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第41話 卒業試験

 ハイダカ山脈のうねる峠道をゆく、シャイン伯爵率いる列の長い軍勢は、遠目で大きな蛇のように見えた。

 向かう道で、伯爵は非戦闘員の領民にカノン砲を運ばせ、兵士を三百台の馬車に代わる代わる乗せて、できるだけ消耗を抑えた。

 山頂を越え、ハーベストランド軍が要塞を構える十五キロメートル前まで迫った。

 この場所から敵の要塞に迫撃砲をぶつけて先制し、敵が慌てたところを、機動性に富む黒騎士でとどめを刺すという作戦をキーン少佐が立案した。

 

 先頭をゆくシャイン伯爵は、馬の踵を返して数千の兵士たちと対面した。

「いよいよ戦いが始まる!」

 彼の一声に、兵士たちが雄叫びをあげて答えた。

「まずは、我が州民の諸君をねぎらいたい。重いカノン砲を引いての峠越え、まことにご苦労であった。戦いは我々軍人に任せてほしい。州民は帰途につけ」

 兵士たちは、州の領民をねぎらい拍手した。

「シャイン州万歳。シャイン・フォン・ブラッド万歳!」

 州の領民たちは、誰もイングリードランド万歳とは叫ばない。

 領民たちは、シャイン州を貧しく追い込んだのは、イングリードランド本国キャピタルと、敵国のハーベストランドであると考えていた。州の官僚の宣伝でそう思いこまされていた。


 馬上のシャイン伯爵は、喝采を受けたあと、静かに口を開いた。

「我は、新しい秩序を構築しようと決断した」

 皆が息を飲んで注目する。

「我はトラバントを解放するため、ハーベに宣戦布告した。必ず勝利する。我が州はトラバントと合体し、新しい国家となる」

 どよめきが起こった。

「兵の諸君! これから本番だ。カノン砲を配備し、発射準備せよ!」

 幅が狭い峠道にカノン砲が並んだ。

 技師が双眼鏡をのぞき、方角と着弾位置を確認する。

 伯爵は目を閉じ、深呼吸をしてから叫んだ。

「一斉砲撃、開始―! 錬金術師の国を圧倒せよ」


 ―――


 峠の要塞で敵を待ち伏せるハーベストランド軍は、突然、砲撃の雨に襲われた。

 轟音とともに地面が割れる。 

 要塞はドーム型の堅牢な石造りのトーチカ群であるが、衝撃波でもろく崩れていった。

 混乱した兵士たちがトーチカからはい出すと、絶え間なく降り注ぐ迫撃弾の餌食になっていく。

 その場にディータ・ラウズがいた。

「トーチカが役に立たない。そりゃそうだ。イングの施設をマネして錬金術師が物質変形で急ごしらえしたものだからな。強度とかないんだろ」

 敵は遠くから狙いを定めている。

「脇道に逃げ込めー!」

 ディータは声が届く距離にいる兵士たちに向かって叫び、峠道から離れて林に隠れた。


 ―――


 リリイとコルホズ博士は、ハイダカ山脈のふもとの河川に架かるハイダカ大橋で待機していた。

 軍の伝令係が現われ、命令書をコルホズに渡した。


『ハイダカ大橋を破壊せよ』


 ハイダカ大橋は、山脈の峠道とトラバントを結んでいる。

「冗談でしょ。橋の向こうに、ディータたちが行ってる。橋を壊したら、帰って来られないじゃない?」

「敵にこの橋を渡らせてはならないということだ。うむ。敵がこの橋を渡ったら、トラバントの市街は一気に攻められる」

 コルホズ博士は納得している。

 リリイは目を細めて反対側の崖を見すえた。

「軍は非情ね」

「非情でない軍などない。ディータ・ラウズなら大丈夫だ」

 コウホズ博士はリリイの肩に手を置き、励ますように力を込めてゆさぶった。それから駆け出して、橋脚に円形の錬成陣を描き始めた。

「どうやって破壊するか。私は考えたぞ」

「錬成陣から爆発を起こすの?」

「そうだ。リリイ。お前は火の属性でないから、私の真似でいい。そのほうが良い点をつけてやる」

 軍のミッションが錬金術学院の実技試験を兼ねているが、試験のことなど、リリイはどうでも良くなっていた。

 リリイは橋を渡り、対岸の橋脚に白チョークで錬成陣を描いた。

「先生は物質変形を考えずに、お得意の炎でゴリ押しか。軍人が一番向いているわ」

 リリイはハーベ側に戻った。

「術の発動はお前がやれ」

 博士が命令する。

 ハイダカ大橋の先に、ディータ・ラウズがいる。


 ごめんね。

 帰る道を壊して、本当にごめん。

 本当にごめんなさい。

 

 涙が浮かんで視界がぼやけた。胸が痛くなった。

 声を引き攣らせながら、リリイは炎の術の詠唱を始めた。

 橋脚に描いた円陣から青白い光が放たれた。円柱の橋脚は火柱に包まれて、高熱で橋が崩壊した。

「よくやったリリイ・メディナ。卒業試験は合格だ。私が見届けた」

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