(7)
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斉の民心が芳しいものではなくなっていることに、黄宇は薄々気付いていた。
だが、彼は地方の王としてのいささか鬱屈した劣等感の滲む矜持によって、自信と頑強さと共に、王座にどっしり座っていた。
「白文よ」、と王はしばしば呼びかけて、冷然とこう言うのだった。「向上心のない者は虫けらに過ぎぬ。場末に、村落に、そういう者はウジャウジャ溢れている。まさしく夥しく蠢く虫どものようにだ」
その話が口にされるのは、決まって黄宇が執務室などで白文と二人きりでいる時に限られた。
白文はいつも、困惑を隠し、実際同意はしていないのに、「はい」、と恭順に首肯して見せるのだった。
「そういった程度の低い連中は、搾取されて当然だし、そこに同情など、毫末もない」
またこの話か、と白文は少し呆れて思った。湖畔の農村への未納税者に関する調査より前のことだった。
「わたしの政治を徳としない愚民がいるようだが、わたしが圧政者として気に食わないというのなら、打ち倒してみせよと、そう思うのだ」
「殿下のご威勢は斉中に知れ渡っていることと存じます。反旗を翻すほどの勇ある者など、いないのではないでしょうか」
その賛辞に、黄宇はどこか悦を感じたようで、彼の口角が少しだけ上がったように白文には見えた。
「わたしはこれまで刻苦勉励してきた。もちろん、偉大になるためにだ。この広大なる国土を統べるに相応しい血族の者として。だというのに……」
そこで黄宇は、座っている椅子の肘掛に拳をドンと打ち下ろし、憎々しそうに顔を歪めた。
「あの楊権という老いぼれが、わたしの栄進の道を閉ざしたのだ」
黄宇は、ギリギリと歯軋りした。
「ヤツはれっきとした父だが、すでに老境におり、種々の点でわたしより劣等なのに、相応しいこのわたしを差し置いて玉座に居座り、挙句、ヤツより優れた才人であるわたしに対して、不遜に、港の改築をしろと命令したのだ!」
白文は緊張して来、息を飲む音さえしないように厳粛に正座していた。
「母上の出自が何だというのだ? 母上は、わたしの天与の才知を伸長させてくださったかけがえのない恩人でいらっしゃる。あの男はわたしのみならず、母の願いさえ無惨に破り、コケにした。母は、家柄が芳しくないということだけで、子を産まされた後、蔑され、ご病気を患われたというのに、優先的に手厚い看護を受けられず、逝去してしまわれた。何とおいたわしい……!」
黄宇は、目を潤ませた。その憎悪と悲嘆と郷愁の複雑に滲む表情を窺うように見て、白文は、覚えなかったはずの同情を覚えるようだった。
黄宇は目元を拭うと、「わたしは虫けらではないつもりだ」、と毅然と言った。「わたしは愚民どもから搾れるだけ搾り取り、富国強兵に努め、いつの日か、あの老いぼれのいる王朝に襲い掛かってやると心に決めている。わたしの尊い願いのために、くだらない虫けらどもへの気遣いなどしていられるか」
白文は怯懦を覚え、「はい」、とやはり恭順に返事し、すると黄宇は、満足げにするでも不満げにするでもなく、スッと椅子より立ち上がると、彼の目の前を殺気を纏って通り過ぎ、部屋より出ていったのだった。
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