第24話 約束
「話してくれてありがとう」
リリイは、アーリィの肩に手を置いていたわった。その肩はとても小さく感じられた。
リリイにはまだ、気になることがある。ディータがアーリィのことを忘れてしまった件だ。
「あなたが術力を得るための『対価』って、もしかして……」
リリイの疑問にアーリィはひとつ息をつき、観念した顔つきになった。
「私は……、相手の頭から、【私の存在を消さなければいけない】の。私のことを忘れてもらわなければいけないの」
「なんてこと……」
錬金術学院の教官室でコルホズ博士は眠っていた。あれはアーリィが術をかけたのだ。博士はもう、アーリィのことを思い出せない。
アーリィはいままで悲しい犠牲を払ってきたのだ。
「忘れさせることで、術力をチャージするの。そうしないと、私は力を維持できないの」
もし、アーリィがリリイの記憶を弄っていたら、いまこうして話すことも、いっしょに出歩くこともできなくなっていた。
「あなたとの思い出を、人の記憶から消すなんて……。人の記憶を操るなんて、一番やっちゃいけないことよ」
リリイは相手のためを思って言った。そんな犠牲を払うくらいなら、錬金術師なんてやらないほうがいい。
「私の力は、エリクシルで得た。所詮まがい物なの……。リリイみたいな才能は、私にはないの!」
夜の街にアーリィの叫びが響いた。通りを歩く人々が、何事かと二人に目をやった。
アーリィはリリイのことが羨ましかった。
風の属性の持ち主として、天性の力にあふれている。おまけに容姿が良いから(ちなみにアーリィも良い)、クリス、レミーもアムブロシアも、さっそく彼女の魅力に惹き込まれている。
「学院の人たちとの関係を切るなんて、ひどい」
「人に記憶されないって生き方は、私にはとても都合が良かったの。目立ちたがりな、あなたと違って!」
アーリィの言葉がリリイの胸に刺さった。リリイは気づいた。アーリィは錬金術師になりたかった。そして、錬金術師として生きていこうとしている。
「私の記憶を消さなかったのはどうして?」
リリイの質問に、アーリィは、すこし間を置いて答えた。
「それは……、ク、クリストファー・ローゼンクライツが、私にあなたをこの地に連れてこいと命令したから」
「えっ、クリスが私を?」
「あなたは素質があるから、クリスが目をつけたの」
彼が注目していると考えると、なんだか気恥ずかしい。
「クリスは黄金をつくれるって?」
「つくっているところを見たことはないの。あのとき『黄金の錬金術師』を自称していたの。でも、私が城に帰ってから、彼の感じが変わっていたの」
「どんなふうに?」
「自信がないというか、焦っているというか。もっと彼はすごかったのだけど。あと、ステファニーも腕のいい錬金術師よ。でも、いまはふつうのメイドになってるの」
「話してみたら」
「機会があったらそうするの」
「あの、いろいろごめん。私、ちょっと上から目線だったかも。だけど、これだけは言っておくわ。対価を使わなくても、術を扱えるようにしなよ」
「できればいいけど」
「それがあなたの使命よ。約束して。もう、あなたのことを忘れる人は、金輪際いなくなる。いいわね?」
リリイは念を押すように三角帽子の下の少女を覗きこむと、彼女は黒い瞳を潤ませて、小さくうなずいた。




