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黄宇の指示に従って、白文は、宮中の官僚たちに物資の用意を請い、港湾の改築の委任が出来る設計者と技術者を探し、また、物資の輸送路を定め、暫定的に日程を組んだ。事業には資金が欠かせないが、人手もまた然りだった。
黄宇が憤然としたように、斉郡の懐具合は、こういった突発的に発生する事業を難なく行えるほど潤ってはおらず、ではどうやって金策を進めるのかと言えば、単純明快で、すなわち民に徴税して絞り上げるのだった。
皇帝である楊権陛下がご提案あそばされたこととはいえ、港湾の改築というのは、瑞国の体面をよくする以上の意味は薄く、とどのつまり、見栄ばかりの誇示に過ぎないと、白文は内心思っていたし、口には出さないけれど、多くの官僚も同じ風だった。
街に出てめぼしい人材に相談に行った帰り、春の夕暮れの、ぼんやりかすんだ茜空の下、白文は王宮に向かっているところだった。彼は黄色の着物を着、頭には何も被っていなかった。サラサラの直毛はどこか優美だったが、背が低いのが彼の悩みだった。
「白文じゃないか」
ふと、声がかけられた。
俯いていた白文は顔を上げた。彼の前に、灰色で丸襟の一体型の着物を着た若い男が立っていた。腰に帯刀した彼は、『墨英』という名で、武人だった。彼は巡回の途中のようで、ばったり友人である白文と行き合わせたのである。通りには街に住む人々が歩いていた。彼等は、白文にはさほど関心がないのだが、墨英には、彼が警備の任に就いている兵士であるせいか、どこか避けるように、気遣わしそうに通り過ぎていった。
「王様のお使いか?」、と墨英。
「まぁ、そういう感じ」、と白文。「ちょっとした任務があってね、それで街中巡っていたのさ」
「くれぐれも身辺には気を付けろよ。ここのところ、民たちの気が立ってるからさ」
後半、墨英は声をひそめてささやくように言った。
「増税でだろう?」
白文の返事に墨英は頷くと、付いてくるように目配せして、白文はその仕草に従って追行した。
やがて二人が至ったのは王宮だった。広場のひと気は疎らで、彼等は、階段で基壇へと上がると、隅まで行き、そこで街並みの方に向かって並び立ち、それぞれ胸壁の上に腕組みした。背が低い白文と、背が比較的高い墨英が並ぶと、彼等は兄弟めいて見えた。
「ここ最近」、と墨英。「街から脱ける連中がよく出るんだ」
「警備の目をすり抜けて?」
「あぁ」、と墨英は頷く。「お前だって目にしただろうが、空き家になってる住居がチラホラある」
「そういえば」、と言って白文は、その日巡った通りの模様を思い起こしてみた。確かに、不自然に人の気配のない家屋が散見された。
決して不便ではないこの街。斉の首府として、便利に発展し、栄えたが、その発展は頭打ちになり、今は、どこか空気が陰鬱だった。
逃げ出したと思われる民たちの行方や、その目的などに想像力を働かせると、白文は、何だか胸が悪くなってくるようだった。
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