第7話 リリイの生い立ち
リリイ・メディナは、イングリードランドの港町に生まれた。
母と祖母は、植物から薬を作るのが得意で、小さな店舗を構えて売っていた。
父と母は、幼いリリイを連れて、町を囲む山や沢に入り、薬効のあるハーブやキノコを採取した。磯にも出て海藻や魚介を採った。
草花や虫、鳥など生きるものすべての自然を身近に感じながら生きてきたリリイは、物心がついたとき、特殊な力を身につけていた。
草原に出かけた家族を、飛んできた野焼きのこぼれ火が巻き込んだとき、リリイは風を起こして火をなぎ消し去った。
それを目の当たりにした祖母が言うには、リリイは何かに憑かれたように不思議な言葉をつぶやいて、秘蹟を起こしたのだそうだ。そして、祖母は若いとき同じように風を扱った経験があった。
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世界で初めて産業革命を起こしたイングリードランドは、科学技術が錬金術に代わり人々を幸福にするものとして、錬金術を敵視し弾圧を開始した。
リリイの家は、あやしげな術で薬を作っていると国はみなした。母と祖母は薬草づくりをやめさせられ、父は工場に働きに出た。
リリイは幼いときから頭がよく容姿も良かったし、母と祖母は薬草づくりで町の人に貢献していたから、彼女がいっぷう変わった振る舞いをしても、まわりの目は温かかった。
浜や草原で風に吹かれてのびのびとすごすうち、リリイには風を扱う力が自然にそなわっていった。
父は考えた。娘には術の才能がある。科学文明が席巻しつつあるこの国では芽が出ない。働こうにも、自分のような機械の歯車になるしかない。
彼はハイダカ山脈を越えた東のハーベストランドに錬金術学院があることを知っていた。やがて父は大きくなった娘に錬金術学院への進学をすすめた。死んだ祖父が残した財産から学費は出せるし、彼女が立派な錬金術師になれれば、それ以上に元がとれる。
はじめ母は反対した。しかし、娘は喜んで進学を決めた。
リリイがハーベの錬金術学院に移ってから、イングとの軍事衝突が起こった。
科学文明には、燃料となる資源がどうしても必要となる。
イングリードランドはハーベストランドの鉱物資源に目をつけ、ハイダカ山脈を越えてトラバント地方を占領しようともくろんでいた。
銃火器をもつイング軍に対し、技術に遅れをとるハーベ軍は、錬金術師の力を借りて、多くの犠牲を払いながら粘り強く抵抗し、西へ追い返した。
両国の関係は本格的に悪化し、ハーベ軍はハイダカ山脈の峠に石造りのトーチカ群からなる要塞を建設した。
それから一般人の行き来は制限されるようになった。
戦争は彼女と故郷の家族とのつながりを引き裂いた。




