(2)
***
斉郡王、黄宇は、まずまず満足した人物だった。
中央集権的体制の国にあって、皇帝の血筋に列する彼は、東方の海辺の郡である『斉』に封じられ、王として郡の統治に注力し、運営は、まずまず安定していた。農耕地の開拓や、道水路などの社会基盤の創設、整備を怠らず、民の生活は、取り除かれるべき苦難が取り除かれ、比較的易しかった。
くすんだ臙脂色の朝服を着用し、頭に黒い被物を被る、眉が怒ったように『八』の字になっている黄宇は、だが、安定した郡の状況にすっかり安んじ、惰性に陥っている嫌いがあった。
黄宇には根深い反感があった。それは、彼の出自に起因するもので、彼は皇帝と低い地位の女官との間に生まれた子であり、出世の道は、終端が初めからすでに決まっていた。中央に留まることはかなわず、地方の王になるのがせいぜいだった。彼は、彼より後に生まれたにも関わらず、女官の身分の高低によって彼より偉くなっているきょうだいたちが鼻持ちならず、けれど、彼にはどうしようもないのだった。
彼の反感は、蓄財という行為にしばしば現れた。
碁盤のように均整の取れた斉郡の街にある王宮は、王都がそのまま縮小された格好のものだった。
王宮の一室にて会議が行われており、黄宇が臨席する中、郡より小さい区画の首長たちが、行政にまつわる議題に沿って討論していた。
十六歳の白文は、黄宇と同じく、中央で養育された後、命令により斉郡に遣わされ、そこで補佐の任に就いていた。会議では書記として、議事録の作成に余念がなかった。
郡が更に細分化された各地に管理・監督のため任じられ首長たちは、それぞれ、公共事業の必要性を訴え、それは当然のごとく費用が伴うものだったが、あまり拘泥しない黄宇は、安易に許可を出した。白文は内心で疑義を持っていたが、補佐として従順に受容し、口にされた言葉を、淡々と帳面に記入していった。
「いい事業を行うには、いつも多額の費用が要るなぁ、白文よ」
と黄宇は、どこか興が乗ったように、会議が終わった後の部屋で彼に言った。四角い枠状に置かれた長机の外側には、ズラズラと椅子が並んでいたが、首長たちが去った後は、空席ばかりになっており、白文と黄宇の間は、少し隔たりがあった。
「仰る通りにございます、閣下」
「だが、その費用が足りないのだ」
「都に幾ばくかお借入れ出来ればいいのですが」
白文が、彼の思い付いたまま発言すると、黄宇はムッとして顔を歪めて呶鳴った。
「都に借りなんぞ作ってたまるか!」
――とにかく黄宇の反感は根深かった。彼は確かにその地位にまずまず満足していたが、都との関係については、常にくすぶるものがあるようだった。
***




