表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/54

第44話 処断

 コルホズ博士は河の洪水に巻き込まれ、命からがら岸にあがった。全身びしょ濡れで、水を吸った法衣がさらに重くなった。

「クリストファー・ローゼンクライツが、やったか。敵味方関係なしに術を放った。大した奴だ」

「味方にやられるとは無様だな。コルホズ博士」

 聞き覚えのある声がした。博士の目の前に、黒騎士を五騎従える錬金術師マルティン・グローフェがいた。

 山羊のような白髭を生やす馬上のグローフェは、きちんと軍服を着て山形帽子をかぶっている。ただ、体が左右に揺れて態勢が不安定だ。


 コルホズとグローフェは実力がある錬金術師として、ハーベストランドで有名だった。若いころ共同で研究をやったこともあった。

 共に戦争に参加したが、グローフェは行方不明になった。

「久しいな。とっくに死んだと思っていたぞ。帰れなかったのか」

「わしはイングの捕虜になったのだ」

「うむ……。錬金術師が捕虜となれば、生体実験を受けるなど酷い目にあっただろうに……、気の毒に」

 コルホズは同情の意を示す。しかし、それはグローフェの慰めにまったくならない。

「わしはイングを憎んでおらん。イングはわしの力を認め、処刑をやめて、研究をさせてくれた。待遇は最悪だったがな」

「その機械仕掛けの騎士たちは、お前がつくったのか。お前の魂を機械に分け与えているゴーレムだな」

 蒸気を吐く黒騎士をコルホズ博士はまじまじと観察する。

「錬金術師討伐隊だ。わしは錬金術師への憎しみをこいつらに深く、深く込めてやった。代償として、もうじきわしの魂が抜けてしまうだろう」

「無理したな」

 コルホズ博士は、黒騎士が殺気を向けているのを感じとった。黒騎士たちは銃剣を抱えて、今か今かとグローフェの指示を待っている。


 馬上のグローフェは、老けて消耗したコルホズを見下ろして勝ち誇った。

「ふははは。コルホズ。お前は錬金術学院の教師として、ぬくぬくと生きやがって。わしだって錬金術博士なのだ。みんなから尊敬を集める名士になるはずだった。イングに捕まったのが、どうしてこのわしだったのだ!」

 グローフェはすっと右手を上げると、五騎の黒騎士はコルホズを取り囲んだ。

「言い残すことはあるか」

「貴様に残す言葉などない。私はすでに、弟子に言うべきことを伝えた。貴様もこの先、長くはなさそうだな。ふははは。老いぼれはとっとと世界から退場したほうがよろしいようだ」

「わしはようやく自由を手に入れた。エリクシルを探し、まだまだ生きるぞ。さらば。コルホズ博士」

 グローフェが右手を下ろすと、黒騎士たちは銃剣でコルホズの身体を刺し貫いた。


 ―――


 キーン陣営


 キーン少佐が率いる軍勢は河の対岸に渡った。

 集まった兵士の数は、洪水と電撃でやられた分があるにせよ、予想より少ない。

 少佐のもとに伝令係が駆けつけた。

「少佐! シャイン将軍が北上し、トラバント城を目指しました」

「なんだと?」

 キーン少佐は顎をガツンと殴られたような、衝撃を受けた。

「血迷いやがって。なぜ俺の言うことを聞かない。あのバカ野郎。軍が割れた。本軍は大将がいる向こうになってしまったではないか」

「シャイン州から参加した兵士の大半は、シャイン将軍につきました。将軍はトラバント城を攻略して拠点とし、侵攻の体制を立て直すとか」

 もうそれ以上は話さなくていいと、キーン少佐は手を上げた。


「これは短期決戦でないといけねえ」

 キーン少佐は司令官用の山形帽子をかぶり、共にする兵士に向かって叫んだ。

「シャイン伯爵は、我々を見捨て、私利私欲に走った。これから西管区行政府を攻める! お前たちはシャインの兵ではない。イングリードランドの兵となれ!」

「国王万歳! イングリードランド万歳!」

 兵士たちが雄叫びをあげた。それに呼応するかのように、背後から複数の砲弾が頭上を飛んでいった。トラバント市街へ向けての砲撃だ。シャイン伯爵は要塞からカノン砲を発射するよう、命令を残していた。

「あの野郎、援護射撃のつもりか知らねえが、市街地を砲撃するのは控えろと忠告しただろ、俺たちに当たるだろ」

 キーン少佐はトラバント市街の侵攻を開始した。

 途中の道で、味方の砲撃で兵士が吹っ飛ばされるのは、何ともやるせなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ