(5)
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何かにこだわって対立するよりは、慎んで謙譲する方がいいと思って、白文は生きてきた。育ててくれた乳母や白林に、教育してくれた宦官の教師に、彼は従順に接してきた。元来が穏やかで温順である白文は、言われた通りにすることが得意で、けれどその内、言われた通りにすることが、必ずしも正しくてよい結果に繋がるとは限らないと疑わしく思わせる事象に際会するようになった。
今回の黄宇の件についても、白文は、確かに皇帝の勅命ではあるけど、他にやりようがないものかと悩んだ。勅命を受けたのは郡の首長である黄宇であり、その内実は出費の嵩むものだったが、その補填は、民の納税で賄われるのである。白文の友人の墨英が、民の脱走について口にしたが、彼等は税の重さに嫌気が差して逃げたのである。税を納める主がいなくなるというのは、政治として本末転倒であり、けれど、黄宇はてんで取り合う気はなかった。彼は民の立場になって考える習慣がなく、ただ上の立場として命令を下すだけであり、治者としてあまり明るい人品ではなかった。街の周囲にある農村の、個人や家族に対して割り当てられた田畑には、管理が義務付けられているにも関わらず、荒れ地と化しているものが出てきており、重税が苦になって手放されたのであるが、農民に対する援助は皆無だった。税関連の諸事に携わる官僚たちは、税が徴収出来ず、どうしたものかと悩んだ。
特にためらわずにたやすく田畑を放棄して逃走する個人や家族がいる一方で、重税の負担にじっと耐えて勤勉に耕作する奇特な者がおり、けれど彼等とて、逃げ出すまでは時間の問題だった。
若い稲が整然と植わっている水田のへりに、足を水に浸けて座り、二人の百姓の男が話していた。晴れた春の空は麗らかだったが、彼等を包む空気はどこかズンと重かった。
「こんな生活、長くは続けられねぇ」
「作っても作っても、ほとんどがお上に取られちまうものなぁ」
「うんざりして逃げる連中がいて、おれはアイツらを怠け者と思って軽蔑したけど、最近は、逃げるのがいいって気がしてる」
「お前さん、知ってるか?」
と、一人が内緒話でもするように、声をひそめて聞く。相手はきょとんとし、知らないという感じだ。
「『孫一』って男がいるだろう?」
「この辺を取り締まってる武将じゃないか」
「あの男が、今田畑の寄進を求めてるんだ。寄進すれば、税は免除になるって話だ」
「何だって?」
百姓は驚いて目を丸くした。
「訳あって公表してないが、事実らしい。おれは寄進しようとほとんど腹を決めてる。これ以上、驕りたかぶった王様のために労働なんてしてられねぇ」
「今ある税がすっかりなくなるっていうんなら、おれも……」
――彼等の話によると、孫一という武将は、田畑の寄進を受け付けるだけでなく、放棄されて荒れ地となっている田畑を回収しているようだ。なぜ税が免除になるかは、彼等にも分かりかねるようだったが。
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