表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/54

第25章 瞳の色がわたしと同じ

 話し込んだリリイとアーリィは、すっかり腹が空いていた。リリイは、この地にやって来て初めて入った店『カリキ』で食事しようと思ったが、あいにく土地勘がなくて探せない。


 街路にて背中に大剣を差す男がリリイの目に入った。そんな格好をする人間は一人しか思い当らない。

「ディータ! 久しぶりー、訓練は順調?」

 駆け寄って彼女は馴れ馴れしく男の厚い胸をひっぱたいた。

 ディータ・ラウズは不意をつかれ、のけ反った。その刹那の中でも、視線はリリイのワンピースの腰つきに向かった。それから、彼は青ざめた。

「顔を合わせなかったことにしてくれ」

「は?」

 リリイは大剣の鞘を掴み、ディータの動きを止める。

「離せ。離してくれ」

「せっかく私に会って、その態度はないでしょ? 誰と会うの? 女?」

「違うって」

 ディータは即、否定する。


 ディータはリリイの連れの少女に気づいた。彼は彼女にいままで会ったことがあるような、ないような不思議な感覚を覚えた。

「アーリィよ。いっしょの錬金術学院に通っていたでしょ?」

 リリイは当然知っているよね、という口調で言う。

「どうも、ディータ・ラウズです。はじめまして」

「やっぱり、はじめましてなの?」

 リリイは残念がる。

 やはり、アーリィは錬金術学院でディータを眠らせて、彼女についての記憶を消したのだ。

 アーリィは三角帽子を深くかぶり、目を合わせないようにしている。彼女には彼の記憶を弄ったという罪悪感があった。

「これから、知り合っていけばいいのよ。同じ学院生どうし仲良くしていけばいい」

 リリイが間に入り、二人の肩を軽く叩いた。


「さて。それで、ディータは何をしているの? この時間じゃあ、軍の駐屯地にいるはずよ。街をほっつき歩いているのは問題よ」

「キャンプでも飯はでるけどさ、ずっとあそこにいると疲れるよ。気分転換しないとな」

 ディータは今、イングの軍人を追う任務中にある。

「仲間は? ひとり?」

「今日はたまたまひとりなんだよ!」

「ふーん。私たちも夕飯まだだからさ。どこか行こうよ」

「じゃあ、カリキって店どうかな」

 任務としてはりこむべき場所をディータは提案してしまった。リリイといっしょにいたいという誘惑に負けたのだ。

「カリキ。いやー、私もそこにしようと思っていたの。場所わかんなくてさ。連れてって」

「う、うん。お前も行ったことがある店か。いい店だよなあ」

「アーリィも来る、よね?」

 アーリィは三角帽子のつばを上げた。彼女はリリイとディータがわりと仲が良いのは知っている。けれども、リリイを独占されたくない。

「私が邪魔にならないのなら、ご一緒させてもらうの」


 ―――


 三人は歓楽街の一角にある酒場『カリキ』にたどりついた。

「こぢんまりとした店なのね」

 プレートの案内文にはイングリードランド風料理の店と書いてある。

「イング料理は港町の生きのいい海産物が売りよ。内陸トラバントにあるのが不思議でしょう」

 まだ二回目なのにリリイは常連のふりをする。

「じゃあ、ここに決めよう」

 ディータは店の扉を開け、まわりを見回す。

「いらっしゃいませ。お二階へどうぞ」

 店の娘カルアが出迎えた。

 今日も一階のテーブル席はすでに埋まっていた。二階はあとひとつのテーブル席が空いていた。隣に長身の男がビールを飲んでいた。


 リリイがメニュー表に目を通す。

「お肉にしようかな。サーロインステーキ。おいしそう」

「さっき海産物がいいって」

 アーリィがリリイにつっこむ。

「私、肉すきだもん」

「ここは肉料理がいけるぞ、あとビールだ!」

 隣のテーブルの男が声をかけてきた。

「うん。やっぱり、肉にしよう」

 リリイは隣の男に愛想笑いを送った。髭面のいかつい顔をした酔っ払いは怖い。男はイング人特有のグレーの瞳をしていた。店の娘もグレー色の瞳だ。

「私ハンバーグ」

「俺サンドイッチ」

 アーリィに続き、ディータは小さな声でオーダーする。

「軽くない? お腹壊してるとか?」

 リリイが反応する。

「いやあ、早く来そうな物を注文した」

「ハラペコなら、サンドのほかにメインを頼めば?」

「いや……」

 どこかうわの空なディータを、リリイは不審に感じた。

「門限?」

「あ、ああ。そうだ」

 隣の男はチラチラこちらを伺っている。特にディータが持つ剣に注目している。


 しばらくして、カルアがステーキを運んできた。

「毎度ご利用ありがとうございます。肉汁がはねますから、前掛けを使ってください」

 カルアはリリイに会釈した。娘はリリイの顔を覚えていた。

「なかなか流行っているじゃない」

「いま、夏ですからね。観光客も寄ってくれますし」

 カルアと会話している間、隣の男は鋭い眼光をリリイたちに向けていた。


 空いたグラスを下げるカルアに男は話しかけた。

「そろそろ出て行く。色々と旅の話をしたかったぜ」

「じゃあ、気をつけて。本当に気をつけて」

 いかつい男はカルアの手の甲に名残惜しそうにキスしたあと、重そうなリュックを背負い、階段を降りた。そのとき、ディータが席から立ち上がった。

「あいつ。イングの軍人だ。あいつを捕まえないといけない」

 リリイは肉にナイフを入れる動作をとめた。

「あんたあの男と視線を合わせていたよね。いったいあんたらどんな関係なのよと心配したわ」

「冗談はそこまでだ。俺はあいつを捕まえる任務中だったのだ。ここで待っていてくれ」

「私が大人しく待っていられるわけないでしょ」

「頼む、ここにいてくれ」


 ディータが店の階段を降りると、カルアが扉の前に立っていた。

「通せません」

 カルアの瞳から幸せそうな輝きが、にわかに失われていた。

「お姉さん。あいつ軍人だろ? 俺を外に出せ」

「逃げて!」

 カルアは通りに向かって悲鳴に近い声をあげた。

 セオドア・キーン大尉は、彼女の声を背に受けて、振り返らずに駆け出した。

「どけ!」

 ディータはカルアを強引にはじき飛ばし、追いかけた。

「ちょっと、ディータを追いかけるわ。アーリィはここにいて」

「私も行くの」

「いい、私がなんとかする!」

 リリイはテーブルの上に金を置き、急いで席を立った、しかし店先でカルアに左腕を強く掴まれた。

 カルアの綺麗に編んだ三つ編みの茶髪はふり乱れ、目から零れた滴がメガネの硝子についている。

「私たちの幸せを壊さないでくれる? 同郷のイング人としてのお願い!」

 同学のよしみ同郷の好。どちらを優先するべきか?

「イング人とか何人とか、関係ないし。あの男があなたの大切な人なら、私は暴走する馬鹿ディータを止めなくちゃ、さあ、手を離してよ」

「お願い。キャプテンを逃がしてあげてください」

 カルアの掴む手を振りほどき、リリイは通りに出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ