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黄宇には娘が一人おり、十二歳の彼女は、明敏で溌剌とした才媛で、大きい瞳が可憐だった。黄輝という。彼女の教育係に、白文が任命されており、彼は所定の時間、文字の読み書き、計算、歴史、地理といった科目を教えるのだった。
税収の一部が収入ないし、自由に使えるお小遣いになっている黄輝は、例によって、税収が漸減していることが、ちょっとした悩みの種になっているようだった。白文に計算を学んだ彼女は、税収の多寡が比較出来るようになり、ある時期から税収は、減る一方なのだった。
「お父様の政治、あまりうまく行っていないらしいわね」
黄緑色の着物に身を包む黄輝が言った。彼女は政治にじかに関わっていないが、お小遣いの少なくなっていることから、その明敏さによって推測されたのだろう。
白文は黄輝と共に、王宮にある彼女の部屋に、教育のためにいた。白文は、机の前に座る黄輝の傍らに、机の巾よりはみだして座っていた。王の娘に相応しく、部屋の隅には、天蓋付きの寝台の置かれており、窓帷が優美に垂れ下がっていた。
白文は渋面を呈し、ちょうどいい返事が思い付かず、答えあぐねた。
灯台で燃える火が、硯の墨に反映していた。
小首を傾げた黄輝に目を向けられ、「白文?」、と返事を促されると、流石に彼は黙り通すわけにはいかなかった。
「正直に申し上げますと、おっしゃる通りかと存じます」
「民が逃げちゃうのよね。税が重くて」
「左様ですが、姫様がお気になさるほどのことでは……」
気詰まりになって白文が言うと、黄輝は鋭い目付きになり、「いいえ」、と凛然として返した。
「これはよくない兆候よ。この斉という郡が、人々が安心して住めないところになってきてるってことでしょう?」
その気鋭さに、白文はいささか気圧されるようだった。
「全体的には住みよいはずなんです。道路は綿密に通っていますし、地域に合わせた律令の制定だって、粗雑ではありません」
「お父様の課す税が重きに失しているのよ。わたし、知ってる。お父様がお爺様に執着してること」
黄宇はひょっとして娘にまで、癖になっている皇帝への反感を口にしているのだろうかと、白文において想像された。
「歴史でやったわよね? 反乱について」
「確かに、歴史に多くの事例が残っておりますけれど、人心を軽視する共感性のない統治者は、反乱が打ち倒さんとする目標になります」
「お父様だって、その例外じゃないと思うわ」
すっぱり言い切ってしまう黄輝の度胸、あるいは明晰さに、白文は半ば驚嘆し、半ば呆然とするようだった。
実際にあり得る政変など、まだ幼い王女のわざわざ気にすることではなかったが、黄輝はすぐれて明敏であるがゆえに、懸念しているようだったし、また、気にしなくていいはずの彼女が気にせざるを得ないほど、この郡の状態が悪化していると言えそうだった。
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