表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/54

第9話 同郷の娘

 終点のトラバント駅に到着した汽車は、旅をねぎらうように汽笛を長く鳴らした。

 リリイは目を覚ました。外は暗くなり、窓に自分の顔が映っている。向かいに座るディータはすでに下車していた。一緒に旅をしているわけでないから、それでかまわない。


 駅前は、丁寧に敷きつめた石畳の街路とガス灯の光が綺麗で、幻想的な藍色の夜が演出されていた。

 年季の入った石造りの建物が連なっている。

 リリイは左右を見回して、お腹を満たすための店を探した。

 通りの小さな店の窓から、客の笑い声が聞こえてくる。気心が知れた者たちの語らいのようで、ここの住人達だろうと思った。


 とある酒場がリリイの目に留まった。

『イングリードランド風料理の店カリキ』と壁掛けのプレートに書いてある。

「イング料理は港町の生きのいい海産物が売りよ。大陸の真ん中でこんな店を構えるなんて度胸があるわね」

 彼女は扉を開けた。

 店内は地元の常連の男たちが座り、テーブルの上に空いた酒瓶が並んでいた。


「いらっしゃいませ」

 メガネをかけた店の娘が笑顔でリリイを迎え、カウンター席に案内した。

 店の娘はリリイと同じグレー色の瞳をしていた。ふたりはお互いにイング人であると察した。

「イング料理の店なんだって?」

 リリイは念を押す。

「はい。おいしいですよ。お客さま、どちらからいらしたの?」

 茶色の髪を三つ編みにするふっくらとした体つきの店の娘は、旧友と会ったかのように、人懐っこく聞いてくる。

「東。中央セントラルから」

「そうですか。セントラルの方ですか」

 店の娘はすこし残念そうな顔をした。

「魚料理ある?」

「あるよ」

 カウンター越しにいる中年の男の店主が答えた。


 出された料理はマスのマリネだ。

「マスはトラバント湖で釣ったものです」

 ナイフを入れ口に運ぶと、赤身のうま味とともに、じわりと酢の刺激が舌に染みてきた。

「うーん。ビネガーの塩辛い感じは、イング風ね」

 店主は自慢げに腕を組んだ。

「俺は若いころ、イングで料理の修業をしたのさ。ちなみに俺はここ育ちだが。調味料はイングから仕入れたものだ。最近はイングから物を取り寄せられなくてね。イング料理の看板を降ろそうかと思ってる。イングを嫌ってる人もいるし」

 この地域で『イング風』を看板にするのは、少なからず風当たりがあるのだろう。

「この三つ編みの娘、カルアと俺は親子じゃない。彼女はイングの品物をトラバントで売って食ってたけど、政情が悪くなって帰れないのさ。この店で働いてもらってる」

 イングとハーベの国境となるハイダカ山脈の峠道は、ハーベ軍が要塞をつくったので一般人の行き来ができない。

「大変ね」

「ええ」

 リリイは娘カルアの身の上を気の毒そうに思ったが、彼女も故郷に帰れないということだ。

「懐かしい味をありがとう」

「やっぱり、お客さんイング人なのね」

 カルアは、周りに聞こえないように小声で耳打ちした。リリイは小さくうなずいた。

「デザートにジェラートをどうぞ。サービスです」

 カルアはガラスの小鉢を席に置いた。

「えっ、いいの? ありがとう」

「今日は、ツイてないけど、ツイてたんです。私、今日、ジェラートをつくったのだけど、保蔵庫の扉を開けっ放しにしてしまって、全部溶かしてしまいそうになったんです。でも、ついさっき、お客でいらした錬金術師さんが、術で水から氷をつくってくれました」

 リリイの瞳が見開いた。

「錬金術師? ねえ、その人、黒髪だったりした?」

「はい。お客さまと同じくらいの歳です」

「こーんな帽子被ってなかった?」 

 リリイは頭の上に両腕で三角形をつくった。

「はい。三角帽子を被ってましたよ」


 アーリィだ。

 アーリィはこの街にやって来ている。彼女にたずねなければならないことがある。

 ディータがアーリィのことを知らないと真顔で言った。

 アーリィはディータの記憶を弄ったのか。

 トラバント城に行けば、彼女と会えるはずだ。

「ごちそうさま。また、来るからね」

「ありがとうございました。お客さんも、錬金術師ですか」

「さあ、どうかな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ