、足切り性能が高く厄介な魔物だろう。
しかし実は強さという観点では準第二等級というべきものであり本来なら第三等級に分類される。では何故第二等級なのかというと、それは群れるからだ。
狼たちは基本的に固まって動き、獲物を集団で獲る。仲間意識が強く、仲間を殺されれば報復としてその住処まで徹底的に喰い殺す。その脅威度から協会は第二等級に分類した。
だが時にまつろわない個体が出てくる事がある。我が強く、他よりも強力な個体は群れから排斥される事が多い。今アリアの前に現れたのもその一体だ。
追放された個体は倒されても仲間は何も思わない、だから今のアリアの相手には丁度良かった。
眼前で繰り広げられている戦闘を見るとやはりアリアは剣の技術、そしてそもそもの身体の強度が足りていない。魔術は扱い慣れており、狼にも攻撃は通っている。
「しかし、まだ甘い」
喰殺狼は発射される魔術に慣れてきたのか次第に避けてくるようになった。そうなれば必然的に距離を詰められていき、剣で応戦せざるおえない。
フィジカルでは圧倒的に下、それを覆せる技量も足りていない、狼の凶爪がアリアを切り裂かんとした。
「はいストップ」
「ギャウ!?」
銃声が鳴り、狼の眉間に弾が打ち込まれ痛みにのたうち回る。
「激痛を発生させるだけの弾だ、ダメージは無いよ。さてと、これで君の欠点が明確になったね」
「う、はい......面目ないです」
急な応戦ではあったとはいえ普通に負けた。この事実がアリアの自信にヒビを入れた。
「一度整理しようか。武器の性能は足りている、魔術の行使も素晴らしかった」
「ありがとうございます」
「でもそれ以外はダメダメだね。まず魔術がワンパターン過ぎる、ただ直線上に発射させるだけなんて弱すぎる。ひょっとして僕に遠慮したのかな、だとしてもあれは無い、もっと想像するんだ。そして一番の問題点である剣の技術、君は力では完全に負けているのは分かっているのに正面から真っ向勝負しているよね。恐れずに挑めるのはとても良いことではあるけど、感情的になって自分と相手との能力差を無視して勝負しても勝てるわけないじゃないか。理性と感情に折り合いをつけないとさっきみたいに死ぬよ」
思ったよりもボロカスに言われて心にグサグサと刺さる。全てが正論なだけにとても痛かった、ゴフッ。
「うう、ごめんなさい」
「心を鬼にして言ったけど、別に責めているわけじゃない。一つずつ改善していこう」
エピックは痛みが引いて立ち上がろうとしている狼の胴体にもう一発ぶち込んだ。
「この狼人には生半可な魔力攻撃は効かない、さっきの君の魔術は効いていたけど何度も見せては適応される。じゃあどうすればコイツを倒せると思う?」
「一撃に全てを乗せるとかですか?」
「良いね、それも正解だ。ウザい奴を相手するなら究極の初見殺しを一つ持っておくべきだね。あとは剣で足を斬って機動力を奪うとかかな。君には出来ることがいっぱいある、想像し工夫するんだ。そうすれば概念系の敵以外には大体無双出来るよ」
狼が立ち上がる、二度の激痛により怒り狂う。先程よりも早く鋭く、眼の前の二つの存在を喰い殺すべく全力で向かう。
「さあリベンジだ。大丈夫、君は何だって出来る」
アリアの肩をポンッと叩きそのまま前に押し出す。アリアは想像する、どうすれば倒せるのか、いやどうすれば倒しやすくなるのか。
「まずは脚!」
剣を地面に突き立て、前方の地面を氷漬けにする。すると喰殺狼の脚は完全に氷に飲まれ、ただ爪を必死に振るだけの哀れな獲物に成り下がった。
アリアは剣を狼に向ける。一撃で勝負を決めれる究極の初見殺し、考えて考えて思いついた。即ち誰にも反応出来ない速度で、反応出来ても避けれない程大きくて、どれだけ離れていても届く攻撃をすれば良いのではないかと。
剣に魔力が収束する、その突きの動作とともに放たれたのは速く大きく長いビームであった。
ビームはやがて雲まで届き、天候を晴天へと変えた。
狼は脚だけを残し、それ以外は全て蒸発した。
「ハッハッハッハッ、驚いた。君の結論はそれかい!?これじゃあ脳筋じゃないか」
「だ、駄目でしたか...?」
何か不味かっただろうかと怯えるアリアを安心させるように頭を撫でた。
「いいや、良かったさ。まだまだ粗くて同格以上には実用的では無いが、でも君の成長の一歩としてはとても良い。これからが楽しみだよ」
アビ山脈は魔物多き秘境、広大な山脈とはいえエンカウントする確率はとても高い。百歩歩けば第二等級並の魔物は三体程出会うぐらいには魔物が多い。
朝昼夜絶え間なく襲ってくる魔物にエピックも予想外だった。本当はアリア一人に任せきりにするつもりだったのだが流石に限界、ほどよく理不尽を与えるつもりがボロボロで死にかける寸前を幾度となく繰り返す現状にエピックも手を貸すしかなかった。
「うーむ、これでは休憩なんてできそうも無いね」
「し、死にます!今度こそ死んじゃいます!もう無理です!!」
剣を杖代わりにし、涙目になりながらも必死に立つ。体力も魔力も殆ど残っておらず、それでも気合で撃退する。後方からの援護射撃があるにせよ連戦連戦連戦はとてもきつかった。
「はぁ...仕方ない。これは事前に視察しなかった僕の落ち度だからね、僕も剣を使うとしよう」
いつの間にか取り出したのは黒き刀。アリアはその刀に見覚えがあるような気がした、どこで見たのかは思い出せないが。
「アリアちゃんはここで座って休憩してて、僕はここらの魔物を殲滅してくるから」
「殲滅??本当に出来るのですか?」
「まあ見ててよ、ついでに技を盗んでもらいたい。たとえ力では勝てなくとも、技を極めれば神にだって勝てるってね」
壁際にアリアを寄せ、姫を守る騎士のように前に立った。前方には魔物が五体、そのうちの四体は第二等級で一体は第一等級で到底アリアでは太刀打ち出来ない。
しかしエピックは先行してきた一体を抜刀で斬る、連続してもう一体を袈裟斬り。二体同時に向かってきた魔物を横薙ぎ、残ったのは第一等級の魔物だけとなった。
シンプルかつ無駄のない動作、一切の迷いのない真っ直ぐな剣筋。アリアは自分がどれだけ未熟なのかを正しく理解出来た。
第一等級”氷結像”とある魔術王が造ってそのまま忘れて放置したものが暴走、その結果氷結像は本体から増殖して被害を撒き散らした。見た目は氷のゴーレムなのだが実は氷属性ではなく炎に近く、造り手の性格が透けて見える性能をしている。物理攻撃は効かず、また魔力を使った攻撃も炎の身体を揺らめかせ空振りさせてくる。だが真にヤバいのは魔力さえあれば無限に増えるということ、この機能のせいで国が一つ滅びかけた。本体は既に造った本人に討伐され増殖個体も粗方片付けたが、この個体のように生き延びたのもいる。幸いにも本体以外には増殖機能は無いのでただ意地の悪い強い魔物という位置づけになった。ただ何かの間違いで増殖個体にも増殖機能が生えてくるかもしれないので警戒の意味も込めて第一等級となった。
(あの阿呆がいい加減な仕事をするから、僕達が割を食らったんだよネ。今思い返しても腹立つなあの女)
処分しようにもなまじ有能なので出来ないのも更にイラッとくる。
その怒りをぶつけるかのようにまず氷結像の両足を斬る、そして両腕、胴体、首を完全に分断し何も出来なくする。物理は効かないが武器に魔力を少量であろうが纏わせれば効く、氷結像は再生しようとするがその隙を狙われ身体の中心にあった核を刀で貫かれる。
こうして五体の魔物は難なく倒された。
二日目の朝、アリアはぐっすりとテントの中で眠っていた。余程疲れていたのかちょっとやそっと触れても起きることはない。昨日は一日中戦いっぱなしだったのでその反動なのだろう、それに傍にはエピックがいるからこその安眠でもある。例えクロムなどのある程度親しい者が居ても無理をしてでも無表情を貫くし、寝顔を晒すなんて絶対にしない、アリアが心を全て曝け出して甘えるのは母親とエピックだけなのだ。
そんな気難しい娘の髪を弄んでいたエピックはテントの外に出て周辺を観察した。崖際に設置されているのである程度は魔物に見つかりにくい、しかし匂いなどで追ってくるのが居たりする、そんな襲いかかる魔物を自分の身で抑えるのは面倒なので所持する武器達をテントの周りに突き立てて魔物避けにするというパワープレイをすることにした。
強大な力を持つ武器は意志を持つことがある、使用されるのを期待していた武器達もまさかこんな使い方をされるなんて思いもよらなかった。
そんな訳で安全な場所を確保出来た。ということは一日目よりも無茶をさせて良いという事なので、エピックは快眠出来て良い目覚めをしたアリアを「えーい」という掛け声と共に崖から突き飛ばした。
いきなりの理不尽をなんとかした後に魔物による継続的な理不尽を気合と根性で限界を超えて夜にテントへ生還、戻って来た時にエピックが焚き火でマシュマロを焼いていたのを見た時は流石にアリアもイラッとした。なので罰として寝る時に全力で抱き枕として使ってやった。
これにて二日目終了。




