第3話 試験の選択
「さて、君たちは卒業試験を残すのみだ」
コルホズ博士の声で、リリイは回想から戻った。
「聞くまでもないが、一応確認する。ディータ・ラウズは実技でよいな?」
「それしかないですね」
彼は即答した。
ハーベストランド錬金術学院の卒業試験は、実技か論文を選択する。
実技は、学生が教官たちの前で術を披露する。
もともと素質のある者が入学するので、実技はたいして難しくない。学生たちは学んでいくうちに、自分の得意な術の傾向を知る。たいていは、火、水、風、土の属性に分かれる。
自分の属性を知り、その属性の術を磨く。
火の使い手ならば炎柱を立てる。水の使い手ならば、水面に氷柱を立てる。風の使い手ならば、かまいたちを起こし、土の使い手ならば、土から人形をつくり動かしてみせる。
難しい術を実演すると点数が高くなる。
論文は、錬金術の秘蹟について、科学的に解き明かすもので、大変難しい。
ハーベストランドにおいて、論文試験を通った者は『錬金術博士』としての名誉と、高待遇が約束される。
コルホズ博士は、地面に描いた円形の錬成陣の周りに焔をめぐらせる術のメカニズムを解明した。
「リリイ・メディナ君はどうする?」
彼女は黙った。
ろくな術も習得できないまま、学院を去るのをくやしく思った。もっと、錬金術を勉強したかった。
「私、論文を書きたいんですけど」
リリイは言ってすぐにまずいと思った。
博士の表情を見れば、それはその場しのぎの出まかせと受けとられた。
コルホズ博士は溜め息まじりで彼女をさとす。
「気持ちはわかる。君には能力がある。だが錬金術の成績は、かんばしくない。論文は、相当の実力の持ち主じゃなければ、何年かかっても書けやしないのだ」
リリイはたくさんの錬金術の教本を読みこんだ。
テキストに描いてある練成陣を、床に描き写していろいろな術を発動させたが、その仕組みはさっぱり理解できなかった。
自分は何になりたいんだろう。
何をしたかった?
何をするためにハーベに来たのだろう?
急に疑問が湧きいでて、頭の中を駆けめぐる。
もっと、時間をかけて勉強すれば、何かをつかめるかもしれない。
「途中から入学した私には時間が足りなかった。だから……、学院に残りたいです」
「学費を出してくれる君の親と相談したのかい?」
「いえ……」
「リリイ。お前は就職の相談をするために、先生のところへ来たんじゃなかったか?」
ディータがわりこんだ。
「わかってる」
するとリリイはポニーテールを前に垂らして頭を下げた。
「先生。私、まだ進路が決まってません。どこか行く先を紹介してくれませんか」
「君は、成績はともかく実力はあるのだから、働き口は困らないと思っていた」
「先生が辛口な評価をつけるから、私の成績はボロボロ。でも、実際そのとおりだったかもと思ってます」
いつも強気な少女がへりくだっているので、コルホズ博士は、彼女がよっぽど切羽詰まった状況にあるのだと察した。
「よろしい。ちょっと待っていなさい」
博士は老眼鏡をかけて立ち上がり、戸棚のファイルから一枚の紙を取り出した。




