第50話 シャイン戦
シャイン陣営
シャイン伯爵が率いるイングリードランド軍は、トラバント城の入り口のゲートをくぐり、草原を割る並木道を進んだ。
塔の城が眼前に迫ってくる。
「なつかしい場所だ。我は昔、トラバント国王の結婚式に呼ばれたこともあった。城の先端が崩れているではないか。よほど困窮しているのだな。ならば、我がハーベストランドから独立させ、王国を再建しよう」
シャイン伯爵のゆく先に、いく筋もの竜巻が起こった。多くの兵士が巻き上げられ、 やがて竜巻は火柱に変わり、兵士たちの身体はバラバラに切り裂かれ、燃えていった。
「む、ここに錬金術師はいないはずだが。市街でキーンと戦っているはずだ」
シャイン伯爵は嫌な汗をかいた。しかし、もう突撃しか策がない。
シャイン軍には次のトラップが待っていた。
広い城の敷地内に待機していたハーベストランド軍が、直線の陣形のシャイン軍を左右から襲った。
さらに後方の入り口のゲートから、ハーベ軍の一団が追いかけてくる。
ハーベ軍は市街の守りを手薄にして、ベベトが避難する城の守りを厚くしていた。
「左右、後から攻撃を受けています!」
部下が状況を報告する。三方から銃弾が飛んでくる。
数で勝ってはいても、シャイン軍は総崩れになった。
シャイン伯爵は目の先に、正装の青年クリストファー・ローゼンクライツの姿を確認した。
「有名な錬金術師。ハーベ軍の指揮官なのか。なぜ、城の守備を厚くした? 黒騎士たちよ。ローゼンクライツを目標に攻撃をしかけろ!」
―――
クリスサイド
五体の黒騎士が速度を上げて、クリス目がけて突進してくる。
「さあさあ、おいでなさい」
勢いよく迫る黒騎士団は、クリスが草原に仕掛けた巨大な錬成陣の中に入った。
黒騎士たちは青白い閃光に包まれ、ひとつに重なり合い、鉄の塊になった。
「魂の主亡き、さまよえるゴーレムでしたか」
クリスは錬成陣に足を踏み入れた。
「この鉄の塊をどうしましょう。鉄の巨人を創るなんて面白そうですが、それには魂の刻印を与えなくては。あいにく私は『魂の錬金術』を心得ていません。ならば、得意技でいかせてもらいましょう」
クリスは『物質変形』で鉄の塊から長方形の壁をつくり、身を隠してイング軍の射撃の弾を避けた。
そして、残りの鉄から三つ又の槍を錬成した。
―――
シャイン陣営
「なぜ城をそこまで必死になって守るのだ!」
馬上のシャイン伯爵は叫び、鉄の壁に隠れるクリスに問う。
「私は城の守護職クリストファー・ローゼンクライツ。領主レミー・ラ・トラバントを守る義務がある。ドリュー・ベベトも城にいます」
「総大将ベベトは城にいたか。謀ったな。西管区を攻めるキーンの軍勢が無駄になった。いいか、トラバントを解放するのは我だ。我なのだ。我が手を下すほかない。銃をよこせ。ハイダカの森の狩りで鍛えた腕前をみせてやる」
シャイン伯爵は、指揮用のサーベルを納め、兵士からライフル銃をもぎ取った。
キーンもいない。黒騎士も全滅した。強がる伯爵は自棄になっていた。せめて貴族としてのプライドを示すしかない。
「新しき国王たる我への反逆者には死を与えん」
シャイン伯爵は鉄の壁の裏に回りこみ、クリスを射撃する体勢にはいった。
槍を手にしたクリスが、鉄の壁の上に飛び乗った。
「『トライデント』を受けよ!」
クリスは、力いっぱい槍を投げる。
片目をつむり銃砲を上に傾けて、狙いを修正しようとする伯爵の腹に、三つ又の槍が突き刺さった。
シャイン伯爵は勢いづいた馬から転落した。
「トラバント城よ……。我の手に落ちれば良かったものを……。我がシャイン州も、我とともに滅びるだろう。ロ、ローゼンクライツめ。いずれ、貴様ら錬金術師は、イングの科学により、滅ぼされるだろう……。シャイン州万歳」
それがシャイン伯爵の発した最期の言葉だった。




