第31話 エリクシルのつくり手
「クリストファー・ローゼンクライツ。とても格好いい方ですよね」
トラバント城の人間は、目立つ銀色の馬車で街に来るので、カルアは幾人かの顔を知っている。
「ローゼンクライツの前に、わたくしのことを話さなくてはね。わたくしは、いま、エリクシルをつくるために幽閉されています。わたくしは月に一度、外に連れられて、錬成陣の上でエリクシルをつくる。体力が落ちて最近はわずかしかできなくなっているけれど」
「無理してエリクシルをつくっていらっしゃるのに、その待遇はひどくないですか。もしかして、管区長のドリュー・ベベトが悪いのですか? ベベトがヴァネッサ様を捕え、エリクシルをつくらせているのですか?」
ヴァネッサは頷いた。
「では、お話しましょう。先の戦いでイング軍が攻め込んできたとき、ハーベ軍は山脈の峠で撃退できたのです。だから敵はトラバント領内に侵入できなかった」
「でも、お城は戦火に包まれましたよ? 私は街から見ていました」
「あれは、戦乱にかこつけて、ドリュー・ベベト率いる軍勢が攻めたのです」
「ええええ」
「狙いはわたくし」
「ローゼンクライツは?」
「彼は前線でイング軍と戦っていました。彼は自分が『黄金の錬金術師』である記憶を消されています」
「誰が彼の記憶を消したのでしょう。もしかして?」
「ベベトではないかと」
「クリストファー・ローゼンクライツはベベトの悪行に気づかないのですね」
「彼はいま、わたくしの子供たちを守っていますが、かつての彼にはとても任せられません」
「えっ、どうして」
「ローゼンクライツは、世界を支配する野望を持っています。彼は錬金術師の集団をつくり、ベベトも仲間でした。集団には彼の恋人もいました。彼らはトラバントを征服するためにやってきたのです。ただ、陛下とローゼンクライツは意気投合し、研究にのめり込んでいました。ベベトは野望を捨てず、政治のほうに向かいました。ローゼンクライツはベベトに裏切られたのではないかと思います」
「♪女は話相手ができるとぺらぺらしゃべる~、かしましい、かしましい。かしましいったらありゃしない」
暗い留置場に場違いな幼女の声が響く。ヴァネッサとカルアは会話をやめた。くるくる廻って踊りながらドリュー・ベベトがやってきた。




