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母と離れ離れの白文は、折に触れて王宮にいる母に向けて手紙を認めた。母、白林の体調の具合と、後宮の様子について知るためである。年齢を重ねた白林は、もはや皇帝といっしょになることはなく、体が動く限り後宮のために働いた。年齢と経験がある分、白林は往時と比べて偉くなり、頼られ、しばしば他の女官たちに指示するなどしたが、後宮には厳しい規律と身分の意識があり、自分よりはるかに年下の皇后や上位女官には、頭を下げて言葉を慎まなければいけなかった。
さて時の皇帝、楊権は、頂点権力者として、王朝において、軍事、国政、文化の全ての中枢を担っていた。『瑞』国はその当時、朝貢関係にある周辺国と国交があり、それは必ずしも陸続きのところとは限らず、海の向こうからも、船を使って使節が、厳しい船旅の末、瑞までやってくるのだった。
『輪』という島国が東方にあり、歴代王朝が連続して交わった相手であり、要するに友好国だった。
友好国の使節は歓待してやりたいと思うのは人情の自然であり、楊権は、海のある斉郡に対して、すでにある港湾を華美に刷新して大船を受け入れられるように、また、飲食店や宿などの施設を充実させ、港町が興隆するように下命した。
この命を受けたのは斉王、黄宇だったが、命じられた事業に拠出される公金が微少で、大半の部分を郡の財政で賄わなければいけなかったので、常々王朝に反感のあったことが助け、激怒した。
王宮の、金屏風のある部屋にて、榻の上に座っている王は、皇帝の書状を両手で正面に持ち、まじまじと睨むようにして読んだ。
「アイツめ」、と黄宇が、暗々裏に皇帝を示して憎々しげにこぼす。「自分の思い付きでしようと思ったことには、自分で費用を出すのが正しい道理ではないのか」
彼の補佐である白文が、床に正座して静聴していたが、黄宇の虫の居所の悪さに、胸が苦しくなってくるようだった。
「仰る通りにございます。ですが、勅命とあれば……」
「皇帝と言えど、我々と同じただの人間に過ぎぬ!」
黄宇は叫び、書状をクシャクシャに丸めて投げ捨てた。紙屑となった書状は、白文の少し前の方に飛んできた。
その通りだ、といささか怯えた白文は思った。だが、皇帝というのは、星宿させ越えた遥かなる天涯にまします帝に選ばれし、神聖なるその代理者であり、その言葉は、いわば神の言葉であり、神の命令は、すなわち絶対のものだった。
そのことを、黄宇は恐らく分かっていて、こうして憤ってはいるが、実行せざるを得ないという心境にあるようだった。彼は顔を赤くして苛立ってはいるが、港湾の改築のために必要となる諸事に関して、白文に細かい指示を出すのだった。
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