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地獄の山籠り☆

「私、強くなりたいです!」

朝一番にそんな言葉をエピックにぶつけられる。

今まで怠惰な生活をしていた、いやさせてしまった娘からいきなり純粋な戦意を投げられてしまうとすっごく動揺してしまう。

「......な、何?どうして急に?どうしちゃったのアリアちゃん!?!」

危うく作っていた朝食を落としそうになった。本来は部屋にキッチンは無いがアリアの朝食を食わせるのは自分、という思いから勝手に増築した。

現在作っているのはご機嫌な朝食。白米、味噌汁、魚の魔物、魔獣のベーコンの上に目玉焼き、そして山盛りのキャベツ。

「理解はしていましたが、今回の件で自分の弱さを実感できました。ロマリスとかいう狂人に、お前は必ず絶望する、なんて言われて癪なのでそうならないように鍛えて欲しいのです」

キラキラと蒼い目を輝かせながら見つめてくるアリアはとても珍しい。初めて甘味を食べた時以来の純粋な瞳はエピックを困らせた。

「うーん。どうしようかな、まだ早いと思ってたけどなぁ」

一度調理を止め、アリアに向き合う。腕を組み悩む素振りを見せたアリアはもっと押す。

「そこをどうにかお願いします!」

グイグイと上目遣いをしながら迫ってくるアリア、その破壊力はとんでもない。これを天然でやっているのだから恐ろしい。

「グッ!?これは中々クるな......はぁ〜分かったよ。君に色々教えてあげる」

「やった!ありがとうございます」

ギュっとエピックを抱き締める。多少戸惑いはしたが、エピックは左腕で抱き締め返し、右手で頭を撫でる。体温や匂いを感じてアリアは今までに無いほど安心しきる、いつもは無表情か不機嫌そうな顔も蕩けた笑顔をただ一人にだけ見せた。

「一旦朝食を食べようか。いっぱい食べないと強くなれないぞ」



完成した朝食を口にしたアリアはエピックに恨みを覚える。何故ならば舌が肥えてしまうからだ。永い人生の中で、暇潰しの一環として料理も極めたらしく、他の料理人と比較しても別格の腕前だ。

なので美味しすぎて太るかもしれない、別の人の料理が食べれなくなるかもしれない、そんな恐怖がアリアの中に有った。

実にくだらない恨みであることは自覚している。

「さて、君は今すぐに強くなりたいらしいので元々考えていた計画を早める事にしたよ」

「元々の計画ですか?」

「うん。一言で言うなら山に籠もる」

アリアは分からなかった。何故山に籠もれば強くなるのかが。魔物を倒して経験を得るのならそこらの平原でも強いのがいっぱいいるからだ。

「山と言ってもただの山じゃないよ。最果ての魔境『アビ山脈』そこで三週間程過ごす、僕ともう一人が付いているから万が一にも死ぬことはないけど......正直、かなりハードな修行になるけど良いかな?」

一応の確認をするエピック。愛されていると感じられる質問だがアリアは自分を不甲斐なく思った。つまりは自分を弱い存在なんだと遠回しに言っているので少しへこむ。

「...大丈夫です、やり遂げてみせます」

全て自分が悪いので、己を奮い立たせて答える。

「そうか、なら早速準備と行こうか」



顔には出さないがとても機嫌が良いアリア。久しぶりの二人で外出はなんてことない事でもとても楽しい。

第三者から見れば美少女が無表情のまま顔の見えない不審者と手を繋いでいる光景は三度見するぐらいには奇妙な光景だ。

アリアは気にしていないがエピックは周りの視線が痛かった。

「ねえアリアちゃん」

「はい」

キョトンと首をかしげるアリア。

「なんで手を繋いでいるのかな?」

「嫌でしたか?」

「いやそうじゃないけど、なんというか...さ、うん、率直に言って恥ずかしいかな」

アリアは嬉しくなった。エピックは自分を恋愛対象として見ていないと分かってはいる、けど少しでも意識しているならば、それで十分だからだ。

「まあ、君が良いならこのままにしておくよ」

変わらず手を繋いだまま連れて来られたのは朽ちた廃教会。それなりの大きさで、大勢に信仰されていたのが分かる。だがそんな信仰も廃れてしまうのは世の無常というものか。

「ここに目的の人物が住んでいるんだ」

「こんな天井も抜けてほこりまみれのボロボロな教会にですか?どんな変人が...」

酷い言い草ではあるがアリアの言っていることは全て事実であり、実際に住むとなるとすぐに病気になりそうだった。

「流石に寝る部屋くらいは掃除していると思うよ。で、ここに住んでいる奴だけど君より遥かに強いよ」

教会の扉を叩く。建物は朽ちてはいるが扉だけはは建て直したのか頑丈で綺麗だった。

「知識、経験、技量、全てにおいて一級品。いやー、偶々この辺りに居て助かったよ」

扉が開く。出てきたのは灰色の髪のくたびれた男だった。顔色はとても悪く、目には隈が出来ていた。体格は良く、アリアはちょっと圧された。

「このクソ忙しい時に足手まとい二人の世話とかよく頼めたなお前」

「ハハハ、悪いとは思っているよ。あーでも今の僕は()()()とは言っておこうか」

()()()、一人でさっさと終わらせたかったんだが。それで、約束の物は?」

エピックは虚空から白い布で包まれた棒状の物を手渡した。形から推測するに剣の類だろうか

「前の剣は完全に砕けちゃったからね、今回は硬度に重点を置いて造ってみたよ」

男は布を取り去り、その姿を露わにした。見た目はなんの飾り気のない長剣(ロングソード)

「ふむ」

鞘から取り出し男は剣を吟味する。暫く見た後、満足したのか鞘に納める。

「悪くない、中級金属を使ってもらったがこれならば長期間使えるだろう。やはり低コストでこのレベルの物を造れるのは反則だよな」

「伊達に永く生きてないからね。じゃ、本題なんだけど。この娘がアリアちゃん、ちゃんと守ってね」

男はアリアを見つめる。訝しんでいたが、やがて割り切ったようで何も無かったかのように元の眠そうな顔に戻った。

「俺は......オウル。S級冒険者だ、よろしく」

「初めまして、今回はお世話になります」

アリアはお辞儀をし、一応の敬意を払った。不潔、というわけではないが陰気な感じが移りそうなのであまり近づきたくはない。しかし圧倒的危険地帯に忙しそうなのに護衛をしてくれるのならば礼儀を欠いたことはしない。

「オウル?...まあそれで良いか、それでは今から修行といこうか」

「今からですか?準備とかいらないのですか?」

「もう持っているからね。君の分の荷物も持ってきておいたから」

なるほどと納得するが、ふと気付いた。もしかして、プライベートなものまで持っている?

「あ、あの、もしかして着替えとかって...?」

人の目があるにも関わらず無表情を崩し、その美貌は羞恥の色に徐々に変わっていった。

「着替え?あー、勿論()()持ってきたよ!女の子は身だしなみがとっても大事だからね☆」

「な、ななぁ!?」

アリアは恥ずかしさのあまり、顔を両手で隠ししゃがみ込む。

オウルは呆れた表情で問う。

「お前、それ天然か?」

「いやぁ、さっき恥ずかしい思いをしたから仕返しサ」

「だからといってさっきのは酷いだろうに。お前の家族事情なんぞ知らんが、もう少し手心を加えてやれ」

「ハハハ、心外だね」

オウルは付き合えきれんとばかりに踵を返す。

「俺は装備を整えてくる、先に行ってろ」

そう言い残し教会の奥へと消えたオウルを見送ったエピックは未だ羞恥に悶えている可愛い娘に声をかける

「ごめんね、ほんの仕返しのつもりだったんだけど。まさかこんなに効くとは......」

「ひどいです、私のプライバシーが......」

二人きりになり、やっと上げた顔は赤くなっており、久しぶりに見た涙目はとても可愛らしい。

「まあまあ、僕は性別なんてあってないような存在だからね?気にしない気にしない」

「そういう事じゃないのですけど...鈍感なんですから」

ほんの一瞬だけ、その言葉を聞いたエピックが固まったような気がした。

「───ん?何か言った?」

あれ、聞こえている声量のはずだったのだけれども、聞こえてなかったみたいだ。そういえば鈍感な人は重要な話を聞き逃す傾向にあると本に書いてあった、多分エピックさんもその類なのだろう。

アリアはそう結論付けて気にしない事にした。

「いえ、なんでもないです」

「そう?気になることがあったら遠慮なく言ってね」

エピックは指を鳴らすと場面がガラリと変わる。

街から果ての絶景へと、天才であるアリアでもその原理が分からない程の転移の能力にアリアは目を輝かせた。

「久しぶりですね、相変わらず解析しようとしても何も分からないという結果が分かります」

「ハハハ、いつか分かるさ」

突然ポツポツと雨が降ってきた。今はまだ弱いがこれから豪雨になるだろう、それを感じ取ったエピックはアリアに魔術で洞窟を掘らせる。

どこからか薪を持ってきて火を点けた。

「さて、丁度良いから強さの基準について詳しく説明しておこうか。この世界の基準は第五等級から第一等級まで区切られているね?具体的に言えば第五は無害、第四は人を殺し、第三は村を壊す、第二は街を殺し、第一は国を崩す。そして伝説級の化物、所謂等級不明(アンノウン)と呼ばれるモノは()()()()()()

アリアは驚愕し、思わず問い返した。

「それほどの力を持っているのですか?」

「ああ、とは言え現在に至り等級不明はもう一体しか残っていないな。他はそれはそれは強い英雄達に滅ぼされたね。だがそんな英雄達が居ても尚倒せなかった存在が、教国が目の敵にしている黒き龍『破滅龍』」

アリアはその名前を本で読んだことがあった。

一時期、人から竜から神から、世界から狙われてもその全てを返り討ちにしてきた真なる龍。

人類が総力をあげて討伐に向かうも壊滅。三体の竜王を同時に相手をしても一体を瀕死、もう二体を撃退。そして人類が祈った成果として神の配下が戦いを仕掛けるも全滅。圧倒的最強、この世界の頂点に君臨する神を超えた龍と言えよう。

「あーでもあんまり怖がらないで欲しいな。破滅龍に世界を滅ぼす気なんてないしあったらもうやってる、それにかの龍の戦果は全て返り討ちだからね、正当防衛ってやつさ。だから嫌いにならないで欲しいかな」

「やけに庇いますね、その破滅龍を」

「......まあアレとは知り合いだからね、別に好きになれっとは言わないよ。誤解しないで欲しいだけだ、君には歴史を正しく認識してもらいたいからね」

外を見ると折角の綺麗な景色が見えない程の豪雨。防音の結界を張っているので外の音は聞こえないが、もし張っていなかったら耳元で喋るぐらいはしないと聞こえなかっただろう。

「アリア、これから暫くはこのアビ山脈で生活するけど、言っておくよ。ここの平均は第二等級、つまり君一人では殆どの敵は倒せない、()()()()()君には一人で戦ってもらうよ」

「え?」

エピックは立ち上がり洞窟の奥側へと移動する。

「さあさあ剣を取って!今ここに入ってこようとしている魔物は第二等級”喰殺狼(キリングウルフ)”最初の修行にはぴったりだ」

アリアは思い知ることになる、この理不尽はまだ序の口だったと

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