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斉郡の税収は、納税者である民の逃亡などの影響によって、次第に不安定になっていった。
この状況を問題視した官僚から、その旨が黄宇に伝えられると、戸籍との照合による調査が命じられ、行われる運びとなった。
白文は、調査のため派遣される調査員たちに随行することにし、街を出た。ロバに乗った白文と調査員たちは、馬に乗った少数の護衛兵たちと、春風の瑞々しく吹く平原を駆けた。
街を囲う四角い城壁の外側は、広く田園地帯であり、しかし例によって、放棄された耕地がポツポツ見え、若い稲が植わる正常に運営された水田の間に、雑草がはびこって土壌のひびわれた荒れ地があるのだった。
街の南方に湖があり、そのほとりに農村があった。調査員たちはそこに向かい、ロバを下りて護衛の兵に待機させると、各戸に事情を聞いて回った。
田園地帯の田畑には、税が治められていないことが如実に分かる荒地があれば、その一方で、税が治められるべき正常の状態であるにも関わらず、納められていないところがあるのだった。その田畑の管理者である農民の男に話を聞くと、彼等は税の督促に来られていくらかビク付いたが、このように申し述べるのだった。
「確かに耕作しておりますが、税はお納めしておりません」
男が、未納の税に関して回答する。
「いかなる理由によってか?」
調査員たちの中でいちばん位の高い者が、どこか怫然として尋ねる
「与えられた土地に相応の納税の義務が発生するのは、常識であろう」
白文は、彼等のやり取りを傍聴していた。
「承知しております」、と農民。「ですが恐れながらわたしは、お与えいただいた土地を、このところの重税の負担に耐えかねて寄進しましたゆえ」
「寄進だと?」、と調査員は半ばびっくりし、半ば怒って聞き返した。「いったい誰に寄進したというのだ?」
「孫一様にございます」
調査員たち及び白文に、サッと電撃が走り、彼等は一同ギョッとした。
「孫一様というと」、と調査員の一人が訳知り顔で、ヒソヒソ話するようにささやいた。「斉軍に属する武将です。かなり腕の立つお方でして……」
白文は、黙然と思考した。事情はこういうことになっているようだった。すなわち、この農民の男は、最近の税負担を苦に、制度で付与された土地の所有権を、猛将である孫一に譲渡し、そうすることによって、斉軍所属の者の免税の特権にあずかったのである。
「お役人様。実のところ、納税してはいるのです」、と男が言う。「納付する先が、王様ではなく、孫一様に変わっただけのことでして。何か問題がございますでしょうか。斉軍の孫一様に納税することは、斉そのものに納税することと同じかと思われますが」
ひどい理屈だと調査員は感じてムカムカしたようで、しかめ面になった。
「手続きの変更は、役所を通してするのが筋だろうが」、と彼が呶鳴りつける。
「そうですが、孫一様がじきじきに許可すると仰ってくださったものでして」
話は平行線になりそうだった。
調査員たちは、納税しない下々の不届き者のところに赴き、処罰すると一言脅しさえすれば、ことはすんなり解決すると踏んでいたようだった。だが、彼等の目前に、不意に彼等より立場が上で、また武芸で名のある孫一という将が立ち現われ、オロオロ動揺させた。
孫一の屋敷は、この村とは別のところにあり、彼のもとに参じるには、その前に献上品を用意したり、正装したりと、準備が必要だった。
調査員たちと白文は、ひとまず街まで引き返すことにした。
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