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皇帝の勅命である港湾の改築のための準備がその内整い、派遣される部隊が組まれた。改築にまつわる諸事に携わる技術者と、賊などが出現した場合の護衛兵が、その主たる構成員だったが、護衛兵には、孫一が選ばれた。それは黄宇の意向だが、孫一が選任された背景には、黄宇の疎ましいという彼への悪印象があり、彼を遠ざけることで、あり得ると危惧される有事を事前に封殺する狙いがあった。孫一は王の配下として、唯々諾々と命令を聞き入れた。
部隊の出発の日は、好天だった。春の風が、足取りを軽くしてくれるように柔らかに吹いていた。
着物姿の白文と、常服の上に短い丈の甲片の鎧を纏った墨英が、城壁の上で、城門より整列し、青々とした平原に通る街道をぞろぞろ進んでいく仲間たちを見下ろしていた。
「いい旅になりそうだ」、と墨英。「何せ、これだけ晴れてるんだからな」
「といっても、あまり晴れやかではなさそうだけど」、と白文。
「そりゃ、喜んで出かけるヤツは少なかろう。孫一様たちは、勅命で仕方なく行かされるに過ぎないんだし」
改築に要される物資は、街より搬出するものがあれば、現地あるいはその界隈で調達するものがあり、大工事が予定されているが、荷はさほど多くなく、隊列はすっきりしていた。
『斉』の字のよく目立つ幟が、あちこちで風にはためいていた。
隊列の中程、つまり、比較的安全である位置には、技術者の長たちと、護衛兵の長が上等の馬に乗っており、白文は、武装した孫一の、威厳のある広い背中をじっと見つめた。一切振り向かずに行く彼の背に、何かが読み取られるようで、同時に、気のせいかと思うのでもあった。
「しかし合戦に行くわけでもないのに、何でわざわざ孫一様が遣わされることになったんだろう。賊みたいなケチ臭い連中を相手するには、あの方は強すぎて勿体ないと思うんだが」
「……」
独り言めかした感じの墨英のセリフに、白文はあえて沈黙した。
「なぁ白文、お前、王様の補佐だろう。何か知ってるんじゃないのか」
「適任だったから、としか僕は言いようがない。とにかく、王がご選任になったのであり、僕たちはそのご決定にただ服するのみ」
白文はきっぱり断言したが、墨英は、腑に落ちないという風にブツブツ呟いていた。
全てが順当に進んでいるのではないことは、白文には分かっていた。憂患はあるものの、表向きは平穏だった。
けれど黄宇は、それが彼の叛意を持っている皇帝の勅命であるということで、消極的に今回部隊を派遣するのだし、孫市は、黄宇に今回の任務を命じられ、どのように思ったのか、快く引き受けたのか、あるいは抵抗があったのか、白文においては、気になるところだった。
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